無傷では帰れねぇんだな
避難指示をしているライトとマーガレット。
ライトは国民を避難させる場所として、前にモーテルが連れて行ってくれた神祠の地下を思い出した。もしロジがその場所を知っているのならば、ロジもそこに避難すれば良いと考えているのではないだろうか。
ライトは避難しているかの確認も含め、ロジの家に向かった。案の定、ロジはまだ家にいた。
「ロジ、早く避難するぞ!」
「ああ、分かっておる」
ロジは少し覚束ない足取りで家を出る。
「ロジ、どこか避難できる場所はないのか?」
ライトがそう問うと、顔をしかめ、仕方ないと言う風にライトに教えてくれた。「隣にある祠には、地下への道を隠す役割もしておる。そこを壊して、その中に避難すればよいじゃろう」
指示に従い、ライトは祠を蹴り飛ばした。すると、地下へと続く入り口が現れた。おそらくここは、あの場所へとつながっているのだろう。つながっているかは分からないが、同じような構造になっているのだろう。
ロジに続いて、逃げ惑っている国民を中に誘導する。マーガレットにも伝え、彼女は入り口の周りに、ライトは遠くにいる国民に避難を促す。
背後に気配を感じたライトは、すぐにその場を離れた。近くに兵士がいたのだ。戦うための武器を持っていないライトにとって、この状態は望ましくない。思わず舌打ちをしてしまう。
「ライト・オーガイト。貴様は王からの命令により、無傷で連れて帰れと命令された。大人しくこちら側へ来てもらおうか」
「誰がっ――」
口を軽く抑えた。作って話すのを忘れるところだった。ここでまた怪しまれるのは時間の無駄だ。
――作る必要はあるのか?
今は作って会話している場合ではない。早く避難させなければならない。
「……誰が行くかよ」
「お前の経歴は把握済みだ。本当の両親も義理の両親も殺され、自分を作って生活している。王の命令により、貴様はシロナ様と婚約することを命令された」
「婚約? ……あのシロナと?」
「ああ。学力一位と二位だ、賢い子どもが生まれることは確実だろう」
「親なんて関係ねぇだろ。俺の母親は阿呆だった」
「父親の方は一位を争う学力の持ち主だ。加えて運動能力も優れていた。貴様の運動能力が悪いのは、遺伝子違いか」
「うるせえ、運動能力もばりばりあるっての」
ここでぐだぐだ言っていてもきりがない。ライトはさっさと祠に戻ろうとした。だが、兵士がそれを許さなかった。目の前に剣を出し、行く手を阻んだ。
「姉の手助けをしたい事は分かる。だが安心しろ。リティア・オーガイトも生きて連れて帰る。無傷ではいかんかもしれんがな」
ライトは刃を握ると、柄を握っている手を蹴り上げた。剣はライトの手を支点に反転し、反対の手で剣の柄を握った。そして、刃先を兵士の顔面ギリギリに突きつけた。
「なっ……」
「悪いな、これくらいのことは楽勝でできるんだ。今はこんな所で油を売っている暇ねぇんだよ。みんながこの国を守るために必死になって戦ってる。それを、俺だけが楽して上から見てるわけにはいかねぇ」
ライトは剣を下ろすと、地面に刺した。「あんたらには悪いけど、無傷では帰れねぇんだなこれが」それだけ告げると、ライトは祠に向かって走った。
剣を奪っていきたかったのは山々だが、そっちはリティアとリシャンに任せてある。ここで剣を奪って去れば、ライトは彼らを信用していないことになってしまう。いざとなれば、腕がある。
ライトは逃げそびれた人がいない確認しながら、祠へ向かった。
★ ★ ★
「ただいま戻りました」
王家の元へ戻ったモーテルは、カジュイに挨拶をした。カジュイの他にも王家となるお方がいる。
「戻ったか。どうだモーテル、何か問題はあったか?」
「いえ、特にありません」
「そうか良かった。この作戦が失敗してしまうと、国は大損害を食らってしまう。それだけはなんとか避けなければな」カジュイは頬を緩ませている。口ではあんなことを言っているが、勝利を確信しているのだ。「そうだ、クロンはどうした?」
「クロン様でしたら、個室の方へ。体調がすぐれないようで」
「そうか……サイハテの国の汚れた空気のせいかのぉ?」
そう言ってカジュイは大きく笑った。モーテルは、強く拳を握った。




