過去~ライト編~4-2
ライトのことを知っていた妻のレイナ。だが、すぐに了承してくれるわけではなかった。
マシューとレイナの間には四人の子供がいる。生活が厳しい中でライトも育てるとなると、生活はもっと苦しくなるだろう。
あまりにも突然で、自分勝手な行動に、レイナは怒りを露にした。
「急にどうして!? うちには四人も子供がいるの。一人増えただけでも、どれほど大変か」
「分かっている。それでも、ライトを頼みたいんだ。ここにいることが出来なくなったら、この子まで教会行きだ」
それでも、レイナは首を縦には振らなかった。
子供が四人いるだけが、ライトを育てるか育てまいかを悩んでいる理由ではない。レイナには持病があるのだ。過度のストレスを与えると精神が異常になり、誰彼構わずに暴力的になるのだ。
今でも生活が苦しい中、もう一人育てなければならないとなると、ストレスは増えるだろう。マシューも、そのことを知らないわけではない。
それでもライトを連れて帰ってきたのは、レイナの持病ではなく、ライトのこれからのことを優先したからだろう。
「……ガイアさんは、俺が尊敬する人なんだ。そんな人が亡くなって、いろんな人が困っているんだ。彼は工場長だ。今にも工場は混乱するだろう。工場だけじゃない、親を亡くしたこの子は、もっと混乱するだろう。親がいなくなって、突然教会に連れていかれる。レイナ、君ならどう思う?」
口をつぐむレイナ。
「……分かったわ。教会はそれほど良いところではない。辛い思いをするでしょうね」
「分かってくれてありがとうレイナ」
そう言って、レイナの背中に腕を回した。
許しをもらったマシューは、ライトを自分の子供として国に報告した。両親が亡くなり身寄りのない子供は、引き取り手があれば引き取っても良いのだ。むしろ、その方が国は喜んでいる。
教会出と言うだけでいじめの対象になることが多くなった今、出来るだけ教会出の子供を減らしたいのだ。
ライトは正式にマシューとレイナの子供になった。少し不服そうだが、しばらくすれば愛情を持って育ててくれるだろう。
工場へ向かうと、早速会議が行われた。ガイアの死により工場長が不在となる。それを、今回決めるのだ。
「まず、ガイア・シェーカーのご冥福を祈りましょう」
言葉につられ、人々は目の前で手を合わせて瞳を閉じる。
全員が慕っていたわけではないが、ガイアの死はたくさんの人に衝撃を与えていた。
数分の黙祷の後、早速新工場長が発表される。
「新しい工場長を発表する。……マシュー・スィーザーだ。前へ来なさい」
名前を呼ばれたマシューは肩をびくつかせた。隣で友人が肩を叩いてきた。
マシューは人混みを掻き分け、前に立った。そして、工場長の証であるピンバッジを受け取った。
ガイアがつけていたもの。いつか自分もつけてみたいと思いながら、そんなことはないと思っていた。ピンバッジを受け取って嬉しいが、どこか寂しかった。
もう、このバッジを羨むことは出来ない。むしろ、マシューが羨まれるのだ。ガイアの気持ちを、そして責任を引き継ぐこととなる。
それほど優秀ではない。だが、人望は厚い。それが、工場長に選ばれた理由だろう。
「……ありがとうございます」
新工場長としての挨拶で、真っ先に出てきたのはこの言葉だった。マシュー自信も驚いている。
「私が、このバッジをつけることなんて、夢にも思っていませんでした。……ガイアさんの分まで頑張ります。ガイアさんと顔が合わせられるように精一杯。なので、これからよろしくお願いします」
頭を下げると、大きな拍手が生まれた。それに包まれて、マシューは工場長室に向かった。
ガイアさんに怒られないように頑張らなければ――そんなことを、考えながら。
マシューとレイナには、四人の子供がいます。機会があれば、ライトと子供たちが大きくなってから再会した時の話を書きたいなぁ……なんて考えています。




