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サイハテの国  作者: ヤブ
第五章
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過去~リティア編~2-1

「おかーさん、市場に行きたい!」


 幼き頃のリティアは、近くの市場へ行きたがった。

 食欲旺盛で活発的なリティアは、食べているときか遊んでいるときは可愛らしい子供なのだが、その他の時は煩くて仕方がないのだ。そのため、ほとんど食べ物を持っている状態になる。


 今日は、父サディアは休日で一日中家にいる。家族で出かける予定もなく、家でゆっくり休日を満喫しようとしていた。


 母リンナは家事で忙しく、この後も集会に参加すべく家を出ていく。一時間後であるが、忙しいことは目に見えている。


「リティア、おかーさんは今日忙しいの。昨日行ったでしょ? 我慢しなさい」

「えー。今日も行きたいー」

「我が儘言わないの」


 友達と遊ぶ予定はあったが、無しになったのだ。暇になったリティアには食べ物を持たされたが、それだけで夜まで過ごせとなると、途中で口を開くに決まっている。


「じゃあさ、リティア一人で行って良い?」

「駄目よ。最近物騒なんだから。それに、万が一その時に戦争でも起きたらどうするの?」


 リンナの言う通り、ここ数年、戦争が度々発生している。何でも、王が隣国と言い合いになっているそうだ。大事にはなっていないものの、いつ襲ってくるか分からない。


 今となっては、辺りを囲う人工的に短期間で作った木々で防がれているものの、この時はまだ国を守ってくれる木々など存在しなかった。


「おかーさん! 市場行きたい!」


 既に与えておいたお菓子は食べ尽くされ、リティアは駄々を()ねだした。


「煩い! ルシアが起きるでしょ?」


 リティアは口を閉じると、母の腕で眠っている妹ルシアに目を向けた。まだ一歳に満たないルシアは、先々月産まれたばかりである。リティアの四つ下で、大きくなれば姉として妹を支えてくれるだろう。


 ふっくらとした頬は赤く染まり、うっすらと開いた口からは(よだれ)を垂らしている。


「……ルシアは良いなー……」

「何が?」


 膨れっ面のリティアに問いかける。目を泳がせながら、口を開けて言った。


「…………ルシアは何も出来なくても、おかーさんとおとーさんがついていてくれるから。リティアもおかーさんとおとーさんと遊びたいだけなのに」


 年下の妹弟が出来たときには有り得ることである。幼い命に夢中になった親は、姉兄を放っておくことがある。全ての親に値するわけではないが、有り得ないことでもない。


 それを聞いていたサディアは立ち上がると、リティアを抱き抱えた。


「よーし! それじゃあ、おとーさんが連れていってあげよう!」

「本当!?」

「ああ!」

「ありがとー、おとーさん!」


 はしゃぎ回る二人を見て、リンナは微笑んだ。

 声が大きかったのか、腕で眠っていたルシアが目を覚ました。良い気持ちで起きたわけではないが、声をあげて泣くことが無かったのは幸いである。


 リンナは時間を確認し、声をかけた。


「市場に行くなら、ルシアも連れていってね。さすがにルシアを集会に連れていくわけにはいかないから」

「人混みのなかに連れていくのか?」

「大丈夫よ。今日は市場、空いてるみたいだから」


 まあそれなら、とサディアはルシアを抱く。すると、途端に表情を変えて、「あぁー、ルシアは可愛いなー」と顔を緩ませた。


「この頬、リティアが小さい頃を思い出すなー」

「リティアの小さい頃、どんなだった?」

「リティアか? 可愛かったぞー。丸々していて、よく笑ってくれてな。どことなく、ルシアに似ているな」

「リティアが似てるんじゃなくて、ルシアが似てるの!」

「あはは! そうだな!」


 親子の談笑に、リンナが口を挟む。


「おとーさんなんて、リティアにメロメロだったんだよ? リティアに会いたいがために仕事さぼって帰ってきたんだから」

「いや、あれは本当に体調が悪くて……」

「帰って来てリティア抱いたら、速攻元気になったのに?」

「いやまあ……それは、リティアの力と言うか……」


 その言葉に、リティアは嬉しくなった。

 先程までルシアに両親を盗られて悲しく思っていたが、そんな思いなど吹き飛んでしまった。


 リティアはサディアの手を握ると、扉まで引っ張った。


「おとーさん、早く行こ!」

「お、おいリティア。引っ張ったらルシアが落ちるじゃないか」


 サディアは振り返ると、リンナに手を振った。それを見て、リンナは微笑んで振り返した。


 扉が閉まり、集会に向けて準備をしようと背中を向けたとき、また扉が開いた。


「おかーさん、いってきます!」


 リティアがいた。それだけを言うために、戻ってきてくれたのである。


「……いってらっしゃい!」

まず、リティアには妹がいました。きっとルシアは、リティアと違っておとなしい子なんでしょうね。

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