どうせ死ぬんだったら
現れた化け物は、龍とも人間とも取れる形をしていた。
体をくねらせ、その胴からは左右に十本、人間の手のようなものが生えていた。鱗を体中に張り巡らせ、隙間からはまだ現実世界の空気に慣れていないのか、赤黒い液体が滲み出ている。
それが出て来たと同時に物凄い風圧が吹き荒れ、地上にいる人々を襲った。
ライトたちは木の陰に隠れしがみつき、吹き飛ばされないように耐える。一方兵士たちはもろに風を受け、数名は海に吹き飛ばされてしまった。
風が治まった後も油断は出来ない。
化け物は地面に向かって突撃し、人々を押しつぶしていくのだ。それにいち早く気付いたライトは、マーガレットの目を塞いだ。
砂埃ではっきりとは見えないが、うっすらと血飛沫が舞い上がっているのが見える。兵士の叫び声に耳を傾けることは出来ても、助けることは出来ない。
家屋を壊し、時には森に突撃することもあった。いつかここに来るのではないか、そんなことを考えながら身を潜めていた。
尾が空に浮いている、王家を乗せた飛行物体に当たった。
「ライト」目を隠されながらマーガレットが言った。「状況は見えなくても分かる。……ねえ、リティアは大丈夫なの?」
それは、ライトも考えていた。
化け物が出てくる振動で、あの洞窟が崩れている可能性がある。国民が避難している場所は地面が陥没していないところを見て大丈夫そうだが、向こう側は分からない。神祠があった部分は崩れている。リティアが無事だと言い切ることは難しい。
「分からない。生き埋めになっているかもしれない」
「だったら、早く助けに行かないと」
「無理だ。今の状況で助けには行けない。こいつを何とかしてからじゃないと」
「何とか……って?」
ライトは唇を少し噛んでからこう言った。「もう一度封印するんだよ。どこかに行かれれば、たくさんの国に迷惑がかかる。……ミマーシ王国だって、危険にさらされる」
「そんな……! でも、封印するには封魔士の方がいないと……」
「問題はそこなんだよな」
現在世界にいる封魔士の人数は減少傾向にある。それは、封印するべき野獣が減ってきているからだ。人々が大型の兵器を作り、倒すことが出来るようになった以上、封魔士はいらなくなる。
今から封魔士を探そうにも、それまでにこの化け物が逃げてしまうだろう。
一通り片付けた化け物は、突然地面に倒れてしまう。少し痙攣しているところを見て、しばらくすればまた動き出すだろう。
森から出て、早速マーガレットは治療を開始する。
その時、崩れた神祠の方からライトを呼ぶ声がした。振り返ってみると、そこには剣を振り回して自分の存在をアピールしているリティアの姿があった。
「リティア! 生きていたのか」
「ああ、何とかな。それより、こいつは一体なんだ?」
ライトは化け物を見た後に言った。
「これは、人龍だな」
「じんりゅ? じんりゅうじゃないのか?」
「古い名前だ。昔の人はそう呼んでいた。別にどちらでも変わりないがな」
ライトはこの後の行動をリティアに説明する。「リティア、怪我をしているのは分かっているが、早速次の作戦を伝える。封魔士がいない以上、人龍を再び封印することは不可能だ。手はもう一つしかない。……奴を倒す」
「腹の傷は全く癒えてないっていうのに、厳しい事言うなぁ。まあけど、どうせ死ぬんだったらちょっとは貢献しないとな」
リティアはライトの頭を横から叩いた。ライトは何かを感じ取った。「……俺はやらねぇからな」
「オーガイト!」
倒れた人龍を飛び越してやってきたのは、モーテルだった。
「モーテル! 王家は大丈夫なのか?」
「何とかな。それよりも、これをどうする気だ?」
「まあ、倒すしかないだろうな。モーテルも手伝ってくれるよな?」
「そのつもりで来た。一応、故郷だからな」
「一応って何だよ」
リティアは作戦をリシャンに伝えると言って走って行った。ついでにマーガレットに治療してもらいのだろう。一応、止血をしておいた方が良さそうだ。
二人になったライトは、モーテルを見ずに言う。「こいつを倒せば、終わりだよな?」
「……そうなることを願おう」
人龍が動き出す前に仕留める。
準備を終えた剣士、四人は剣を持ち、人龍に立ち向かう。