12話:説得
「あ、あ、あ、あのですねタローさん! こ、ここ、こういったことは、お互いをよく知ってからの方が良いと思うのですが! い、いえと言ってもですね、べ、べ、別に嫌とか、そういう事を言っているわけではなくて、あ、あ、あまりに早すぎるというか――」
ケイティさんが私の部屋でベッドに腰かけながら両手を小さく盾のように前に出している。こういったポーズは拒否であることが多い。
確かに聖魔法を教えてしまえばケイティさんの既得権益を犯す事にもなるだろうから、普通は教えてと言われて教えることは無いだろう。
「たしかに……少し急ぎ足過ぎたかもしれません。こういった事はやれる時にやっておくに越した事はないかと思いましたので……すみません。浅慮でした。」
「や、やれる時にやっておく……は、はわわわ! だ、だ、だだ、男性はそういう傾向の人が多いとは聞いてましたが、は、はわわわわ! そ、その私は、あの、も、もっと時間をかけて、その、お互いの関係を! 関係を大事にした方がよいと思うのです!」
確かにケイティさんの言う事はもっともだ。
本来であれば彼女が私にならば既得権益を犯されたとしても良いと判断できる関係を築いてからお願いするべきことだろう。
だが……恩を着せるつもりはないけれど、私が翼竜から助けなければケイティさんも危なかったはずで既得権益を犯されるリスクを飲み込んでもらうことくらいはその対価として譲ってくれてもいいのではないだろうか?
もちろんケイティさんの既得権益を侵害するつもりなど毛頭ないから、そこをしっかりと説明すれば道は開けるかもしれない。
「ごもっともです。ケイティさんの仰ることは、その通りです。
ですので私は言えることはあまりありませんが、私はケイティさんの嫌がることをするつもりは毛頭ありません! 私を信じてくれませんか!」
「そ、そ、そ、そりゃあタローさんの事は信じますけど!」
「良かった。じゃあ問題はクリアですね。」
「え、えええ? あ、そ、そうなりますか? なりますか。……ええ?」
混乱しているように目をグルグル回しながら頭を押さえ始めるケイティさん。
その姿を見ていると強引に押し進めれば、なんとかなりそうに見えた。
腹を決めてケイティさんの両肩に手を乗せる。
「ひゃあ!」
「ケイティさん!」
「ひゃいっ!」
「私には、貴方が必要なんです!」
「……はひ。」
「私を信じてください!」
「………はい。」
下を向き、もじもじとし始めるケイティさん。
どうやら腹をくくったようで、だいぶ落ち着きを取り戻している。
これで自分のスキル『ラーニング』の説明を始めてもよさそうだ。
「あ、あの、タローさん……わ、私は、ど、どうしたらいいでしょうか……こういった事は経験がなくて……その。不安で。
た、タローさんは、その、経験も、あの、豊富なんでしょうけれど、わ、私は、初めてですから、その、どうしたらよいのかわからなくて。」
不安そうに胸元で手を結んでいるケイティさん。
今は話すよりも不安を和らげることを優先した方がよさそうだ。
「いえ、ケイティさん。実は私も初めてなんです。」
「けけ、け、経験がないのですか!? じゃ、じゃ、じゃあ私と同じ初めてという事ですか!?」
「えぇ。ですので、今後の事も含めて、お互いにとって良い関係になれるよう、ケイティさんにも遠慮せずにどうしたいかを教えてもらいたいのです。」
「今後……ですか?」
「はい。人生は長いですからね。お互いにとって良い関係になれるように。」
「人生……お互いに……」
ケイティさんの表情が、すっと微笑みに変わる。
「私は……タローさんと出会う運命だったのかもしれませんね……
わかりました。気が付くことがあったら遠慮なく言わせて頂きます。
ただ……どうするかは……タローさんにお任せしたいです。貴方に委ねます。」
「有難うございます。」
そういってケイティさんは目を閉じてベッドに横になった。
やり取りで疲れたのだろう。
「じゃあ、私のスキルの説明を始めますね。私には『ラーニング』というスキルがあって知らないスキルを学ぶことができるんです。」
「…………ん?」
「今日見た奴隷の呪いなんですが、聖魔法で解除できるようなんです……ただ残念ながらケイティさんの魔力量では足りず、私が聖魔法を覚えれば解けるようでした。」
「…………はぁ?」
「ですので、ケイティさん。是非聖魔法を教えてください!
もちろん私が聖魔法を覚えたからと言って、お互いにとって良い関係でいられるようにケイティさんの活動の邪魔になるような真似はしません! これはお約束します!」
「…………」
「ケイティさん?」
「あ、あの……ちょっと待ってくださいね。ちょっと頭を整理します。」
「無理もないですよね。『ラーニング』というスキルはあまり無いスキルのようですから理解も難しいかと思います。」
「いえ、そうじゃなくて。」
「んっ?」
「えっ?」
――この後めちゃくちゃ聖魔法した。
 




