『第一話 策略』
湧き上がる歓声、どよめく観衆、スタジアムは大勢の人々で埋め尽くされていた。
「地位・名誉・金すべてをかけたRAISE FLAG選手権、その決勝が今ここに幕をあけます!強さ・速さ・高さを競い合うこの競技の頂点が今宵ついに決まります!………さぁいよいよ選手入場です!」
アナウンサーの掛け声に合わせて鳴り響くファンファーレ。屈強で精悍な顔つきをした選手たちがフィールドへのゲートをくぐり抜ける――――。
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・薄暗い路地裏
「――ぐわァッッ!」
鋭く重い拳が顔面にヒット、吹き飛ばされて壁に打ち付けられる不良。何名かの不良に囲まれるように1人の青年が立っていた。
「てめぇ、俺たちグランドブラウンズに手をだしてわかってい――ふごッッ!?!?」
「そ、そ、そうだ!ゴウさんがだまっちゃい――うべッッ!?!?!?」
「お、お、お、お前なんかゴウさんにかかれば一捻りだか――へぶォッッ!?!??!」
再び鈍く重い拳が3連コンボのようにそれぞれの不良にクリーンヒットする。そのまま地面につっぷすように崩れ落ちる不良達を眺めながら、
「ゴウだか何だか知らねぇが、先につっかかってきたのはてめぇらだろうがッ!…覚悟はできてんだろうなぁ?」
そう言い放つ少年は気合の入った表情で、最後に残された一人の不良を威嚇する。目の前にいる少年のとてつもない強さに臆し、取り残された不良は圧倒的にビビっていた。
「ま、ま、ま、待てって、話し合えば、わ、わかるだろ?」
無言で近づく少年。
「そうだ、金なら渡す、いくらほしい?」
さらに無言で近づく。
「頼むってぇ~俺だってやりたくてやってるんじゃないんだよぅ~。」
やめてくれと懇願する不良の言葉を無視し、拳を振り上げる。
「………歯ぁくいしばれぇぇええ!」
その言葉と迫りくる脅威に、いよいよ観念して覚悟を決めようとした不良であったが、一瞬の閃きで起死回生の策に出る。
「あ!!ゴウさん!!!」
そう言って後方を指さす不良、それを見て少年は反対の方へ振り向くが、もちろん振り向いた先には誰もいない。その一瞬の隙をつき不良は全力で逃げ出した。
「待ちやがれこのやろォ!!」
逃げた不良の後を追い、薄暗い路地裏をバケツやゴミ箱をかき分けて走る。実はこの少年が本作の主人公の【炎堂タイガ】である。比較的高めな身長に、挑発的なツンツンとした真赤な髪、刈り上げた側面には赤いメッシュが複数入っている。少し細身ではあるが、よく引き締まった筋肉質な体躯の青年である。どこの不良グループにも属さず、一人で噛みつくように喧嘩をするスタイルから、通称野良犬と呼ばれている。
タイガは一足先に大通りに抜け出した不良を追いかけ、勢いよく路地裏を飛び出す。
「まーたやってんのか。」
すると、飛び出した小道の脇に佇んでいたのは、幼馴染の親友【風間レン】であった。
「ッおッとッと、レンじゃねぇか。こっちはちょっと忙しいんだ。また後にしてくれ!」
ホッホッと脚をバタつかせながら早くいこうとするタイガを呼び止め、まぁまぁ落ち着けとたしなめるレン。
「いい加減、更生しろよなぁ……。父ちゃんや母ちゃんに申し訳ないって思わないのかよ?」
「会ったこともねぇ親の顔なんか知るか!それにあっちが先にしかけてきてんだよ!被害者はこっちだってのッ!」
「1人で4人もぶっとばす被害者がどこの世界にいんだよ……。」
頭を抱えるレン。少し間をおいて。
「エネルギーが有り余ってんなら、俺と一緒にRAISE FLAG出場目指すってのはどうだ?」
「オマェもしつけーなぁ。勝てないスポーツなんてやるだけ無駄だろ。」
「んなもんやってみなきゃわかんないだろ?」
「RAISE FLAG最低ランクのイーストメトロポリスが優勝ってか?ありえねえだろんなの?それよりアイツどっちいった?」
はぁーッとため息をつき、あきれながら無言で方向を指さす。
「サンキューなッ!」
そう言って勢いよく走りさるタイガを眺める。
「……………」
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・不良の集会場
「――ダレにやられた?」
筋骨隆々で大柄な男が重い口を開く。不良グループ「グラウンドブラウンズ」のリーダー【土橋ゴウ】である。
「はァーはァー…はァー…炎堂…タイガでッす…何人も…やられました…」
命からがら逃げきった不良は息を切らしながらことの顛末を話す。
「またアイツか、最近調子にのりやがって。一回痛い目をみねぇとわかんねーようだな……おい”お前ら”手え貸せや。」
そこには一見少年のように見える小柄な「ライトニングイエローズ」のリーダー【雷鵬セイヤ】と、スラっとした長身の「アイスブルーズ」のリーダー【氷室ジン】の姿もあった。ここでは不良グループのリーダーを集めた集会が行われていたのだ。
「ハハッだせーなオッサン、なぁジン?」
「興味ない。やりたければ勝手にやればいい。」
ゴウの申し出に対し小バカにした態度をとるセイヤと、興味がないと我関せずなジンに対し、「おめーらあんまり調子こいてんじゃねぇぞ?ゴウさんに失礼じゃねぇか?」と、子分が怒りを露にする。しかし、ゴウがお前は黙っていろと制止する。
「いいかお前ら、このまだとアイツにこの界隈の主導権握られちまうぞ?いいのかそれで?……いいわけねえよなー?だったら、あいつをぶっつ潰すの手伝えや。」
「ハッ、オレが野良犬風情に後れをとるわけネーだろ?」
「俺の邪魔をすれば殺る。それだけだ。」
危機感を煽るも相変わらず興味が無さそうなセイヤとジン。
「そうかそうか、元はうちのチームの因縁だからな。まぁ無理じいはせん。ただなぁ聞いた話によると炎堂タイガは小さいやつや女も狙うそうだ。」
もちろんそんな噂は誤報であるが、小さいと女という言葉に反応し、場の空気感が一変する。
「ヘー、小さいやつばかりねぇ。どんなヤツかと思っていたがとんだクズヤローだとはな。」
「女を狙うとは、許さん。」
恐らく二人のコンプレックスや何かに引っかかったのであろう。見事なまでに手のひらを返して共闘姿勢となった二人に、ゴウは少し動揺しながらも、
「お、おう、だな。……そうだな、俺に良い考えがある――」