怒り4-2
瞬きした時には、リティアの剣はモーテルが腰につけていた剣で行き先を遮られていた。
あの一瞬の間にモーテルは剣を引き抜き、リティアの剣を止めたのである。
鉄と鉄がぶつかりあった音が廊下に響く。
利き手と反対の右手で、右側の腰につけていた剣を逆手で握り、上へ上げたのだ。普通、それだと力が入りにくいのだが、モーテルは軽々と止める。
剣を持ち構えるリティアに対し、モーテルはただ突っ立っているだけ。さすが隊長といったところだろう。
「甘いな。見え見えの攻撃をするな」
リティアは舌打ちをすると、後ろへ一歩下がる。
次の攻撃をしようと体勢を整えたとき、ライトが肩を叩く。
「リティア、これ以上は止めておけ。結果は見えているだろ?」
そう言われリティアは思い直す。
そして、モーテルを上から下まで舐め回すように見る。
男のような見た目をした女の隊長。やはり男の方が戦闘能力は高いとされているが、女が隊長になるとなれば、この女の強さは高いとだけでは言い表せないだろう。今ここで戦えば、必ず負けるだろう。ライトの言うとおりである。
それを確信したリティアは、モーテルを警戒しながらも剣をゆっくりと鞘に戻す。それを見たモーテルも、剣を鞘に戻した。
「……それが、返事ということでしょうか」
モーテルは微笑む。しかし、その目はリティアを鋭く睨んでいた。リティアはその瞳に、まるで弓で打たれたように一瞬固まって動けなかった。
リティアはモーテルから目を離さない。
「まあ、その気がないなら帰ってもらって結構ですが」
ライトはすぐにリティアの腕を掴む。ライトの顔を見て、リティアは気づく。その顔は、自分がいつ暴れだすか心配していた顔だった。
リティアは自分がどうかしていたことに気づき、改めて我に返る。目線を下に向け反省する。それを見たライトは腕を引っ張り、そこから去ろうとする。
「ライト、悪かった」
「もういい。終わったことだ。それに、大事にならなくて……良かった」
ライトの後ろ姿に、リティアは何故か安心する。
「……ありがとう」
そう呟くと、ライトは首の後ろを掻いた。それを見て、リティアは笑った。
しかし、リティアは何かを感じ、すぐに顔を険しくする。
廊下にある開いている窓を見る。が、何もない。
リティアはライトの腕を少し引っ張る。なんとかこの感じをモーテルにばれないように伝えたいのだが、引っ張っただけではやはり伝わらない。
次の瞬間、前の曲がり角から剣を持ち鎧を身に付けた人間――兵士が数人、姿を現した。
二人はすぐに止まり、リティアはライトの腕を振り払って後ろを向いた。
モーテルが学園長室から出て、こちらを向いていた。
挟み撃ちにされた。
「……ただではかえしませんよ」
モーテル鞘から剣を抜く。リティアも剣の柄に手をやる。
「おいリティア……。どうする?」
リティアは大きく腕をあげて剣を抜いた。
「とりあえず……やるしかないだろ」
ライトは納得できないが、渋々それを受け入れるしない。
自分は関係ないのに、何故巻き込まれなければならないのか。ライトは腑に落ちない。逃がしてはくれないのかと思うが、話を聞いてしまった以上、何もなく終わることはないだろう。
リティアの弟だからと言われても、だから何だ? としか言えない。いや、家族ということが一番大きいだろう。
何せ、作戦の話を聞いてしまったのだ。弟でなくても、家族でなくても、目をつけられることは間違いない。
やるしかないと言われても、ライトは剣使い大会で初戦落ちした身だ。それに、今はその剣も持っていない。つまり、ライトは何も出来ないのである。
見る限り、相手は腰に剣を下げている。そのため、素手で戦うのは無理だ。
「俺は、どうやって戦ったらいいんだ?」
「……は?」
背中越しにいるリティアに声をかけると、呆気ない返事が返ってくる。
「剣は? さっきまで戦っていただろ?」
「いやいや。俺、初戦落ちしただろ? だから、それが終わってすぐに外したんだ。お前と違って最後まで戦ってないんでな。持っていても重いだけだし」
「まじで? じゃあ戦えないじゃん」
「剣を持っていても足手まといになるだけだろうけどな、残念なことに」
「確かに、剣を使えてたらもっとモテてるだろうな。時間稼ぎにはなると思ったんだけど」
ふと、リティアはあるところに目がいった。
それは、明らかに相手の弱点と言えた。これが分かれば、逃げることも不可能ではないと思う。
リティアは顎をあげてライトの頭にぶつける。
「な、なんだよ」
「……窓から逃げるぞ」
その瞬間、リティアは剣を持ったまま開いている窓から出ていった。兵士がそれを見て、慌ててライトに近づく。ライトまで逃がすのは、攻撃部隊の名誉が傷つくと考えたのだろう。
ライトは慌ててリティアが逃げた窓から出ていく。
リティアはその後、右へと走っていったらしく、ライトも右へと向かった。