相応しくないもんな?
再び起き上がった人龍は、こちらに顔を向け、敵と認識する。四人は体制を整えると剣を持って構え、いつ攻撃が来ても避けられるようにする。
四人は完全な状態ではない。負傷者もいる。だがそれでも戦おうとするのは、後ろには守らなければならないものがあるからである。
人龍は空を飛ぼうとした。だが、バランスを崩してしまう。リティアが腕を切り落としたことで、うまく飛べなくなったのである。
すると人龍はまた雄たけびを上げ、頭から四人に向かって突撃してきた。四人は左右に避け、砂埃を上げるも被害を最小にとどめた。
隙を見たリティアは人龍の頭に飛び乗った。続いてカリナも乗ろうとしたが、その前に人龍が頭を上げてしまった。リティアだけが人龍に乗った。
バランスを崩さぬよう頭を歩き、首元まで寄る。あの三人が鱗を剥がしていたおかげで、その作業を省くことが出来た。早速首筋に剣を入れる。すると人龍は空に向かって叫び声のようなものを上げた。そして首を大きく揺らし、リティアを落とそうとする。
「うおっ」
リティアは落ちないようにしがみつくが、揺れは治まらない。
人龍の意識がリティアに向かっている隙に、地上に残っている三人は人龍に斬りかかった。地面に近い手を切り落とせば、人龍は体を起こしていることも難しくなる。左右の手に斬りかかる。
リティアはしがみつきながらも剣を入れる。何度も何度も入れ、ようやく半分斬ったと思ったその時、リティアの目の前に何かが現れた。――手だ。
咄嗟で逃げようとしたが、リティアは手で弾き飛ばされてしまった。
どうしようもない空中で、どこからかリティアの名を呼ぶ声が聞こえた。
追い風を受ける中で、リティアは体をひねらせ地面を向く。そして、怒りで立っている人龍の尾に掴まった。また飛ばされないように早く地面に下りる。
「せっかく半分まで切れたって言うのに、振り出しかよ」
リティアは尾を掴んだ時に鱗で傷ついた手のひらを見る。血が出ているが、こんなことでどうこう言ってられない。強く握ると、「それにして、まだぴんぴんしているって、こいつはどういうことなんだぁ?」と、人龍を見上げた。
首を半分斬られているというのに、人龍はその影響を見せない。リシャン、モーテル、カリナも人龍の首に近寄ろうとするが、手が邪魔をして先に通れない。また最初のように突撃してくることもなさそうだ。そうなれば、人龍の頭に近づく術がなくなってしまう。
「いくらか手は斬ったが、残りの手が邪魔をして登れないな。というか、手を斬ったのはいいけど逆に登れなくなってるっていうのが悔しいところだな。だとするともう、やっぱり、自力で登るしかないのかねぇ」
さすがに人の力だけではあそこまで登るのは容易ではない。どれか飛行物体が生きていればよかったのだが、人龍が暴れたことによりミマーシ王国の飛行物体は全滅だ。時間はかかり体力も消耗してしまうが、もう自力で行くしかないようだ。
リティアは柄を強く握ると走り出した。
尾の上を走り、鱗の小さな突起に足をかけて走る。その時に尾がぶつかって来そうになったり、手が襲いかかってきたこともあった。何度も落ちそうになりながら、人龍の首を目指して走っていく。
「リティア! 後ろ!」
それとほぼ同時に、左肩に痛みを感じた。何かが貫通した。それは、小さな弾だった。
振り返り下を見る。小さくだが、拳銃の先をこちらに向けたカジュイの姿があった。機体の下から上半身だけを出し、力を振り絞って撃った、という感じである。
リティアは人龍に剣を刺し、地面に落ちるを防ぐ。この高さから落ちれば、ひとたまりもない。
「人がお前の国の為にも戦っているのに、よく撃てたもんだ……それとも、狙いは人龍だったか?」
だが、人龍の上で油断できない。手がリティアを押しつぶそうとしているのだ。リティアは剣を抜き、人龍の上を逃げ回る。肩を抑え血を止めようとするが、動きながらではほとんど意味はないだろう。
いくら避けても、次々と手が襲いかかってくる。もう避けられない――そう思った時、リティアの体がまた、宙に浮いた。今度は人龍によるものではなかった。
モーテルがリティアを抱えていたのである。
「オーガイト、一旦地上に降りろ」
「はあ? 何言っているんだ、まだ戦わないと……」
「今のお前は、ただの足手まといだ」
モーテルに地上に下ろされたリティアは早速マーガレットの治療を受ける。リティアは不満そうに人龍と戦う三人を眺める。
「――なあリティア、良い事教えてやろうか?」
ライトが突然そう言った。
「良い事?」
「ああ、お前がこの戦いで必要なことだ」
「必要な事?」
「――協調性って知っているか? いくらお前に力があっても、それがなければ戦いことは出来ない。これまで一対一でしか戦ったことがなかっただろう? もしくは一対二、一対三。リティアはいつ見た時でも、一人で戦っていた。自分の事しか考えていないんだよ。仲間と戦うっていう事は、周りをよく見なければならなくなる。味方がどこにいて何をしているか、だったら自分はどこで何をしなければならないか。リティアは今戦いながらでも、そんなことを考えたことがあるか?」
包帯を巻かれながら、リティアはライトを見上げる。互いに見つめ合い、ふたりは何を考えているのだろうか。
「……ライト、傷が痛くて全然聞いていなかった」
「はあ!? リティア、めっちゃ聞いている感じだったじゃねぇか」
治療を終えたマーガレットにお礼を言い、立ち上がる。
「でも、つまり周りに気を配れって言う事だろ? 私に抜けているのはそういうこと。自分の事しか考えていない奴に、大会三連覇なんていう称号は相応しくないもんな?」
ライトは微笑み、頷いた。
「じゃあライト、何か作戦はあるか?」
「みんなが手と戦っているのにまず加勢するんだ。そして、人龍が体勢を崩したところで首を切り落とす。お前なら出来るだろう?」
「ああ。ちゃっちゃと終わらせて来るさ」