二話:再会、クラスメート
ウォーウルフを平らげて、体感三時間ほど。
存外早めに強制クエストをこなしたエイトは、当初の予定通り水源の探索に勤しんでいた。
この《爪撃》なるもの、中々どうして便利なスキルである。
念じて指を振るうだけで、箸で豆腐を切るように生い茂る雑草を捌く事が出来る。
魔力的なものが宿っているのか、指で直接触れていない箇所でも切れている。
流石に木を切り倒すまではいかないものの、随分と行軍が楽になった。
(初期装備の肉切り包丁が早速色褪せて見えてきたな……)
行軍が楽になったのは、《爪撃》のお陰だけではない。
身体も軽い。筋力も体力も向上している。
恐らく、Lvアップの効果だ。
(さて……)
何処かのせせらぎに耳を澄まし、斜面を下る側に歩きながら、エイトは思案した。
この世界にスキルの概念があることも、スキルポイントがあることも解った。
となれば、次は……。
> 強制クエストが発行されました
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◆強制クエスト《スキルを獲得しろ》
達成条件:スキルポイントを消費する
達成期限:残り24時間
報酬:スキルポイント1
推奨Lv:Lv1
推奨パーティー:1名
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スキルの獲得である。強制クエストもそう言っている。
(出来れば取得方法も教えて貰いたいものだけど……。セオリーに則ってみるか。……メニュー)
念じてみるが、反応はない。
(ステータス)
今度は反応があった。
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新垣エイト Lv2
HP:51/51
SP:30/30
MP:16/16
攻撃力:20
防御力:16
魔力:10
敏捷性:11
【ユニークスキル】
《弱肉強食》Lv1
スキルポイント:5
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(うん、高いのか低いのか、全然解らないな)
字面からは凡人感が漂っているが、比較対象がいないと一喜一憂のしようがない。
HPは生命力だろう。レベルが上って満タンだ。SPはスタミナだろうか。
MPや魔力、魔術スキルなんてものがあるのだから、ここは魔法のある世界とみていい。
エイトは少しばかり中二心がくすぐられた。
スキル欄は空白になっている。捕食したスキルはここには表示されないようだ。
今度は、スキル詳細だ。ステータスの《弱肉強食》を意識してみる。
予想通り、スキルの解説が頭に流れ込んできた。
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《弱肉強食》Lv1
君は■■■を捕食しなければならない。
君は■■■を取り込まなければならない。
君が一番よく知っているはず。
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(舐めてるのか)
エイトは軽くイラっとした。
知らないから聞いているのだ。一番よく知っているとか言われても困る。
伏せ字ばかりで情報量はゼロに等しいし、「~しなければならない」と言う語調も絶妙に煽りが入っている。
(……まぁいいか。それより今はスキル強化だ)
気を取り直して、念じ直すと、また反応があった。
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スキルポイント:5
【基礎スキル】
HP強化:1p
SP強化:1p
MP強化:1p
攻撃力強化:1p
防御力強化:1p
魔力強化:1p
敏捷性強化:1p
【体術スキル】
――――
【魔術スキル】
――――
【生産スキル】
――――
【生活スキル】
調理術:1p
解体術:1p
鑑定:20p
【ユニークスキル】
剛健歯:1p
胃拡張:1p
腹時計:3p
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(……これだけ?)
エイトの想定の半分ぐらいの量だ。
剣術や槍術等、この手の転生者で有りがちなスキルが見当たらない。
なにより、魔法もMPもあるのに魔法関連スキルが空だ。
(もしかして、僕は剣や魔法の才能がないのか?)
事実なら、エイト的には少なからずショックである。
せっかくファンタジーな世界に来たのだから、火の玉ぐらい飛ばしてみたかったのだ。
(それから《剛健歯》に《胃拡張》、《腹時計》か……)
字面から推定すると、《弱肉強食》の派生スキルだ。
現状チート気味な《弱肉強食》をさらに強化出来るとすれば、とても心強い。
(でも、サバイバル中に《胃拡張》ってどうなんだろう。飢えないかな)
生存率を考えれば、一刻も早く何らかのスキルを上げるべきだ。
しかし、エイトは中々決断が出来なかった。
(いつまでこの世界に留まる事になるか解らないんだ。ちょっとやそっとの思いつきで、軽率に育ちたくない)
と、その時。
「こんにちほきゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
あいさつ混じりの悲鳴がエイトの思考を中断した。
声に向かって少し走ると、少女がウォーウルフの群れに囲まれていた。
6匹ほどだろうか。茂みから唸り声も聞こえるので、あと2、3匹多いやも知れない。
少女は丸腰で、見覚えのある制服に身を包んでいる。
(えーと、彼女は確か……鹿島田クルリさん、だったっけ?)
見覚えあって当然。エイトのクラスメートなのだ。
屈託が無さ過ぎる笑顔と芸術的な赤点で知られる、ムードメーカー的な少女である。
誰とでもすぐに打ち解けるので、クラスの殆どと仲が良い。(エイトはぼっちだったので除く)
高Lvには見えないが、クルリも強制クエストを突破した口だろう。
何かの技能で切り抜けるやも知れない。エイトはじっと様子をうかがった。
「ゥーー。ワン。ワワン。ワン、グルルゥ」
唐突にクルリが吠えだす。
すると、ウォーウルフはそれに共鳴するように吠えた。唸りのリズムが揃っていく。
「ワオン? お友達ワンワン、逃してワン。わふー」
身振り手振りも交え、クルリは見逃してくれと必死に伝える。
尻尾の代わりに尻を振り、三回回ってワンと鳴き、友好度合いを示している。
ウォーウルフの唸りが徐々に低く、静かになっていく。
(動物会話的なスキルでもあるのか? 異世界でもコミュ力勝負なんて、尊敬するな)
「うー! ワン、ワン!」
話がついたのか、クルリは弾ける笑顔でにこやかに頷く。
和解の証にと、ウォーウルフの一匹に掌を差し出して、
「お手っ!」
鋭い爪で引っかかれた。
「ふぎゃああああああああああああああ!」
(うん、尊敬を取り消そう)
エイトは鹿島田クルリを買いかぶっていた。
状況は目に映るそのままだ。哀れでか弱い能天気が魔物に襲われているのだ。
身を潜めてやり過ごせ、と本能が告げる。
一対一で命がけだった相手だ。少しLvが上がった程度で群れに勝てるはずもない。
狼は夜目が利く。聴覚、嗅覚、視覚、いずれもエイトを超えている。不意打ちは不可能だ。
狼がクルリにかまっている間にそっと隠れて逃げ、お目こぼしを貰うのだ。
しかし。
(それは、良くないことだ)
エイトとて、知人を生贄にするほど薄情ではない。
そして、何より。あの味が忘れられない。
(スキル強化)
> 《攻撃力強化》lv1を獲得しました
> 残りスキルポイント 5→4
> 強制クエスト《スキルを獲得せよ》を達成しました
> スキルポイント1を獲得しました
> 《敏捷強化》lv1を獲得しました
> 残りスキルポイント 5→4
> 《HP強化》lv1を獲得しました
> 残りスキルポイント 4→3
> 《剛健歯》lv1を獲得しました
> 残りスキルポイント 3→2
「お食事中のところ、誠にすいません」
肉切り包丁片手に、エイトは慇懃に挨拶した。
「お食事に来ました」