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一話:指名クエスト

 異世界召喚十四日目。

 

 ダンジョン攻略は後処理も一仕事だ。

 宴会の手配、宝の処分、ラアルとの報酬分割や墓参りや報告書の作成……。

 一通りの事務手続きを済ませると、攻略から三日も経過してしまった。

 

「んー、ふふー。んっふっふー」


 朝日差し込む《女神の従者》隅の窓際席。

 すっかりエイト達の定位置になったそこで、クルリはいつも以上に上機嫌をかもしていた。ギルドカードを見ては、にまにまと笑っている。

 

 カードに印字された冒険者ランクは、E。

 《嘆きの伯爵城》攻略の功績を買われ、エイト達はギルド入会わずか二週間という異例のスピードで、冒険者ランクEに格上げとなったのだ。

 規約上、一つのクエストで二階級特進はないのだが、貢献度的にはDも間近らしい。

 

「E~♪ E~♪ E~になって~気分がE~♪」


 上機嫌極まり、ついに歌い出すクルリ。

 冒険者ランクの向上ももちろんだが、強制クエストからの開放感も機嫌を後押ししているのだろう。フリーダの魔術工房での一件以来、『発行者』は沈黙を保ったままだ。異世界転移はじめての自由な時間なのである。


「YO!  YO! 蜘蛛さん食べて調子がE! SUNSUN太陽日差しがE!」

「クルリさん、ラップパート止め」

「止め!」

「作戦会議始め」

「始めであります!」


 ギルドの片隅でズバッと敬礼するクルリ。彼女の少々、いやかなり奇特な言動も、今や『また田舎の風習か』とスルーされるようになってきた。

 

「何を会議するでありますか?」

「今後の方針だよ。強制クエストにかき乱されるとしても、僕達なりの方向性は持っておきたい」


 まだまだ半人前だが、冒険者も板についてきた。金銭面も余裕が出てきた。宿暮らしも慣れてきて、生活の基盤は整った。

 そろそろ、背中を押されず行動する頃合いだ。

 

「僕の当面の目標は、強制クエストと『発行者』の謎を突き止めることだ」


 この世界は好きでも“注文の多い料理店”はいただけない。それがエイトの主張だった。


「クルリさんは?」

「んー。クラスの皆と会いたいわ。元の世界に帰って、パパとママにも会いたいかも」

「なるほど。君の主張は理解したよ」


 二人の目標を難易度順に並べると、こうなる。

 1.クラスメートの発見

 2.強制クエストと『発行者』の謎の解明

 3.元の世界への帰還


「2と3は現状とっかかりがないから、まずは1からかな」

「皆を探すのが最初ってこと?」

「うん、その為に僕達のすべきは、噂を集めることだね。クラスメートの行方を探るなら、信憑性が薄くても口伝の情報は無視できない」


 人の口に戸は立てられない。クラスメート達の状況もエイトやクルリと同様ならば、多かれ少なかれ噂が立っているはずだ。

 

「何とかして、情報のハブに食い込もう」

「ふむふむ。ハブさんに、食い込む……」


 クルリはしばし難しそうな顔で考えた後、両手を振り上げて「シャー!」と鳴いた。

 

「なんだい、それ」

「マングースさん!」

「うん、僕の言うハブはそれじゃなくてね」

「はいはーい、ちょっと通してねー」


 リザがお盆片手に客をどかし、エイト達の前に皿を並べた。

 淹れたてコーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。


「はい、モーニングセット2つ、お待ちー」


 モーニングセットは、《女神の従者》朝の人気メニューだ。

 

 濃いめのコーヒーと厚切りのトースト二枚、焼きハムと目玉焼きとサラダのついたセットだ。サワークリームと魚肉とナッツを混ぜたペーストが独特で、パンに塗りつけて一口齧ると、鼻を抜ける塩気と酸味が目をさましてくれる。

 価格も20ゼラと破格値で、ギルド関係者でなくても人が寄ってくる。

 

 当然ながら利益はないに等しい。これで一般人を集めてから、リザが得意の話術で困りごとを聞き出し、クエストを引き出しているそうだ。

 

 エイトは部屋で朝食(魔物)を済ませてからこれを食べるのが日課だった。

 

「あ、それとこれ」


 リザは注文票に加えて、一枚のクエスト用紙を置いた。


「正統十字教会から名指しの依頼が来てるわよ」

「名指し……僕らをですか?」


=============================

◆受注クエスト《龍の涙収穫》

達成条件:龍月湖の宝珠《龍の涙》収穫

達成期限:2日後

報酬:6000ゼラ

推奨Lv:18以上

推奨パーティー:2名以上

=============================


「《龍の涙》って、なーに?」

「知らないと思ったわ」


 クルリの疑問に、リザは呆れた様子もなく答えてくれた。


「リーベルトでは、毎年秋の始めに《龍流し》っていう正統十字教のお祭りをやるのよ。聞いたことない?」

「サラダよりさっぱりよ!」

「リーベルトの山間部は、元々龍の棲家でね。今でも年に一回、深い海の底から龍が川を遡上してくるのよ。簡単に言っちゃえば、それを歓迎するお祭りね」

「ドラゴンさんが来るの!?」


 クルリが身を乗り出した。

 これまでも否定しようもなくファンタジーだったが、ドラゴンのご登場となれば、いよいよもって王道だ。《竜骨の聖槍》を食べたのだから、龍の存在自体はエイトも認識していたのだが、まさか近場で見られるとは思っていなかった。

 (一体どんな味がするのだろう)とエイトは思った。


「体長は1キロ以上あるし、咆哮は山の向こうにも届くし、ダイナミックで、透き通ってて……。それはもう見事なんだから。隣の国からわざわざ人が集まるほどの観光名物なのよ?」

「では、《龍の涙》と言うのは?」

「そこで使う祭具のことね」

「わっしょいね!」


 祭具の収集という事は、毎年恒例の行事なのだろう。推奨レベルはギリギリだが、それほど危険性はないクエストなのかも知れない。


「リザさんの感覚では、これって請けるべき仕事なんでしょうか?」

「場末のギルドマスターとしては、オススメしたいわね。Eランク冒険者に指名依頼なんて異例の特例よん? コネも出来るし……。ただ、ちょぉっとだけ引っかかるのよねー」

「引っかかる、とは?」

「龍月湖は正統十字教の聖地なのよ」


 リザ曰く、正統十字教の聖書には、聖人が龍月湖で神の声を聞いた、という伝説があるのだそうだ。龍月湖は教会の敷地内で厳重に管理されており、信徒であっても、限られた人しか立ち入れないらしい。


「だから、例年は正統十字教徒の多い《緋色の御旗》に依頼を出していたのだけど」

「……なるほど」

「まー、内容はともかく、依頼人の身元は確かよん。少なくとも取って食われる心配はないわ。報酬を出し渋ったりもまずないわね」


 信者からがっぽり巻き上げてるし、とリザは小銭のジェスチャーをした。


「うん、じゃあそれ!」


 ビシっと指を突き立てるクルリ。


「それじゃないよ」


 指を掴むエイト。


(僕達の身の上を忘れたわけじゃないよね。有名になり過ぎるのも考えものだよ)

(でも、せっかくあたし達を頼ってくれたんだし)

(それが不気味なんだよ。正統十字教の祭りに、どうして話題のルーキーを駆り出すんだい?)


 エイトもクルリも無宗教ではあるが、正統十字教からすれば《女神の従者》の冒険者は異教徒だ。聖地に呼ぶ理由があるものだろうか。

 推奨Lvを信じるなら難しいクエストでもない。《嘆きの伯爵城》を攻略した実力を買って……と前向きにも捉えにくい。


(依頼とはいえ異教徒が聖地に踏み入ったとなれば、一般信徒から要らない反感も買いかねないよ)

(うーん……)


 クルリは考え込んだ。


「クエストのむつかしー話なら、ガーさんに……そっか、聞けないのよね」


 クルリが表情に少しだけ影が差す。

 ガースはエイト達に一言もなく、この街を去ってしまった。

 不義理だとは思っても、責めようとは思えなかった。冒険者のいろはを授けてもらった上、強制クエスト突破の糸口まで作ってもらったのだ。批難するのは筋違いだろう。

 

(感謝の言葉を伝えきれなかったのは、残念だけれど)


「あー、でも《龍の涙》を間近で見られるチャンスは羨ましいわねぇ」


 微妙な空気を感じ取り、リザが話題を戻す。


「人の頭ぐらい大きくて、ほんっと綺麗な真珠でね。あたしも一度でいいから、短髪細マッチョのイケメンにプレゼントされたかったわぁ」

「……真珠?」


 その時、エイトに電流走る。


「今、真珠と言いましたか?」

「? ええ、そうよ」

「つまり、真珠というのはその、貝から奪うと見て、よろしいでしょうか?」

「んー、そうねぇ……。貝っていうか……ホタテのお化け?」

「ホ……タテ……!?」

「エイト?」


 クルリがエイトの顔を覗き込む。


「つまりだよ。クルリさん。ここで太い顧客を掴んでおくのは悪い選択肢ではないんだ。正統十字教はこの世界に数多ある宗教勢力の中でも最大で、情報網も比例して大きい。まさに求めていた情報のハブだ。その幹部と繋がりを作れる機会は滅多にない。クラスメートに関わる手がかりを得られるかも知れないし、もしかしたら庇護下にいたっておかしくない。断れば角が立つし、これは理性ある選択なんだ。そう、僕達はマングースだ。情報のマングースになるんだ。だからあえてリスクを背負ってでも」

「エイト、大丈夫よ、エイト」


 クルリがエイトの手を優しく握る。


「バター焼き、食べたいのね」

「うん。……だが忘れないで欲しい。僕はあくまで理性的に……」

「大丈夫よ、エイト、大丈夫よ」

 

 エイトは至って冷静に、クエストの受注を決めた。

 

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