それぞれの謎6-1
二人のモーテルへの警戒は、強まるばかりだ。
封印されているところをみると、あの札全てを剥がすと封印が解かれる。遊び半分で封印が解かれることを恐れたため、口外しないようにしたのだろう。
同じ部屋で寝泊まりするのは、辛いものであった。いくら間にクロンを挟んでも、気まずかった。
そんな日が続いたある日、モーテルが突然に声をかけてきた。
「……ここへ来る前に、家にクロン様が来られただろう」
その時すでにクロンとリティアは眠っていた。モーテルはライトだけが起きていることに気付いて声をかけたのだろうか。
ライトは返事をするか否か悩んだのち、返事をすることにした。「ああ、確かに来た」
返事した後に悔やんだ。こうやって何かを話すことで、モーテルの思惑通りに事が進んでしまう。
「そうさせたのは、私だ」その言葉に、ライトは思わず振り返りそうになった。あの日から、既にモーテルの思惑通りに動いていたのか、と驚いたのである。
だがここで振り返ってしまっては、やはりモーテルの思惑になるかもしれない。もしかしたら振り返らないことが思惑かもしれないが、ここは振り返らない方が良いだろう。
モーテルは続けた。「あの時、二人を足留めするためにクロン様に二人の家に向かうよう言ったのだ」
「……あの変な仮面は何だ?」
「これで脅かせてみては、と提案した。あれで少しでも時間が稼げることが出来ればと思ったんだ」
「何故モーテルが直接来なかったんだ? もし無理なら、兵士だけを送らせることも出来たはずだ」
「……あの時、ジュンのところにいたんだ」やはり、と思う。二人の考えは当たっていたのである。「二人がサイハテの国に連れていった後、私も連れていって欲しいと頼んだんだ」
「二人って……俺とリティアか?」
頷いて、髪と布が擦れる音がした。
「王に何かをいわれても、二人を追った、と言えば済む。後はジュンの承諾をもらえれば良かったのだが」溜め息をつく。「断られたよ」
静かな部屋に浮き上がった溜め息は、雲のように形を崩して消えていった。そんな物が見えた。
「この後オーガイト姉弟がやって来て、サイハテの国へ連れていくよう申し出るだろう、その後に、私も連れていって欲しい。そう言ったら、ジュンはどう返事をしたと思う? ……大切な奴等だから、もし危険なことを考えているのなら連れていけない、ってさ」
まだ理由を述べていないモーテルからすれば、それは少し驚くべき反応であった。先に理由を聞いてから断るのならまだしも、まだ理由を述べていないのに断るのは、ジュンがモーテルが連れていく気では無かったことがあるのだろう。いくら正当で連れていっても良い理由があったとしても、二人を心配して連れていきたくは無かっただろう。
ジュンはモーテルが隊長になってから、彼女の事が気に食わなかった。
腕が良いことは、何度か野生の獣を討伐しているところを見たことがあるためよく承知だ。だが、何を考えているか分からないその表情が嫌いだ。生理的に受け付けないとでも言うのだろうか。
だから、何を考えているか分からないモーテルを、二人が行った後に向かわせたくなかったのである。
「大切にされているんだな」
その言葉からは、どこか羨望が滲み出ていた。軽く微笑むように、そして吐き捨てるように放たれた。
「モーテルも、誰かに大切にされているだろう?」
そう問うと、「さあな」と少し微笑んで言った。




