プロローグ
コンクリートビルの建ち並ぶ都会の隅に、蜂ヶ谷翼は住んでいた。
現在高校二年生。友人関係は良好。少しだけ人と話すのが苦手な翼だが、友人達は仲良くしてくれている。
好きなものはネットゲーム。苦手なものは女子。
「翼、今日父さん遅いから夕飯頼んだぞ」
「はーい」
慌ただしく玄関を出ていく父を、朝食を食みながら見送る。
二人暮らしだとこういう時嫌だな、と心の中で思う。
支度をし、玄関に鍵をかけ、自身も学校へ向かおうと家に背を向け、何気なく空を見上げた。
瞬間、
空が、裂けた。
いや、正確には、翼の頭上の空間、が。
裂けた、としか言いようがない。
見えない巨大な目が目蓋を開けたかのようだ。
頭上に、白い空間が出来ている。
翼は声も出せずに立ち止まる。
逃げた方がいいと頭ではわかっているのに、足どころか指先すら動かせず、ただ呆然と上を見上げた。
__勇者よ
「…っ!?」
脳に直に響いてくる声。
__我が世界を救ってくれたまえ
次の瞬間、体が光に包まれる。母の腕に抱かれているように暖かい。
一瞬の浮遊感の後、暖かさが消えた。
少しだけ残念に思いながら無意識に閉じていた目を開く。
ピカピカに磨きあげられた白い床と壁。
床にはシミ一つないふわふわのレッドカーペットが敷かれ、壁には何処かの国旗が飾られている。
そして、手前にある小さな階段の奥の椅子には、豪華な服を着て王冠をかぶった五十代くらいの男がどっしりと構えて座っていた。
まるでRPGにでも出てくる城のようだ。
ただ一つ、
この広間に現代日本の装いの老若男女が、千人ほどひしめいていることを除けば。