興奮するよな
人龍が起き上がる前に仕留めなければならない。
四人でまず、体の至る所を傷つけてみる。そうすればどこか弱点らしいところが見当たると思ったからだ。傷を入れても微塵も動かない人龍は、どういう神経をしているのだろう。
リティアはもし動き出したらこちら側が少しでも優勢になるように、太い人間のような腕を切り落としていく。
「はぁ、何とも地味な作業だな」
「リティア、口よりも腕を動かせ」
人龍の上に乗っているリティアに向かって、ライトが言う。ライトは剣を持っていないので作業に参加していない。
「おいライト! お前も手伝え!」
「剣がないからできない」
するとリティアはどこから取り出したのか、皆が持っているのと同じ大きさの剣をライトのぎりぎりに投げた。「危ないな! 怪我するところだったぜ」
「避けたんだよ。それ、兵士の剣を拝借した。それ持って、お前も手伝え」
ライトは仕方ないと言う風に剣を持ち、人龍に上る。
「ところでライト、人龍の弱点は何だ?」
「知らない」
他人事のような言い草に、リティアはライトの胸倉を握った。
「はあ!? 知らないってどういうことだよ」
「本で少し見ただけで、弱点なんて書いてなかったんだよ。けど、大体の獣の弱点が通じることは分かってるよな?」
リティアは力を弱めた。
獣には、どれにでも当てはまる弱点がある。相手がどんなやつでも、首を切り落とせば動かなくなり、灰になる。
「……それをこいつにしろと?」
「ああ。出来るだけ早く頼むな。奴が動き出す前に」
「だったら最初からそれをすれば良かったんじゃねぇのか?」
少しキレ気味にリティアが言うと、ライトはある方向に指をさした。「みんな、それをやっている」
「なんだ、それだったら良いじゃねぇか。私は、もし起き上がった時のために腕を切り落とし続けますか」
作業に戻るリティアは、また腕を斬っていく。刃を入れると、赤黒い体液が出てくる。もちろん、この腕を一振りで切り落とすことなど出来ない。何度も何度も刃を入れて切り落としていく。
ライトは他の三人を見る。
首は太く、腕を切り落とすより手がかかる。それに、分厚い鱗があるため、戦っている不安定な状態では時間がかかるだろう。今の内が一番切り落としやすいだろう。
人龍の体が、再び痙攣しだした。異変にすぐに気付いた皆はすぐに人龍から降り、距離をとる。
「まさか、もう動き出すのか?」
マーガレットの元へ避難する途中でリティアがそう言葉をこぼした。
「いや、もういつ動き出しても良かった。封印されていた獣が解き放たれた時、しばらく動いていなかった代償で体がついていかないんだ。あんな大きな龍でも、十分もすれば起き上がる」
「まあ、十分で腕を二本切り落とせたのは大手柄だよな?」
疑問形だが、ライトは答えなかった。腕を切り落としても、行動次第では優勢にでも劣勢にでもなることに気付いていたからである。
「マーガレット、もう一度森の中に避難してくれ。まだ人龍が動き出す」
怪我人を連れて、森の中に避難する。既に治療を終え、クロンには薬草を飲ませたようだがまだ少し顔色が悪い。
「クロン、大丈夫か?」
小さく頷いた。
「悪かったな、急に刺して」
「……良いんです。僕も、何も考えずにリティアさんを襲おうとしたんですから……。リティアさん一人が抜けただけでも、状況が不利になりますよね」
「クロン、あまり喋らない方が良いわ」
リティアはクロンの頭に手を優しく乗せた。するとクロンは、優しく微笑んだ。
ずり、と何かが動いた。誰でも、見なくても分かる。
リティアはクロンの頭から手を放した。最後に、「任しとけ」と告げた。
人龍がゆっくりと起き上がった。そして、雄たけびを上げる。
「うわお、こりゃやばそうだ」
リティアがそう言うと、モーテルが反応した。「倒せる自信、無くすなよ」
すると、口角をぐっと上げた。
「逆に、興奮するよな、こういう奴相手すると思うと」