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十五話:嘆きの伯爵城攻略編その3(※挿絵付き)

 才能には限界がある。無限の可能性なんて戯言だ。

 冒険者稼業は特にそうだ。レベルという形で己の天井が数字に現れる。

 努力は必要十分こそが最適だ。最低限生活に困らない金が稼げるのならば、穴の空いた瓶に水を注ぐ事はない。


 ガースとて、解っていたはずだった。

 

「また甲冑が湧いたぞ!」

「ジャスティス!」

「上だ! 蜘蛛だ! 焼き殺せ!」

「ジャスティス!」

「ぶっ潰れいッ!」

「ジャァァァスティス!」

 

 魔物達が現れたはなから《鉄甲兵団》の肉厚な戦士たちに圧殺されていく。

 

 レイドパーティーメンバーは合計12名。うち、前衛6名。後衛2名。スカウト1名。魔術師2名。ヒーラー1名。

 《鉄甲兵団》主催だけあり戦士に偏った編成だが、ここまではそのバランスの欠如が問題になることはなかった。

 ガースも《罠発見》《気配探知》等のスカウト系の小技は持っていたし、このダンジョンの攻略には、それで十分だった。迷う要素も面倒な罠もないのだ。

 初めは唯一のスカウトとして意気込んでいたミーシャも、今は退屈そうに淡々と罠を潰している。

 専業ヒーラーに至っては、誰も負傷しないので暇を持て余す始末だった。

 

 ガースの見立てでは、ここまでの道のりはLv20代半ばの4名パーティーで十分だ。

 平均Lv40の12名レイドパーティーは明らかな過剰戦力だった。

 

「ブラボー槍捌き! 鮮やかなお手並み!」


 《鉄甲兵団》の一人、斧使いの重戦士が拍手した。


「ガース君だったか、Lv30台と思えぬ熟練した槍だ。どうだね、《鉄甲兵団》に来ないかね?」

「熟練ねぇ……。お世辞としては受け取っておきますが……」


 ガースが蜘蛛三体を片付けている間に、ダニエラは空洞甲冑六体を捌いていた。それも、槍に比べ不慣れと称する剣でだ。

 

「あれ見てもいえますかね?」

「はっはっは! 彼女は特別さ」

(ああ。特別だろうとも)

 

 一年前にはLv10に満たないヒヨッコであったダニエラが、いつの間にかLv38の自分を超えてLv44。同レベルであっても、一族秘伝のスキルに裏打ちされたダニエラの槍を前に、ガースの田舎道場仕込みの槍術は通用しないだろう。

 ……そして、その槍ですら、Lv8のエイトに食い千切られた。


「ねえ、ガース」


 スカウトのミーシャが目配せしてくる。要件は解っていた。


「連中、付いてきてやがるな」

「そそ。ミョーに距離とってるから、気付いてるのは《気配探知》スキル持ちのあたしとあんただけっぽいけど。どーすんの? 拾ってこよっか?」

「魔力が急激に濃くなってる。もうすぐ伯爵とのご対面だぞ。即死級トラップが来てもおかしくねーんだ、本職スカウトのお前が離れてどうする」

「そりゃそうだけどさ。一回休憩して……」

「心配しねーでも、エイトなら放っといても死なねぇよ。進軍速度を上げて馬鹿共は捨て置け」

「…………」

「何だよ」

「このレイド話持ち出した時もそうだけど、最近やけに急かすじゃない? 特にエイトとクルリが来てから」

「別に。元からこんなもんだろ」

「んなことないって。もうルーキーじゃないんだし、あたし達のペースでやっていこうよ。焦りは禁物だって……ちょっと、ガース!?」

 

 ガースはミーシャを無視して廊下を駆け、壁際に佇む空洞甲冑の兜に槍を突き立てた。

 

(何が、焦りは禁物だ……!)

 

 壁際から飛びかかる蜘蛛を一薙ぎで振り払う。

 長柄に不利な廊下であっても、ガースのスピアは縦横無尽に駆け回る。


(そうだよ、俺達はもうルーキーじゃねえ。六年冒険者やってんだ。レベルアップも遅くなってきた。天井が近づいてきた。その俺達が、一年選手のダニエラにランクを抜かれるどころか、一週間前までLv2だったルーキーにまで脅かされてる!)

 

 三歩先の絨毯下に微かな膨らみ。見え透いたトラップを敢えて踏み抜く。

 廊下の角から飛来した火矢を槍の一閃で打ち返し、天井の蜘蛛を射抜きつつ松明代わりにする。

 薄暗い廊下の奥から次々と湧いて出る空洞甲冑達。

 教科書に則り対処するならば、距離をとって一体一体相手にすべきだ。

 だが、今のガースにはその時間すら惜しかった。

 

(ここで焦れなきゃ、冒険者として終わりだろうが……!)

 

> スキル《空蝉流・砂上尖塔》Lv5起動

 

 ガースの槍が揺らめく。その切っ先に蜃気楼がまとわり付く。

 

「シャァァッ!」

 

 気合一閃。漂う蜃気楼が一斉に鮮鋭化し、空洞甲冑を襲う。

 それらはガースの槍が取りうる可能性を写した幻でありながら、質量を持つ実体だ。

 関節と胸部を全く同時に蜃気楼に射抜かれ、七体の甲冑が一瞬にして動きを止めた。

 《空蝉流槍術》Lv8を要する高難度スキルを間近で見て、《鉄甲兵団》の面々が感嘆する。

 

「皆の者、ガース殿に続け! 主の間は目前だ!」

 

 ダニエラの鬨に浮かされ、《鉄甲兵団》のメンツも突貫する。

 チームワーク度外視のレイドパーティーは、個々の武力で敵を貫き、切り開き、磨り潰し、難なくダンジョンの最奥にたどり着いた。

 

(……食堂?)

 

 そこは、豪奢な食堂だった。

 大広間と勘違いしかねない広い部屋に、20人は並べるだろう大きな円卓が座していた。机上ではナプキンが美しく折り畳まれ、食器が灯りに照らされ艶やかに光っている。

 ガースは面食らった。

 信仰篤い伯爵の潜む場所と言えば、礼拝堂で間違いないと考えていたのだ。

 

「ようこそおいで下さいました」

 

 気づけば、目の前に少女がいた。

 白いドレス纏った少女だ。年の頃は十代前半だが、気品ある佇まいだ。


「リーベルト伯爵家の晩餐会へ」


 少女が恭しく頭を下げる。


「息災か、少女! こんな所でいかがした! ご両親は何処に!?」

「バカ! 近寄るなダニエラ! ダンジョンにただのガキがいるか!」


 警戒の目も刃も気にせず、少女は謳うように話し続ける。


「お父様は仰いましたわ。好きの反対は無関心。愛があるから躾けるのだって。無作法は正してあげないと、恥をかいてしまうもの」

「ミーシャ、《鑑定》を!」

「や、やってるわ! でも、これ……!」


 ミーシャが青ざめた顔で返す。


「何もないのよ! その子は伯爵令嬢フリーダ! Lv0の……ただの死体よ! ステータスも低いし、何のスキルも持ってない!」


 そんなはずがあるか、と怒鳴りつけたくなるところを、ガースはぐっと堪えた。

 この高濃度魔力汚染。間違いなくダンジョンの主は眼前の少女であるはずなのだ。


「振る舞いの無作法。言葉の無作法。無知の無作法。生まれの無作法。領民たちは恥だらけ。それらを正すは領主の勤め。しつけは愛。規則は愛。法律は愛。礼節は愛。なんてこと! 貴族の愛は大忙しです!」


 薄暗い闇に目を凝らし、ガースは気付いた。

 少女の体の節々に薄っすらと白い糸が繋がっていることに。

 

「ううん、それでも構いません! だって、お父様は沢山私を愛してくれた! 生まれの無作法を躾けてくれた! 今度は私が愛を配る番! ですからね、ですから……! 晩餐会を開きましたの! 貴方達を愛するために!」

 

 糸の先を食堂の奥まで辿っていくと、八つの目が一行を見下ろしていた。

 蜘蛛であった。道中であった大蜘蛛の数十倍の大きさを持つ巨大蜘蛛だ。


(あれがボスか!? なら問題ない! 予想外が一つあっただけだ! 読みはまだ外れていない! 大蜘蛛が伯爵の成れの果てなら、神聖属性が通るはず……!)


「ダニエラ! エンチャントを!」

「はい、ガース殿! 総員、武具を掲げろ!」


《貴き方は仰った! 聖典こそ天高く掲げるべし!》


 ダニエラの全体付与魔法により、強者達の得物が一斉に光を帯びる。

 包まれながらもガースは一抹の不安を拭いきれずにいたが、もはや引き返せない。

 

(落ち着け……。たかが蜘蛛の化物、これまで何度だって倒してきただろうが。普段通りやればいい。それだけだ)

 

「早速なのですけれど。貴方達、食卓につくまでもなく無作法ですわ」

 

 槍の切っ先に意識を集中する。フリーダの声を遮断する。

 呼気一つで邪念を振り払い、駆ける。

 

「だって、招待されてもいないのですから」

 

> 《礼節呪詛》Lv37に抵触しました。

> 状態異常:呪縛

> あなたは作法を破りました。呪われて当然です。


挿絵(By みてみん)

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