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サイハテの国  作者: ヤブ
第五章
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過去~リティア編~2-2

 家を出てから徒歩十分の位置に市場はある。


 休日は人で溢れ返っているのだが、リンナが言っていた通り今日は違うようだ。その理由は、ここへ来て分かった。


 いつもは野菜や魚で埋まっている棚には、数えるほどの商品しか置いてなかったのである。近日の不漁不作の影響を受けているのだろう。

 そのせいで、市場には人が入ってこないのである。


 だが、こちらからすれば好都合である。リティアが走ってどこかへ行っても、それほど困らないからである。


 サディアの予想通り、リティアは市場についた途端に走り出した。まだ歩けないルシアを抱えているサディアは、走ることが出来ない。


「リティアー、遠くまで行くなよー」

「あ!」


 リティアは振り返ると、手のひらを見せた。にっこりと笑い、何かを求めている。


 サディアはポケットから通貨を取り出した。銅で出来ており、基本はこれで回っている。紙で出来た通貨も出回っているが、まだ少しで、王家しか使っていない。国全体で使われるようになるのは、まだまだ先だろう。


「ありがと!」


 また笑うと、リティアは再び走り出した。店の者に挨拶をし、笑顔を振りまいている。


 サディアは近辺を見回る。



 市場は国の中央ではなく、端に存在する。見た目は少し暗く陰気臭いが、品物は新鮮である。捕って一日以内のものを商品としている。ここは全国民が知っているが、やって来るのはその半分にも満たない。


 元々市場が小さいため、それほどでもない人数でも溢れ返ってしまう。


 見た目が悪いのは仕方がないことである。だが、ここを知らない者は損をしていると、皆は言っている。ここほど新鮮な食べ物を売ってくれるところが他にないのは確かである。


 中央に近づくにつれて、店が多く並ぶ。だが、そのなかで信じられる店は数えるほどである。あったとしても量が限られ、すぐに品がなくなってしまう。新鮮でなくても良いものがここに集う。彼らからすれば、こちらの方がよっぽと怪しいのである。



「てめぇ、サディアか?」


 声が聞こえた方を振り向く。随分と小さな声だったが、その声を逃しはしなかった。


 声の主はサディアを鋭い目付きで見つめ、商品の果物を磨いていた。

 サディアは近づくと、肩に手を置いた。


「ガイアじゃないか! 久しいな!」

「先週会っただろう」


 ガイアはサディアの手を振り払った。


「冷たい奴だなあ。俺とお前の仲じゃないか」

「お前と俺の間に特別な何かがあったか?」

「あった。俺とお前は、中等部からのライバルだ」


「俺は、お前のことは記憶にない。ライバルだと思っていたのは、お前じゃないのか? 競うほどの微々たる差なら()だしも、テストの合計点数が五十点も開いておいて、よくそんなことが言えたもんだ」

「運動だ。俺はクラス一番の運動神経の持ち主だった」

「クラスでの話だろう。学年で競えば、お前なんて屁でもない。二科があったのだからな」


 毎回出会う度に同じ会話をしていることに、二人は気付いているのだろうか。


 ガイアは国立の武器製造社の工場長を勤めている。二科として学生を送っていたため、就職先がここしか余っていなかったのである。


「仕事の方はどうだ? 上手くやっているのか?」

「駄目だ。皆俺を怖がる。目付きが悪いだけで、怒ったことはないというのに。変な噂まで立てられているしな」

「変な噂? どんなの?」

「ガイアは学生の頃、遅刻して教師に怒られたからぼこぼこにした」


 それを聞いたサディアは、大声で笑い上げた。突然のことに、ルシアが泣き出す。

 あやすサディアを腕を組みながら見つめる。


「奥さんとは、仲良くやっているそうだな」

「仲良くって、どんな風に?」

「抱えているのは二人目だろう? 一人目とは少し年が離れている。一人だけかと思っていたが、まさか二人目を作るとは思わなかった」

「サディア……俺と妻の変な想像をしているじゃないだろうね?」


 サディアの表情は真剣に、だが突っ込みを待っているようなものだった。ガイアは無視して、果物を磨く。


「ガイア、冗談じゃないか。本気にしないでくれよ」

「本気になどするものか。お前の顔か苛つく」


 ガイアの真っ直ぐな言葉に、サディアは頬をひきつらせた。どれが本心でどれが冗談なのかよく分からないので怖い。



 遠くから、リティアの声がした。手には購入したものを持ち、既に食べている。


「一人目か?」

「ああ、可愛いだろう?」

「……煩そうだ」


 サディアは屈むと、リティアに何を買ったのか問うた。


「えっとね、えっとね。……いっぱい買った!」


 覚えていないのだろう。少ししか通貨を与えていないのにこれほどの量を購入したと言うことは、まけてもらったか無料でもらったのだろう。子供というのは恐ろしい。



 満足したリティアは、少し経てば帰りたいと駄々を捏ね出すだろう。それまでに帰ってしまおう。


「帰るのか?」

「ああ。リティアがぐずりだすのでね」

「……そうか。もうすぐ妻と息子が来るのだが」

「ミューアさんか。最近会っていないね。会って話をしたいところだけど、また次の機会にしよう。時間があればお邪魔させてもらうよ」

「ああ。伝えておく」

「息子って、リティアと同い年の?」

「ああ。それ以外に息子はいない」

「そうだったね。名前は何と言ったっけな。確か……」


 ガイアが名前を言おうとしたとき、リティアが口を挟んだ。


「おとーさん、帰ろ?」

「ああ、そうだったな」


 サディアはリティアの小さな手を握る。腕の中では、ルシアが寝息を立てていた。


「じゃあガイア、失礼するよ」

「ああ、気を付けてな」


 最後の言葉を交わし、サディアとリティアは帰路を歩き始めた。

 ガイアは、誰のお父さんでしょうかねぇ……(。-∀-)

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