ゆっくり眠りな
戦場に戻ったリティアを送り出したライトに、マーガレットが声をかける。
「ライトは戦いに行かないの?」
「俺は行かない。俺の役割は、リティアを戦わせる事。逆に俺が戦ったら、余計に足手まといが増えるだけだろう?」
その通りね、とマーガレットは微笑んだ。ふたりにはどこか、余裕に表情がこぼれていた。
リティアは足元に近い手を斬っているカリナに加勢する。
「カリナ! 状況は?」
「他の手が邪魔で切り落としにくい。だけど、あと少しで出来そう」
「分かった。私は邪魔が入らないようにするから、カリナは切り落としてくれ」
リティアはカリナに攻撃しようとする手を斬っていく。何度も斬られ、それぞれの手には傷が残っている。カリナが斬っている手は半分まで斬られている。すぐに斬れそうだ。
「リティア、次の一手で斬れる。危ないから避けて」
そう言うと、カリナは最後の一手を加えた。リティアも最後に傷をつけると、横へ避けた。
体を支えていた手が斬り落とされ、人龍はバランスを崩した。同時にリシャンとモーテル側の手も切り落とされたようだ。
支えとなっていた二本の手が同時に斬り落とされ、人龍は地面に倒れた。砂埃がうっすらと舞う。
すかさずリティアは人龍の首に近寄り、頭に乗る。
「随分と迷惑をかけてくれたな。だけど、国を守ってくれたことには感謝する。……ゆっくり眠りな」
そしてリティアは、人龍の首を一斬りで落とした。
人龍の首を斬り落とした後は、静かになった。戦いが終わり、そして、全てが終わったのだ。
「終わったな」
人龍は灰になり、潮風に吹かれ消えていった。
するとリティアは地面に倒れ、仰向けに寝転んだ。
「あー、終わった終わった……。こんなに戦ったのは初めてだ」
人龍が灰になったのを見て、ライトとマーガレットは森から出てきた。ライトはクロンを背負い、顔色は大分良くなっていた。
モーテルは、機体の下地気になっているカジュイの元に向かった。既に拳銃を下ろし、ぐったりとしている。
「……王、大丈夫ですか」
「あぁ……モーテルか。倒せたのか?」
「はい。リティア・オーガイトが最後の一手を」
「…………彼女には悪いことをしてしまった。あの化け物を狙っていたのに、まさか当たってしまうとは」
そう言うカジュイの近くで、モーテルは地面に転がっている拳銃を手に取った。
「そうですね、貴方は悪いことをしてしまった」
人龍を倒し、サイハテの国を襲うものはいなくなった。避難していた国民は地上に出て、建物がぼろぼろになっていることに驚いてはいたが、無事倒すことが出来たことに安心していた。
「みんな、ありがとう。感謝しても仕切れんわ」
「いいんだよロジ、みんなが無事で良かった」
「ああ。避難していては様子が分からなかったが、大変だったことは振動でよく伝わった。何度も感謝する、ありがとう」
そう言ってロジは頭を下げる。
「なあライト。私さ、今回のことで分かったことがあるんだ」
「何だ?」
「……人龍の封印を解いて、ここへ戻ってくるとき、見たんだ。先の海の上を、船が浮いているのを。それってつまり――最果てがないってことだろう?」
ライトは溜め息をつく。「今頃気付いたのか?」
「何だよライト、お前は知っていたのか?」
「当たり前だろ。世界は丸いんだ、それなのに、最果てが存在するわけないだろ。……そんなこと、小さい頃から知っていたさ。大人たちは、信じたくなかったんだ。果てがあることでしか世界に安心を抱けないんだからな」
次回、最終話エピローグです。
明日の午前中に投稿予定です。
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