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十話:その騎士、凶暴につき(※挿絵付き)

 

 空から降ってきたのは、槍であり、女だった。紛うこと無く女騎士だった。

 銀色の甲冑に、たてがみ付きの兜。兜の隙間から金髪が流れ出ている。

 

 獲物の槍はガースが使っていたスピアーではなく、馬上槍試合に用いられるような大型ランスだ。

 石畳に深々と、50センチ近く突き刺さっている。

 もしあれが頭蓋に直撃していれば……想像するまでもない。

 

 サイズからして重量100キロに及ぼうかという槍を、女騎士は軽々と引き抜く。


「息災か、少女よ!」

「う、うむ。まあ石の破片が結構当たったんじゃが……」

「ここは正義の騎士が引き受けた! 悪を滅する役目は私に任せて貰おう!」

「ほ、ほどほどにのう。……うーん、最近の若いモンは攻めとるのう……」

 

 アルラウネがすたこらと逃げていく。

 追いかけたいエイトだったが、女騎士が許してくれそうにない。

 彼女はエイトを一瞥し、鼻を鳴らす。

 

「ふん、変態に名乗る名などない!」

「まだ聞いてないです」

「しかし、敢えてこう言えば、貴様とて勘付かずにはおられまい! 我は聖騎士! 正義の騎士! 煌めくジャスティスにして、神罰の具現であると!」

「全然解りません」

「なっ! 不敬罪だぞ、貴様! もっと世間の話題を追っていけ! 結構私で持ち切りだぞ!」

「すみません」


 エイトは謝った。


「いたいけな少女に変態行為に及ぼうとした挙句、この私に軽めの恥辱を味わわせるとは……! 許せん!」

「待って下さい。誤解があります」

「何が誤解だ、貴様!」

「僕が彼女を食べようとしたは事実です。しかし変態的な意味ではありません。言葉通り、物理的にです」

「ふむ、なるほど! それなら問題ないな!」

「ええ! 解って頂けましたか」


 ……しばしの間。


「…………………………む?」

「……………………………………あれ?」

「そっちの方が大問題だろうが貴様ァァァァァァァァアアアアッ!」

「しまった……! 誤解の解き方を間違えた!」


『貴き方は仰った。雷霆は切っ先にこそ宿るべし!』


 女騎士が呪文を詠唱する。ランスが雷を帯び、輝く。

 

(あれは……まさか、雷エンチャントか!?)

 

 神聖魔法Lv6かつ付与魔法Lv2で取得可能な高ランクスキルだ。

 十五メートル以上離れているにもかかわらず肌がチリ付く。

 スキルLvは2や3では効かないだろう。圧倒的に格上だ。

 

「待って欲しい! あの少女はアルラウネで、盗賊で!」

「グンベルド家代々伝わる家訓が一つ! 言い訳は一日一度までェッ! 故に!」


 女騎士が構える。殺気が肌を射抜く。


「問答無用でジャッ殺す!」

 

挿絵(By みてみん)


 聖騎士は敏捷性のステータスを捨て、攻撃力防御力を中心に神聖魔法を取得するスタイルの冒険者である。

 だからこそ、エイトも誤解が解けなければ逃げ出せばいいと考えたのだが……。

 

 しかし、女騎士は消えた。

 ウォーウルフのように横に跳ねたわけではない。騎士のそれはただの直進だ。単なる突進だ。

 視界から一度も離れていないにもかかわらず、一瞬、姿を見失ったのだ。

 気付いた時には串刺しの末路が目前にあった。


「おぁあああっ!」


> 昇華:《ヘビーウェポン》Lv1


 身を捩りながら肉切り包丁を振るい、ランスの切っ先を殴りつける。

 

 次の瞬間、視界が回転した。空と地面が交互に入れ替わる。

 いなせなかった。直撃は避けたが、弾き飛ばされたのだ。

 ヘビーウェポンを使っても、軌道を逸らす事すら出来ない。

 

 何とか受け身をとって着地。

 取り落とした肉切り包丁を左手で拾う。

 右腕は使えない。痺れて言うことを聞かないのだ。

 HPは既に三割五分が削れていた。

 

 女騎士は悠々と槍を構えなおしている。

 彼女が走った跡、石畳が直線状に焦げている。

 エイトがその破壊力に戦慄していると……ふと、『ソレ』が視界に入った。


(なんだ、これは? 破り捨てた本のページ……?)


 紙吹雪のように舞う、茶味がかった古紙達。

 

『貴き方は仰った。信仰とは焼け付くものなり!』

 

 女騎士の呪文を合図に、それらの文字が光り、踊り出す。


(まずッ……―――――!?)

 

> 昇華:《氷柱》Lv4

 

 次の瞬間、ページが一斉に輝き、雷を纏って炸裂した。

 

 太陽同然の光に視界が灼ける。電撃が臓器を震わす。

 

「かっ……はぁっ……!」

 

 エイトのHPはもはや半分以下になっていた。

 いや、それでも幸運だ。咄嗟の判断で氷柱弾を発射、近傍のページを貫いていなければ、間違いなく丸焦げになっていた。

 

 爆発が氷柱を蒸発させ、蒸気がエイトを包む煙幕となる。

 しかし、視界の有無で逃してくれる相手ではない。

 

「ジャァァァァアアアアアアアアアアッ!」

 

 追撃。声は頭上から。

 

 再び女騎士は隕石の如く落下する。

 しかし、煙幕のお陰で狙いは先程より甘い。

 エイトは一足飛びに跳ねてそれを躱す。

 

> 昇華:《ヘビーウェポン》Lv1

 

 騎士が着弾する。

 地響きと共に石畳がめくれ上がり、クレーターが生まれる。

 

「スティッ……!?」

 

 槍が予想以上に地面に深く突き刺さり、騎士が息を呑む。

 エイトがすれ違いざまにランスの重量を倍加したのだ。

 

 一瞬とはいえ、相手は得物を失った。反撃に打って出るなら、この瞬間。

 相手を傷つけずに話を収めよう、などと言う余裕はとうに剥ぎ取られている。

 エイトは肉切り包丁を振り上げ、騎士の左腕めがけて……。

 

(……あれっ?)

 

 次の瞬間、エイトは再び宙を舞っていた。

 女騎士がランスを軸に、廻し蹴りを炸裂させたのだが、エイトには理解する余裕も時間もなかった。

 

 今度は受け身も敵わない。

 無様に空を舞い、図書館の外壁に激突し、ずり落ちる。

 目が霞む。激痛に体が竦む。

 壁にもたれかかっても、包丁を杖代わりにしても、立ち上がれない。

 大腿骨が折れているのだ。

 

「ふん、小細工は得意なようだが、所詮は変態か」

 

 女騎士が再び槍を構える。

 両腕は痺れて使い物にならず、足は今しがた折られた。

 防ぐ手立てはなく、逃げる時間もない。


(ごめんクルリさん。これ、もうどうしようも……)

「これで仕上げだ! 我が竜骨の聖槍を喰らって逝けッ!」

(……あるかも知れないな)


> スキル《剛健歯》Lv2を獲得しました

> スキルポイント4→2


 みたび、女騎士が突進する。

 質量にして200キロ、速度にして時速400キロを超えるであろうそれが、雷を纏い飛来する。

 エイトの体を貫くだけでは飽き足らず、図書館の壁を崩壊させるであろう、必殺の一撃。

 エイトはそれを真正面から受け入れて……。

 

「な……っ!」

 

 食らった。

 

「馬鹿な、我が槍を、歯で受け止めっ……!?」

「ふらっふぇ、ふぃいんふぇすね?(喰らって、良いんですね?)」

「貴様、やめろっ! 歯だけに歯向かう洒落っ気か! 素直に死ね!」

「ふぃーや(いいや)」


 雷撃が体を焼くが、エイトは意にも介さない。

 鋭い歯がランスにめり込む。


「ふぁべろと、ふぃっふぁのふぁ、ふぁなふぁふぁ(食べろと、言ったのは、あなただ)」

「おい……う、嘘だろう。りゅ、竜骨の槍に……傷が……!」


 ランスが呻きをあげて拉げ始める。

 

「や、やめ……! これはお父様から賜った、大切な……! わ、解った。落ち着け。もう一度言い訳を聞いてやる、だから……!」


> 《竜骨の槍》Lv71を捕食しました

> 《弱肉強食》起動

> スキルスロットが埋まっています

> 《ヘビーウェポン》Lv2を捨て《怒龍の猛進》Lv3を獲得しますか?


(うーん、意外とスナック感覚)

 

 槍を最後の晩餐に、トドメの一撃を覚悟したエイトだったが。

 それは訪れなかった。


「……ち、父上の……槍が……!」

 

 女騎士が力なくへたり込んだのだ。

 ダンゴムシのように縮こまり、俯いて肩を震わせている。よく見ると、兜の隙間から雫が……。


「あの」

「な、泣いてなどいない!」

「まだ聞いてないです」

「泣いてなどいないが、い、今ちょっと行動不能だ! に、逃げるなよぉ! 必ず、必ず、縊り殺してやるからな……!」

「まあ、足折れてるので……」

「そ、そうか……ひっく、ひっく……」

「あの」

「泣いてない!」

「もうちょっと槍齧っていいですか」

「だめぇ!」


 騎士は全く泣き止みそうにない。

 スタートからしてぐだぐだだったが、ぐだぐだ感溢れる結末だ。


「……うっわ、なんだこれ。何この状況」


 エイトが(《怒龍の猛進》を試してみようかな)と思い始めた頃、露骨にドン引きした男が現れた。


「エイトにダニエラじゃねーか。何やってんだお前ら」


 先輩冒険者のガースであった。

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