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サイハテの国  作者: ヤブ
最終章
86/93

手遅れになる前に

 始めは順調に進んでいたものの、今はペースが落ちてきている。

 敵は半分にまで減らした。だが、二人の体力は半分を切っていた。これでは、最後まで体力が残るか分からない。


「リシャン……いけそうか?」

「難しい。倒せる気がしない」


 さすがに今まで、無傷で戦ってきたわけではない。腹や手、足には切り傷を作り、血が出ている。あまり放っておくわけにはいかない。早く片付けて手当てをしたいところだが、兵士を倒せるかが問題である。


 少しでも油断すれば、敵に囲まれてしまうそうだ。そうなってしまえばより集中力を研ぎ澄まさなければならなくなる。体力が減ってきた今、それだけは避けたい。


 そもそも、三百人を二人で相手するという考え自体が可笑しいのである。戦える人が少ないので仕方ないのかもしれないが、この人数比で半分にまで減らせたのならば上出来だろう。敵は既に国の半分にまで攻めてきた。みんなが避難している入り口には近づけたくないが、どこまで持つだろうか。



「きゃああ!」


 背後で声がした。横目で見ると、祠の入り口に兵士がおり、国民を襲っていたのである。今ここを離れると、もっと攻められることになる。


「ライト! 後ろ!」


 敵の接近にやっと気づいたライトだが、(かが)んだ体制で剣をよけるのは難しい。避けても他に被害が出るかもしれない。

 ぼこっと、鈍い音がした。それと同時に兵士は倒れ、その後ろからマーガレットの姿が見えた。大きな木刀を持ち、それには血が付いていた。


「大丈夫? 怪我はない?」

「ああ、助かったマーガレット。よくやったな」

「みんなを守るためだからね」


 遠目で見て、無事だったことはよく分かった。安心したリティアだったが、こちらで油断することは出来ない。

 安心したのも束の間、今度は隣で叫び声がした。





「これで、全員避難は完了したな」

「ええ。みんな、暗くなるけど蓋を閉めるわ。ここが開くまではじっとしていてね」


 そう言って、入り口に蓋をした。国民は不安げな表情をしていたが、無理もない。出来れば、マーガレットやリシャン、リティアとライトにもここに来てほしかったに違いない。そうしたいのは四人も山々だが、敵を排除しなければ蓋が開けられてしまう。


「あとは兵士をどうにかしなくちゃいけないけど……」そう言って、敵が群がる方向に顔を向けた。

「ライト! あそこを見て!」


 マーガレットに言われなくとも、その光景は見えていた。

 敵の隙間から見えるのは、負傷したリシャンを支えながら戦うリティアの姿。リシャンの横腹からは血が滲んでいる。リティアは自分の敵と戦いながらも、リシャンの敵とも戦っている。あれでは、いつリティアが怪我をしても可笑しくない。


「いつからあの状態で戦っているんだ……?」

「分からない。けど、もうリシャンの方は限界のようだわ、私、いってくる!」


 駆け出したマーガレットの腕をつかんだ。「駄目だ、巻き添えを食らう。俺が行ってくるから、ここで待ってろ」


 ライトは敵からの攻撃を避けて、リティアの背後に駆け寄った。

「リティア、大丈夫か?」

「よおライト、よくここまで無傷で来れたなぁ」

「リシャンを俺に渡せ。治療する」

 ライトは奪い取るようにリシャンを抱える。

「……ライト、私も連れて帰ってほしいんだけど」

「はあ?」


 その時、ちらりと見えたのは血。頭から顎にかけて流れていた血は、嘘でも平気とは言えないほどだった。「リティアお前……! その状態でどれくらい戦っていたんだ!?」

「さあ……リシャンに気をとられて、敵に傷を作られた……。このままじゃ、最後まで持つか分かんねぇ。いや、最後までは絶対に持たねぇな」


 そう言いながら、リティアは攻めてくる敵を斬っている。ライトもリシャンの剣を奪って剣を弾いていく。リティアはそれなりに動いてはいるものの、最初に比べれば動きが落ちている。


「じゃあどうすんだよ! 一応避難は出来ているけど、場所を見られている以上は敵を先に進めることは出来ねぇ」

「ライトが戦ってくれればいい」

「足手まとい食らうじゃねぇか! 俺死ぬぞ!?」


 するとリティアはこの状態にもかかわらず、笑みをこぼした。「私が助けていなかったら死んでいた命だ。私の為に死んでくれても良いんじゃないのか?」

 するとリシャンを奪って走り去ってしまった。置き去りにされないようライトも後を追おうとしたが、敵に道を塞がれてしまう。


「おい! リティア! まじで殺す気か!?」

「時間稼ぎだけ頼む! 私が切り札を起こしに行く」


 切り札――そう言ってリティアは斜め上を指した。その方向を見なくとも、リティアが何のことを言っているのかは理解出来た。

「まさか……」

「手遅れになる前に起こす。それまで、頼んだぞ」


 リティアは走って行った。どうせ止めることは出来ない。ライトは仕方なく、時間を稼ぐことにした。

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