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十一話:司祭の企み

(どうして……どうしてここに、ベニマス司祭が!?)

(サーモンドだよ、クルリさん)


 エイトとクルリは壁画から離れ、暗闇に逃げ込んだ。

 大きな岩陰に隠れ、様子を伺う。


(どーして遺跡にサーモン司祭が来たの? 観光?)

(さぁ……)


「巫女の凋落は著しい! 求心力を失い、離心を招いている! だからこそだ。今年こそが正念場なのだぞ!」

 

 怒れるサーモンド司祭のあとに続くのは、小柄なローブの人物だ。顔は見えないが、体格からして成人ではないだろう。


「だと言うのに、先程の完成度はなんだ!?」

「申し訳……ございません……」


 透き通ったアルトの声が消え入りそうに答えた。声変わりを迎えていない、年端もいかない少年だ。


「申し訳ないで済むものか! どれほどの財をかけて貴様らを組織したと思っている!」

「………………」

「思い出せ! 貴様らの願いはなんだ!?」

「人間に……なることです」

「ならば何をする!?」

「役目を……全うします」

「そうだ! 勤めを果たすまで、貴様らは生まれておらん! ただ信仰を歌うだけのモノだ!」

「………はい………司祭様……」

「私が憎いか? それも良いだろう。ならば救いを神に願え! 龍流しまでには確実に完成させろ! 結果を出せねば仲間共々命はないぞ!」


(な、なによ、あれ! 命はないって、ひどいじゃない!)


 立ち上がろうとするクルリを、エイトは制した。

 堪え時だ。スーメルアの状況。テロリストの狙い。サーモンドの企み。そして、この場所の意味。途切れ途切れの情報があと少しで一つになる。点と点が結ばれる。まだしばらくサーモンドには説教に浸って貰わないとならない。

 エイトは決定的な一言を期待した。

 しかし。


「待て。臭うぞ」


 司祭が足を止める。


「何だ? この臭いは……。不浄の儀式? 異教の香でも炊かれたのか!?」

(ニラよね)

(ニラだね)


 ニラである。またしても、エイトは美味しさに負けたのだ。


「臭いが近いぞ、誰かいるのか!?」

(まずいな。美味しかったのに、まずい状況だ)

「チッ……。伝令だ! 入り口を封鎖させろ! 絶対に賊を逃すな!」

「司祭、様は……」

「私はここで賊の首根っこを引き抜く。もし“コレ”を見られていたならば、生かして返すわけにはいかん!」


 ローブの少年が走っていく。

 司祭はふんと鼻を鳴らし、諸手を開いて練り歩く。


「さあどうした不届き者。残された時間は少ないぞ。隠れていないで出てこい。今すぐに私を殺せば、包囲されずに逃げおおせるかも知れないぞ!」


(大した自信だ)


 殺害は有り得ないが、魅力的な提案ではある。

 先程の口ぶりからして、司祭が後ろ暗い人物であるのはほぼ間違いない。


 アヤメの護衛を僧兵が行っている今、教会の重鎮で巫女の親族であるサーモンド司祭を素直に返してしまうのは危険に思える。逆に身柄を押さえれば、アヤメの危機は一発で解消されるかも知れない。


 

 相手は丸腰。数は二対一。しかし、レベルが解らない。

 多少無理してでも、《鑑定》を取っておくべきだったかと、エイトは後悔した。


(ねえ、ねえ、エイト)

(どうしたの?)

(この岩、なんか変じゃない?)

(クルリさん、今岩の話いるかな?)

(でもほら、固くて、冷たいのに、何か暖かくて………………あっ)

(……どうしたの、クルリさん)

(ど、どうもしてないわ。平気よ。平気だし、無敵)

(いや、今『あっ』ていったよね。確実にどうかしたよね)


 エイトがクルリの所業を問い詰めようとした、その時だった。


「……そこか」

「―――――ッ!?」


 眼前に拳が迫っていた。

 まるで、彼我の距離がなかったかのように、拳が目の前に在った。

 有り得ない、とエイトは思った。

 先程まで、十メートルほど先の壁画のあたりを歩いていたはずだ。

 

「シッ!」

 

 咄嗟に肉切り包丁の腹で受け止める。

 衝撃が獲物を貫いて臓腑を駆ける。エイトの体が宙に浮く。

 手が痺れる。肩が外れそうな、重い拳だ。

 

「ハァッ!」

 

 エイトが着地するよりも早く、追撃の拳が飛来する。

 脂肪だらけの腹からは想像もつかない俊敏さだ。

 

 エイトは再び包丁で受け止めようとするが。

 拳は突如、蛇のように軌道を変えた。包丁の盾を掻い潜り、エイトの顔面へ。

 

(しまっ……!)

 

 二発目の風圧が眼球を圧迫し……。


> 昇華:《結晶盾》Lv1


 眼前で、氷の盾が拳を止めた。


「魔法戦士だとっ!? 小癪っ!」


 反動で体勢を崩した司祭の腹部に、肉切り包丁の柄を打ち込む。


「ぐぅっ!」


 だが、浅い。気絶させるには至らない。

 司祭はエイトの頭に拳を振り下ろして……。

 しかし、その拳は横にそれた。ずしんと重い音を立て、司祭がすっ転んだ。


「足元にさらなる小癪!? 貴様……!」

 

 司祭が吐き捨てる。

 クルリだ、とエイトは確信した。

 暗くて見えないが、司祭の足に蜘蛛糸を引っ掛けたのだ。

 

(助かった……!)

 

 頬に触れると、ぬらりとした血の感触。拳圧で頬が裂けたのだ。

 

(クルリさんの援護がなかったらと思うと、ゾッとしないな)

 

 意識を刈り取られる、なんて生易しいものでは終わるまい。頭蓋骨を粉砕されていた。

 

『グンベルド家の一族は、当主を除き僧兵か騎士となる』

 

 アヤメの言葉がエイトの脳裏に響いた。

 いかに現役を退いているとは言え、相手は戦士だ。それも天才の血筋なのだ。

 

 重く、固く。ひとたび目標を見定めれば、一直線に粉砕する。

 人の形をした重戦車だ。ダニエラを思い出す。

 出合い頭に即死攻撃をお見舞してくるのも、ダニエラそっくりだ。

 

(ヘーキ、エイト?)

(逃げ隠れしよう、クルリさん)


 駆け寄ってきたクルリに、エイトは逃走を提案した。

 

 紙一重で命を繋いだエイトだったが、司祭にダニエラほどの絶望感はない。

 全力で戦えば、エイトと同等レベルか少し上。

 今の司祭は糸に足を取られている。油断なく二人でかかれば、勝機はあるだろう。

 

(だが、殺す気で挑む必要がある)

 

 人間は食べられない。食べられないものを殺めることは、エイトの主義に反する。何より、クルリに人殺しはさせられない。

 

 そうと決まれば話は早い。蜘蛛糸に苦闘する司祭を置いて、より深い闇の中に逃げ込む。

 エイト達は右も左も解らない状態だ。夜目も効かないし、明かりをつければ見つかってしまう。どちらが出口かも解らない。闇雲に逃げて隠れる他ない。

 

「ぬんッ!」


 糸から解き放たれた司祭は、一直線にエイトめがけて走ってくる。

 恐ろしいことに、足元の小石も見えない暗がりでも、三十メートル近く離れていても、司祭は正確にエイトを照準していた。

 

(馬鹿な! 何故、僕らの位置が……!?)

「逃がすものか、邪教徒! どこに隠れようが、貴様の足取りはお見通しだ! この鼻で手に取るように解るぞ!」

(手と足に目と鼻がついてるってこと? 臭そう!)

(もう習合は結構だよクルリさん!)

 

 司祭は嗅覚に関連するスキルを持っているようだ。敏捷性の差で、距離が見る間に埋まっていく。

 

(まずい、追いつかれる……!)


 背を押す威圧感に、エイトが戦慄する。

 逃走すべきか? 迎撃すべきか? エイトが判断を迷っていると。


(いたたっ!)

 

 二人の顔に生ぬるく刺々しいものが当たった。蔦だ。上から蔦がぶら下がっていた。


(こっちじゃこっち! はよ掴まれ!)

 

 天井からラアルの声。言われた通りに捕まる。すると、エイトとクルリは一気に上の階へと引き上げられた。

 どうやら、知らないうちに元々落下してきた穴の下に帰ってきていたようだ。

 

「下郎が昇るか! 身の程を知れ!」

 

 司祭の遠吠えを背に、エイト達は逃走した。

 

 

 ………………。

 ………………………………。

 ………………………………………………。

 


「ふーっ! やっぱり外の空気ってば、美味しいわ!」

 

 星明かりの下、クルリが背伸びする。

 出入り口の封鎖と聞いて戦々恐々としていたが、街の外苑に繋がる出口はフリーだった。

 司祭もウキェミ大迷宮の全容を把握してはいないようだ。

 

「パーティーの分断は、スカウトであるわしのミスじゃ。すまんかったの」

「許すぞよ、ラアルちゃん」

「いえ、僕の解体が迂闊でした。魔物の生態をもっと知るべきでした」

「許すぞよ、エイト」

「ありがとう、クルリさん」


 クルリは月明かりよりも明るく笑った。

 

「エイトってば属性感知出来るようになっちゃったし、レベルも上がったし、ニジマス司祭が怪しいってことも解ったし、ニラ饅頭美味しかったし、ちょー結果オーライじゃない!」

「そうだね、今日のダンジョン探索は大成功だ」

 

 クルリの言うとおり、収穫は大きかったが、悩みも増えた。

 

 アヤメを付け狙う召喚術師と洗礼合唱団。

 龍流しの祭りと、迷宮の壁画。

 サーモンド司祭の企みと、彼がひた隠しにする“何か”。

 

 事態は想像以上に根が深い。


(とにかく、出来る限り早く小杉さんに連絡をとらないとな……)


 エイトは胃が重くなる思いだった。

 無論、夕食は引かれるほど食べた。

 

=============================

◆強制クエスト《スーメルアを守れ》

達成条件:達成期限までのスーメルアの生存

失敗条件:スーメルアの死亡

達成期限:残り23日23時間

報酬:スキルポイント15

推奨Lv:Lv30

推奨パーティー:2名以上

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