それぞれの謎6-2
三人が目覚めた時には、既にモーテルは起きていた。
モーテルはマーガレットが目覚めたのを確認してから、後を追って階下に向かった。それも、まるでついさっき目を覚ましたかのように振る舞って。
「おはよう、マーガレット・アルティーヌ」
「おはようございます、モーテルさん。マーガレット、と呼んでいただければ良いですよ? 私としては、メグと呼ばれたいのですけどね」
マーガレットはモーテルをからかうように言った。
モーテルはマーガレットに歩み寄り、何か手伝うことはないか問うた。マーガレットは顎に手を当てて考える。
「じゃあ、この野菜を切ってもらおうかしら」
朝食の匂いを感じ取ったリティアは、瞼を開けて直ぐに起き上がった。「……魚か」
そう呟いて起き上がると、隣で寝ていたクロンが身動ぎをした。リティアはクロンを起こすついでに、反対側でうつ伏せで寝ているライトも起こす。
「おはようございます、リティアさん」
クロンは目覚めが良く、軽く起こしただけですぐに起きてくれる。前にライトが起こした時は少しぐだぐだ言っていたが、偶然だと思っている。
一方、ライトはまだ寝ている。昨日モーテルと話し終わった後、遅くまで起きていたようだ。
「ライト起きろ。朝食にはきっと魚があるぞ」
「……俺はそんなに好きじゃない」
ミマーシ王国にいる時、クロンの前でも作っていたライトだが、ここでは作っていない。ライトの変化に気づいてはいたものの、「ここに来て変わったんですね」と怪しむ様子は見られなかったのだ。
「ライトさん、起きて下さい。さっき、メグさんが朝食が出来たと叫んでおられましたよ」
「……メグ、ね。リシャンでさえそう呼んでいなかったのに、妬かれるんじゃないんですか、クロン様?」
「そんなことないと思いますよ。リシャンさんの前で話をしていましたから」
あらそうですか、とライトは布団に潜った。
しつこく起きないライトに、リティアは体を揺さぶった。「ライト! いい加減起きろよ!」「良いじゃないか、学校があるわけでもなんだから」「いつミマーシ王国が来るか分からないんだ。いつでも準備万端の状態でいるのが普通だろ!」「俺がいても足手まといだ」「てめぇの頭脳が必要な時が来るかもしれないだろ!」
二人の喧嘩を見ているだけのクロンは、静かに部屋を出てリビングに向かった。
食卓には既に朝食が広げられ、モーテルとマーガレット、リシャンは着席していた。
「おはようクロン」
「おはようございます」
「あら、リティアとライトは?」
「ライトさんはまだ寝ていたいようで、彼をリティアさんが必死で起こしています」
放っておきましょう、とマーガレットは微笑みながら言った。二人を置いて先の食事を始める。今日の朝食にはリティアの予想通り、焼き魚が置かれていた。今朝捕れたばかりの新鮮魚である。
食事をしながら、クロンはモーテルに問うた。
「モーテル、ミマーシ王国はいつ攻撃に来るの?」
口の中にある白身を飲み込んでから返事をする。「もう、いつ来ても可笑しくないと思います。もう既に近くまで来ている可能性もあります」
クロンは頷く。モーテルとクロンが来てから、既に一週間が経った。案外早く進み、既にミマーシ王国がここに向かって進行していることは間違いない。本当に、今やってきてもおかしくないのである。
「もしやってくるとすれば、南からでしょう。この辺りは危険でしょうね。日中は外に出るなどして、身を守るのが一番だと思われます」
「ねえモーテル」
「はい」
「どうしてモーテルは、ここに来たの?」
「王の命令だからです」
「でも、下見に行った方が良いって言い出したのはモーテルだっだよね?」
モーテルの箸が止まった。そしてゆっくりとクロンを見る。「やはり聞いておられたのですね」「聞くも何も、声が外に漏れていた」
居づらい空気に、マーガレットとリシャンは顔を合わせた。王家のクロンと王家内の剣士として動くモーテルの話の重みは十分伝わってくる。少し幼いように感じるクロンからでさえ、別の雰囲気が漂っている。
それを壊すように、あの二人がリビングに入ってきた。「ほら! 私が言った通り魚があるじゃないか」「誰だって匂いを嗅げば分かるだろ」
二人は空気を壊したことに気づかず、おはようと言った後に朝食を食べ始めた。その後モーテルがクロンの質問に答えることはなかった。