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サイハテの国  作者: ヤブ
第五章
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過去~ライト編~4-1

 目の前に転がるのは、肉と化した両親の遺体。それを見つめ、ライトは二人の名前を呼び続けた。


「かあさん……とおさん……起きてよ」





 シェーカー家の扉を叩く者が現れた。


「ガイアさーん、マシューです」


 名前を呼んで叩いても、返事さえ来ない。留守かと考えたが、扉は開いていた。留守にするなら、鍵くらい閉めるはずだ。


「ガイアさーん。いないんですかー?」


 誰もいないのか、少々疑問が残るが、そういうことにしておこうか。


 それにしても、あのガイアが会議を無断欠席するとは。会議など大切なことがあるときは、必ず十分前行動をしているガイアが無断で欠席していると聞いたときは、あのガイアが、と何度思ったことか。それほど、ガイアは規律を守る男だった。


 ガイアは国立の武器工場の(おさ)で、就任したのはその性格が故だろう。あまりの厳しさに、従業員が文句をこぼすほどである。あのガイアが、と思ったと同時に、少し親近感が湧いたのは事実である。


 だから、ガイアが鍵を掛けずに外出をするなど、考えられないことである。


(本当に、誰もいないのか?)


 扉を開けると、中に光が差し込む。

 それが、ひとつの影を作った。


 何だ、いるんじゃないか。そう思い、マシューはまた声をかける。


「すみません、マシューです。ガイアさんはおられますか?」


 返事は来ない。それどころか、その影は動かなかった。

 影の大きさからして、大人ではない。息子だろうか。ガイアに息子がいることは知っている。一人で留守番をしているのだろうか。


「あの……ガイアさんは?」


 いくら声をかけても動かない。微動だにしない。嫌な予感がした。

 まさか、座ったまま死んでいるのか?


 焦ったマシューは、息子であろう人物の肩に手を置いた。

 すると、子供は肩を魚籠(びく)つかせた。安心したが、それは何かを怯えているようであった。


 息子の名前は、確か――。


「――ライトくん?」


 振り返ったライトの表情に、色はなかった。それは、誰かと喧嘩をして後悔していたり、買い物に連れていってくれなくて拗ねているわけでもない。

 もっと別の、大きな理由で、色を失ってしまったのだ。


「どうしたんだ、その……! お母さんとお父さんは?」

 返事はない。

「…………ライトくん?」


 ライトは小さな唇を動かし、こう言い放った。

「……市場で、死んじゃった」




 マシューはライトを抱えて、市場へ走った。ガイアが死亡したとの報告は、遺体安置所から来ていない。家にも二人の遺体が無かったということは、まだその場所にあるということだ。幼いライトだけで運ぶのはほぼ不可能だろうし、この状態で誰かを呼ぶことが出来なかったのだろう。


 ガイアが工場に来なくなったのは砲弾による攻撃があった次の日から。市場があるのは東部であるため、それによる被害ではないのに亡くなったというのならば、不思議な点があるが、今は考えている暇などない。とにかく、急いで駆け付けなければならない。



「……っ! これは、酷い……」


 しばらく外に放置されていたのだろう、遺体には虫が寄り、所々肉が欠けていた。恐らく、野性動物にかじりとられたのだろう。


 遺体があったのは、市場から少し離れた、森のすぐそば。不漁不作の影響で市場が開かれず、誰も気付くことが出来なかったのだろう。


 ライトは変わり果てた両親を見て、泣き出した。マシューに抱きつき、恐怖に怯えている。


 人を呼びに行きたいが、遺体の回りに誰一人残さず行くわけにはいかない。昼ではあるが、臭いを嗅ぎ付けてまた野性動物が来るかもしれない。だからと言って、ライトを置いていくわけにもいかない。


 その時、遠くから「こっちじゃ!」という声がした。

 振り返ると、老人と遺体安置所の制服を着た男が走ってきていた。


「……ん? 誰じゃあんた」

「この遺体の知り合いのものです」

「そうか……それは残念じゃったのお。チャールズさん、ここじゃ」


 チャールズと呼ばれた遺体安置所の者は、その姿を見て喉を唸らした。


「これは酷いですね……。腐敗したことや野性動物にやられたこともありますが、それを除いても(むご)いです」

「チャールズさん、この子は二人の子供です。僕はこの子に言われて、ここへやって来たんです」

「子供がいたんですか……! さぞかし、辛い思いをしたでしょう。その子は無事なんですか?」

「そのようです」


 知っていることを粗方(あらかた)話したのち、遺体安置所の職員が他にもやってきて、二人の遺体は遺体安置所へ持っていかれた。死因特定ののち、この二人も少なからず『砲弾による死亡者欄』に名前が残るだろう。


 詳しい死因を知りたいため、遺体安置所へ同行したいのは山々だが、ライトを一人に出来ない。かと言って、連れて行くわけにはいかない。


「……この子を、どうするべきか……」


 ガイアとミューアは共に教会育ちで、親族はいない。引き取り手がいなければ、ライトも教会行きになるだろう。


 マシューは、それを見過ごすことは出来なかった。




「その子……もしかして、ライトくん?」


 家に帰ってすぐに飛んできた声。それに、四人の子供が何だ何だとやってきた。


「両親が亡くなった…………連れて帰ってきた」

ついにライト編ですね。

私はテストが終わって、小説を書きます。目標は、今月中にサイハテの国全話書き終えることです。頑張ります。

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