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十三話:嘆きの伯爵城攻略編その1

 異世界転移七日目。

 

 今日のギルド《女神の従者》はいつもより八割増で騒がしかった。

 それもそのはず、ダニエラ率いる伯爵城攻略隊出発の日がやってきたのだ。

 

 これが最後になるかも知れないと、同業者たちがこぞってガース一向に声をかけている。

 死地に向かう仲間を見届けるのだが、悲壮感は漂っていない。日常が命のやり取りである冒険者にとって、今生の別れは惜しむものではないのだ。

 

 集まった人数を見ると、ガースの信望の篤さが実感出来る。

 決して突出したレベルの冒険者ではないのだが、その面倒見の良さは自然と人を惹き付けているのだ。

 クルリも輪の中に自然と溶け込み、先輩スカウトのミーシャと雑談していた。

 エイトは少し離れたところでその様子をうかがっていた。

 

「ま、土産の一つでも持ち帰ってやるよ」

「がーーーんばってねーーーーー!」


 ギルドメンバーの声援を背に、ガース一行は馬車に揺られて伯爵城へ赴いた。

 蹄の音が聞こえなくなると、見送りが一人減り、二人減り、やがてエイトとクルリだけになる。


「さてと」


 エイトは宣言した。


「尾行しようか、クルリさん」

「オッケー!!」


 

 この四日間、エイト達はひたすらに魔物を狩り続けた。

 魔物というか、具体的にはつちのこを狩り続けた。

 この世界で言うつちのことは、ヒュドラという蛇系の魔物の亜種である。

 ヒュドラは複数の幼体が絡まり融合して成長する珍しい生態の魔物なのだが、つちのこは誰とも融合出来ないまま幼体成熟してしまった個体だ。「二人組作ってー」からあぶれてっぱなしで大人になった悲しい生き物、それがつちのこなのだ。

 エイト的には同情の念を禁じ得ない魔物だったが、涙を呑んで乱獲したのは理由がある。

 というのも、つちのこは弱いのだ。

 身を隠すのは得意だがのろまで攻撃力が皆無で、表示上のLvと実際の強さに大きく乖離がある。それでいてヒュドラの種族補正か経験値効率は同レベル帯でも上位に位置するため、Lv20未満の冒険者にとっては絶好の餌であった。肉が柔らかく蒲焼きが美味いので、エイト達にとってはそういう意味でも絶好の餌であった。

 欠点としては、素材に希少価値がなく、倒しても一銭にもならない事だ。それどころかつちのこ生息地は一種のテーマパーク化しており、討伐に金を取られる。

 エイト達は雪ネズミの皮衣で得た金をはたきつつ、とにかく経験値を稼ぎ続けた。

 

 その甲斐あって、今や二人はLv15。一日Lv2近く上昇している。

 初日に比べれば成長速度に低下が見られるものの、リザに呆れられる程度には急成長出来ている。

 ちなみに、スキルポイントはほぼ手付かずだ。スキル構成を考えるのは、今日、家に帰ってからだ。

 

 

 さて、初日は三十分歩いただけで座り込みを始めたクルリだったが、SP向上の恩恵で、今日は泣き言を言わなかった。

 一時間かけて小高い山を二つほど越えると、途端に天候が悪化してきた。

 黒々とした雲がかかり、昼間であることを忘れそうになる。

 傘を忘れた事を気にかけ始めたあたりで、唐突に視界が開け、石の城が現れた。

 

 王道ファンタジー風、と呼称するには華やかさに欠ける城だ。

 ひび割れた尖塔に、古めかしい城壁。余分な装飾はなく、辛うじてデザイン性があるのは、炎魔術増幅効果を持つ燭台程度だ。第二次地殻汚染時代の苛烈さを物語る、質実剛健の城である。

 

「それにしても、ダーさんったらどこかしら。さっぱり見失っちゃったわ!」

「いいんだ。あっちにはスカウトがいるから、近づきすぎたら尾行がばれる。彼らの攻略の邪魔をするのは本意じゃない」

 

 エイトはあえて、ダニエラ一行と同じ日をファーストトライアルに選んだ。

 目的は二つ。


 一つ目はダンジョンの体験。

 《嘆きの伯爵城》は初ダンジョンとするには余りに高難易度のダンジョンだ。しかし、エイト達には他を攻略して肩慣らしをする時間はない。だからこそ、先行した強者どもに魔物をあらかた殲滅してもらい、初心者向け低難易度ダンジョンを作ってもらう事にした。


 二つ目はダンジョンに眠る「仕掛け」についての情報収集。

 もしそれが「お嬢様」に関連したものならば、城の中を探れば何かしらのヒントがあるはずだ。

 

 門をくぐると、不吉な感覚が一気に増し、エイトの肺を押しつぶした。

 入り組んだ階段を登るにつれ、言い知れぬ危機感が首筋を撫でる。

 

「クルリさん、覚悟は出来たかい?」

「出来すぎさんよ!」

 

 エイト達は深呼吸して、居館へと一歩足を踏み入れた。

 

 緊張に震えるエイトを迎えたのは、一方的な蹂躙の跡だった。

 

「これは……ひどいな」

 

 玄関口は二階まで繋がる吹き抜け構造になっており、頭上にはシャンデリア、左右には甲冑が並んでいる。防衛力を持ちながらも、力を誇示するかのような豪奢な作りだったのだろう。

 しかし、今では見る影もない。経年劣化と度重なる冒険者の挑戦によって、見るに堪えない破壊跡が刻まれている。フローリングは一部腐り落ち、壁は破れ、甲冑もその大半がバラバラにされて散らばっていた。

 

 よく見ると、砕かれた甲冑は《嘆きの伯爵城》の主要な魔物、空洞甲冑の遺骸だ。火や冷気、風、雷といったメジャー属性の攻撃魔法が効きづらく、斬撃も通りにくい。


「見て見てエイト、この子達お腹のとこで真っ二つよ。ハラキリよ」


 ……はずなのだが、三割近い空洞甲冑が斬撃で壊されていた。

 焼け焦げ溶解した切断面からして、雷エンチャントの斬撃で鎧を叩き切ったのだろう。

 弱点属性って何? と言わんばかりの力押しだ。


「間違いなくダニエラさんだね。剣は苦手だとか言ってたのに」

「こっちの子ってば足しかないわ」

「上だよ。シャンデリアに引っかかってる」

 

 切った勢いで甲冑の上半身を天井まで飛ばしたのだ。メインウェポンを齧った事に少し負い目を感じていたエイトだが、このデタラメぶりを目の当たりにするとその気も失せた。

 ダニエラ作以外の残骸はもう少しまともで、装甲の薄い関節部を的確に狙って破壊されている。参考にするならこちらだろう。

 

「ここまで余裕そうだと、プランDの発動を前提に動いたほうがいいかも知れないな」

「ぷらんでぃー? 何のD?」

「土下座外交」

 

 リザはダニエラ達の攻略成功率を六割五分と称していた。エイトの見立てでは五割だ。

 逆に言えば、放置すれば五割の確率でダンジョンは解消されてしまい、エイト達の強制クエストは失敗になる。


「もしダニエラさん達がクリアしてしまいそうになったら、クルリ先生。お願いします」

「うむ。パーティー入れてって、泣き落としぞよな。お任せぞよ。びえーってするぞよ」


 流石、7つの赤点を土下座で回避したとされる女。

 エイトは無駄な心強さを感じながら、ダンジョンのより深くへと潜っていった。

 

 

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