10話:貴族の依頼(原文)
更新まで日があいてしまったので、これまでのあらすじを紹介。
オッサン雪かきしんどい
↓
子供危ない
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かばう
↓
トラックドーン
↓
神に出会う
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間違えたスマン
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えー
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超人化万能チートもらう
↓
異世界リボーン転移
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モフモフ再開
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連れてこ
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襲われるヒロインと出会う
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ヒロイン助けつつチート確認
↓
惚れられる
↓
気づかない
↓
同行して街
↓
門番からチュートリアル
↓
ギルドで絡まれる
↓
一撃ボコー
↓
ヒロインキュン
↓
ギルド受付けチュートリアル
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受け付けに勧められた宿屋行く
↓
メシものたりん。ちょっとコレ使え。
↓
マヨネーズウマー
↓
ギルドで受けれないランクのヤツ受けようとして怒られる。
↓
薬草採取ー
↓
ボコーされたヤツの画策で敵の群れに襲われピンチ
↓
群れボココー
↓
ギルドに報告
↓
ギルドマスターに目をつけられる
↓
とぼける ← イマココ
慌ただしくギルドから抜け出てミーナの宿屋の隣、ナーミの食堂での昼食へと逃げ出したところ、翼竜に襲われていたのを助けた貴族の執事であるクリスさんからの手紙をナーミから渡された。
早速中を確認すると謝礼の準備が整い明日、迎えを寄越すとの事。
この日は結局慌ただしく貴族と会うに当たっての最低限の身だしなみを整える事にして、ケイティさんに買い物に付き合ってもらった。
クリスさんから渡されたお金は貴族の前に出て恥ずかしくない服を買うと、ほんの少しだけしか手元に残らず、諸々見越した金額を過不足無く丁度良い具合に采配していたクリスさんがの能力に感心した。
手持ちが無くなれば普通は不安になるけれど、明日になればギルドでワイルドイーターの素材報酬が手に入るだろうから、そんなに不安になる事はない。
結局この日は翌日に備えてゆっくりと宿屋で休む。
ケイティさんが部屋に帰る時に何か言いたげな様子だったけれど、首を傾げつつ見ていると焦りながら部屋に引っ込んで行った。
まったく年頃の御嬢さんはよくわからない。
翌朝、朝食を終え、迎えに寄越された馬車に乗り込み貴族の屋敷へと向かうと、辿りついた屋敷ではクリスさんをはじめに8人程のメイドに迎えられ、すぐに見るからに高級そうな調度品のある一室へと案内され、つい口をだらしなく開いたまま見まわしてしまう。
「可愛い娘を助けてくれて有難うなぁー!」
「んおお」
すぐにやってきた恰幅のよい中年に抱きしめられた。
もちろん避ける事も出来た。だけれども相手は貴族なのだから、あまり邪険にしても良い事はないはず。
ただ、無駄に香水のいい匂いがするのが少し腹立たしい。
我ながら少し変な顔をしていたと思うけれど、貴族はまるで気にする様子もなくフレンドリーに両腕を取って振る。
ひょっとすると、この世界の貴族は気安い立場だったりするのかもしれないと認識を改めそうになったけれど、クリスさんと娘さんに『威厳が』と諌められていた。
どうやら、やはり貴族はもっと貴族然としているのが普通のようだ。
なんとなく貴族を鑑定をしてみれば、この人もスキルに『俺の娘がナンバーワン』があった。
もしかすると娘を持つと生まれるスキルなのかもしれない。
結局ひととおり感謝の言葉の後に、自分の娘がいかに可愛いかを語られ、報奨金が手渡される事になったのだが、突然視線が変化し、貴族然とした雰囲気が発せられる。
「ひとつ、タロー殿を有能な冒険者と見込んで個人的に依頼を頼みたい。」
「はぁ……自分はギルドに登録したばかりの駆け出しですよ?」
「いやなに謙遜の必要はない。翼竜を退治した様など娘やクリスから聞いている。そんな芸当が並みの冒険者にできるはずはないのだからな。」
「そうですよタローさん! タローさんは凄いから大丈夫です!」
「いやいや、ケイティさん。あまり私を持ち上げないでください。」
「あ、す、すみません! つい……」
「とりあえず、内容を聞いてから判断しても良いですか?」
「うむ。当然だな。単刀直入に言えば私の娘の『レベリング』を依頼したいのだ。」
「えっ?」
『レベリング』の言葉にケイティさんが顔を顰めた。あまり良い響きではないようだ。親父さんはケイティさんの表情を意に介さずにそのまま言葉を続ける。
「『レベリング』というのは冒険者の間で良く思われていないのは理解している。だが我々貴族の間では内々でよく行われていることなのだ。どうだろう? 引き受けてはもらえないか?」
「ご主人、ご主人。」
「なに?」
花子の念話が頭に届き、返事をする。
「『レベリング』は要はゲームで言うところの『寄生プレイ』でレベル上げさせて欲しいってコトだワン。レベルが上がれば身体能力なんかも上がるから死ににくくなるって事だワン。冒険者がレベリングを嫌うのは実力とレベルが乖離してしまう事が問題だからだワン。」
「あぁ、なるほど。レベル的に強いはずなのに実戦で役に立たないって事になれば確かに問題だもんな……」
「そういうことだワン。貴族の場合は戦いになっても指揮を取る事が多いからそんなに技量を求められないから箔付けの意味が強いワン。」
ちらりと貴族令嬢に目を向け鑑定すれば、レベルは4程度でステータスも低い。
目を親父さんに戻すと天を仰ぎ肩を震わせていて、思わずギョっとしてしまう。
「私は、今回の件で猛烈に後悔したのだ……娘はまだ13歳。命を狙われる事はないと苦労を先延ばしにしていた。
もし……今回タロー殿の助けがなければ……ワシは……ワシはっ!」
ガっと左手で自分の口を押えプルプルと震え言葉を堪える親父さん。
クリスさんもそっと視線を斜め下にずらし、貴族令嬢もそんな親父さんの姿を見て両手で小さく自分の口元を押さえている。
「もし娘のレベルが高ければ馬車を捨てて走り、逃げることができたかもしれない。生き残る選択肢も増えたはず。その考えに至り私は決めたのだ! 可愛い子だからこそ苦労をさせようとっ!」
そういって拳を強く握る親父さん。
クリスさんもうんうんと頷き、貴族令嬢も決心したようにゆっくりと頷いている。
「そして今、ここにタロー殿がいる。これは天のお導き! 運命なのだ! どうだろうタロー殿! 頼まれてはくれないか!」
ガシっと強く握られる手。そして熱い親父さんの眼差し。少しだけ腰が引ける。
クリスさんも貴族令嬢も縋るような眼差しを向けてきていた。
視線から逃れるようにケイティさんに顔を向ける。
「……素晴らしい父性愛ですね。」
うんうんと納得したように頷いていた。
その様子に逃げ場がないような気になってくる。
「わ、私はレベリングとかしたことないですから、どうやっていいかもわかりませんし無理ですよ! それに貴族のお嬢様のお世話とかで何か無礼を働くかもしれませんし!」
「なに、そこは安心してほしい! そういったことに造詣の深い戦闘奴隷を扱っている商人に渡りはつけてある! 場所も適した場所があるのだ! それに無礼を働いてしまうかもと今から頭を回すような人であれば無礼な振る舞いをするはずもなかろう! もちろん報酬も弾む! どうだ? 私と私の可愛い娘を助けると思って!」
「え? 奴隷? うぅっ……」
逃げられなかった。
「わ、わかりました……」
「おぉっ! 引き受けてくれるか! 有難う!ありがとうっ!」
またしても抱き着かれた。
だが、妙に抱きしめられる力が強い。
「……念の為に言うとくけど……ウチの可愛い娘を傷物にしたら許さんからのう……」
耳元で任侠映画に出てくるようなドスの効いた囁かれた。
離れた親父さんのニコニコとした表情からは想像もできない程の低く暗い声だった。
「う~ん。父性愛もなかなか深いワンねぇ。」
花子の念話にヒクっと自分の口が動くのが分かった。
「よしっ! ではクリス! 後は任せた!」
「はい旦那様。」
「では、タロー殿! くれぐれも娘のことを宜しくな!」
「それではタロー様。奴隷商人の下へ参りましょう。」
「え、ええ?」
あれよあれよという間に、またも馬車に乗せられ奴隷商人の館に運ばれていた。
「お待ちしておりましたクリス様。」
「今日はよろしく頼みます。」
「えぇえぇ。お任せくださいませ。」
恵比須顔を張り付けた様な肥えた男が揉み手のように両手を合わせたまま深く頭を下げる。
「ささっ、既にお見せして恥ずかしくないよう準備を整えてございます。どうぞこちらへ。」
先導する超えた奴隷商と後に続くクリスさん。
その後ろにケイティさん。そして貴族令嬢のロレッタさんと共に続く。
「さ、どうぞこちらです。」
奴隷商がそう言って扉の横に立ち先に進むように示すと、付き人が扉を開いた。
「きゃっ!」
「うぉっ……」
ケイティさんが顔を覆い、自分からも声が自然と漏れていた。
部屋には男女が首輪以外の何一つも身につけていない状態で5人ずつ、計10人が整列させられていたのだ。
話に聞いていただけあって戦闘奴隷らしく、皆引き締まった身体をしていて筋肉などの状態の確認の為なのだろうが、男女が同じ部屋で裸でいれば、それに身体が反応しないはずもない。
要するに男が皆、戦闘準備が整ってしまっていたのだ。
目を横に逸らすと、ケイティさんが指の間からしっかりと、そして貴族令嬢は平然とした雰囲気ながらも少しだけ頬に赤みがさしている気がした。
「ふむ……やはり男はいりません。万が一がありますからね。女だけを残してください。」
「かしこまりました……おいっ!」
冷静なクリスさんの声に、奴隷商が手を慣らすと付き人らしい人達が男達を移動させていき、部屋には女の戦闘奴隷だけが残された。
クリスさんが真剣に見ているので、私も腕を組み右手で口元を押さえながら確認する。
嘘だけれど、やましい気持ちはない。本当に。
ちゃんと鑑定もしてみて、胸は大きくないけれどレベルが23の人もいた。
「どれかお眼鏡に適った者はおりましたか? タロー様?」
「はい?」
「タロー様の奴隷となるのです。」
「えっ? お嬢様の奴隷ではないのですか?」
「貴族の奴隷はまた特別な権限をもちますから、それは難しいのです。
タロー様が宜しければですが、タロー様の奴隷として頂けたらと思っております。」
「要は教育のなってない者は貴族の奴隷に相応しくないから、今回の依頼の為だけの使い捨ての奴隷って事ワン。」
花子の補足説明に少しだけ眉間にしわが寄る。
日本で育った自分にとって、人身売買の忌避感は思いの外にあった。
「ご主人、ご主人!」
「なんだハナ?」
「なんだか変な気配があるワン! 強そうだけど……んん? ちょっと聞いてみて欲しいワン!」
「え? なんて聞けばいい?」
「他の奴隷も見たいって言えばいいんじゃないかワン? 地下にいるワン。」
花子の指示に従い奴隷商に地下に居る奴隷を見てみたい旨を伝えると、少しだけ奴隷商の顔が曇ったが案内してくれた。
地下には奴隷の居住区と小さな独居房のような施設があり、その独居房の一つにソレは居た。
 




