十二話:ガースの分析
エイトがガース分のデザートも平らげ、ダニエラがダンゴムシを解いた頃……。
「そー言えば、ダーさんってば、《嘆きの伯爵城》を攻略しちゃうのよね」
クルリが脈絡なく本題に突っ込んだ。
「うむ。四日後に発つ予定だ」
「いーれてっ!」
「断る」
「えー! いじわる」
「い、いじわるではない。レベルも冒険者ランクも経験も不足しているではないか。犬死するだけだ。しかもニイガキエイトに不自然なキャラ立ちが見られる。アウトだ」
「僕は自然だ」とエイトは思った。
「そもそもだ。もうパーティーメンバーの募集はしていない。先程最後の枠が埋まったのだ。経験豊富なスカウトや魔術師がいて、腕の立つ前衛もいる。我らの不足を補うに十分な冒険者が参入してくれた」
「なにそれだれそれ!」
「それは……」
ダニエラの視線を追うと、ガースが小さく手を上げていた。
「えぇーーーっ! ウッソーーー!? ガーさんまでお城行っちゃうの!?」
「しーっ! バッカ、クルリお前声でけーよバカ黙れバカ!」
「むー! バカ多くない!?」
「必要最低限だバカ! 姐さんに聞こえたらどうしてくれっ……!」
「残念、もう聞いちゃったわ」
いつの間にかリザが背後に潜んでいて、ガースは頭を抱えた。
「伯爵城攻略なんて、あたしは反対よ。中央の要請だからお義理でクエストにしてるけど、誰もあんなトコ行かせたくないのに……」
「すんません、姐さん。でも危険は百も承知なんすよ」
「承知って、じゃあ!」
「ギャンブル抜きで一生終えたい奴は、ハナっから冒険者家業なんてやってません」
ガースの言葉は正論だ。リザは二の句が継げなくなる。
「……勝算はあるの?」
「ま、でかい口叩く程度には」
そう言って、ガースは《伯爵城》クエスト履歴の写しを開いて見せた。
「返り討ちにあった11パーティーの傾向を分析しました。前衛、後衛、スカウト、攻勢魔術師、ヒーラー。パット見穴のないパーティーが多いわけっすが……一点。連中は共通して攻勢の神聖魔術を持っていなかった」
エイトは驚いた。クエスト履歴にはパーティーメンバーの簡単なプロフィールは載っていたが、スキルまでは載っていなかったはずだ。ガースが培った人脈あっての分析なのだろう。
「恐らく、神聖以外無効の魔物がダンジョンの元凶なんでしょう。二年前、リーンバーツ大聖堂がダンジョン化した例では、同様の耐性を持った魔物の存在が報告されてます。伯爵は非常に敬虔な人物として知られてたんで、理屈は合うんじゃないっすかね」
「……まあ、そうねぇ」
「俺の槍は北の霊山で簡易洗礼を施してあります。うちの魔術師は教会付き孤児院出なんで、神聖魔術も齧ってます。そして何より……」
ガースがダニエラに視線を送る。
「レイドパーティーには天才聖騎士がいる。こいつが居れば百人力です。……ダニエラ、お前も同じ見解なんだよな?」
「む、無論ですとも! 故なればのジャスティスです! 知的ジャスティス!」
返答が若干早口だ。エイトは「あ、こいつ何も考えてなかったな」と思ったが、指摘したら今度こそ体に穴が空きそうなので黙っておいた。
「そう。考えなしの若さの発露ってわけじゃないのね」
「もう大して若くもないっすからね」
「止める理由がなくなっちゃったわね。いいわ、好きにしてらっしゃい。た、だ、し」
リザはお手上げのジェスチャーのまま、振り返った。
「みぃーんな、聞いてー! 今夜はガースちゃんの奢りだってー!」
「な、あ、姐さん! 何勝手言ってくれてんすか!」
「あーら、勝手はお互い様でしょ? 《伯爵城》の報酬に比べれば、バーの売り上げ一晩分なんてはした金じゃない」
「ちっ……。あー、はいはい、解りましたよ! いいかお前ら! 今日は伯爵城攻略成功の前祝いだ! 俺んトコのパーティーメンバー呼んでこい!」
ガースの一声でギルドが一斉に沸き立つ。
「マジかよガース! 伯爵城行くとか思い切っちまったのかよ!」
「あー、そうだよ! 笑いモンにしたけりゃ今のうちだぞ!」
「シャンパン頼んでもいいか!? 一番たけー奴!」
「好きにしやがれ!」
「あーあ、これでガースの汚え面も見納めかァ」
「んだと、グレッグ! テメェ金塊でぶん殴ってやるから覚悟しろよ!」
ある者はとっておきのジョークを披露し、飲み比べを始め、暴露話を聞かせて笑いあう。ダニエラはこっそりとアルラウネのコンポートをつまみ、クルリはハムスターのように砂糖菓子を頬張りながら、訳もなくハイタッチを繰り返している。
しかし、エイトは……。
(…………何か、引っかかるな)
ガースの「仕掛け」の考察は納得感がある。パーティーの傾向や弱点を分析し、過去事例に照らし合わせて答えを導いている。参考にすべき思考プロセスだ。
にもかかわらず、エイトは違和感を覚えていた。
ガースの考察には伯爵令嬢が登場していないのだ。アルラウネの口ぶりからは、伯爵よりも「フリーダお嬢様」こそがダンジョンの中心人物であるような印象を受けた。
それに神聖魔術以外の攻撃が通らないとしても、本来Lv22で倒せるような魔物相手に高レベルパーティーが全滅なんてことがあり得るだろうか。一人二人の生き残りがいてもおかしくないはずだが……。
熱気と喧騒に包まれながら、エイトは一人言い知れぬ悪寒を覚えるのだった。
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◆強制クエスト《嘆きの伯爵城攻略》
達成条件:ダンジョンの解消
達成期限:残り8日6時間
報酬:スキルポイント15
推奨Lv:22以上
推奨パーティー:4名
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