告白1-3
夜、リティアは眠れないのではと少し心配していたが、何の問題もなく眠りについた。おそらく、明日になれば忘れているだろう。
だが、モーテルはライトとクロンを挟んだ先で眠る。
ライトは寝付けず、クロンに声をかけた。
「クロン、寝たか?」
返事はない。代わりに、反対側から声がした。
「クロン様は眠るのが早い。朝日が昇るまで基本、起きられない」
モーテルだった。
まだ起きていたのか、と思い、体を向ける。モーテルは背中を向けている。
「まだ寝ていなかったのか?」
「……ああ」
一つ息を吐いてから、続ける。
「なあモーテル。ミマーシ王国は本当に攻撃してくるのか?」
「何だ、信じられないのか? お前はその耳でそのことを聞いただろう」
ライトは口を閉じた。
確かに聞いた。だが、聞いてみたかったのだ。本人に、本当なのかどうか。
真実が変わるわけではない。運命が変わるわけでもない。
それを問うことで、緊張感を高めたかったのだ。実感が湧かなかったのは確かだ。こうやって、モーテルが日が近いことを伝えてくれ、心配しクロンが来たことも、時間の経過を表している。
「……ああ、確かに聞いた」
「なら、聞く必要はないではないか。私は寝る」
「待て待て。もう少し付き合ってくれよ」
「私はミマーシ王国から徒歩でやってきた。疲れているんだ」
その言葉に、ライトは驚いた。
海を渡って来ても半日では来れない。今日、かかった時間を聞いたが、それほどかかっていないと答えた。モーテルにとって「それほど」とは、どれくらいの時間なのだろうか。
「……そうか。どれくらいの時間、歩いていたんだ?」
「覚えていない」
「嘘だろ」
「本当だ」
モーテル相手は手強い。どう聞いても、答えてはくれないようだ。
ライトは諦め、最後の質問をした。
「……お前、ここに来たことあるか?」
返事が来ることはなかった。眠ったようだ。
ゆっくりしている時間はなかった。
日が昇ったのち、モーテルはすぐにリティアとライトを起こし、眼を擦っている二人に問うた。
「ここへ来て、何か分かったことはあったか?」
昨日の夜からは想像も出来ないほど、しっかりとした口調で話している。
攻撃部隊隊長に話さなければならないとは思っていたが、いざとなると口を閉ざしてしまう。それは、ライト限定であるが。
「分かったこと……神祠のことかぁ?」
寝ぼけているリティアは、そう言った。もちろん、モーテルがそれを聞き逃すわけもなく、朝食後、三人で神祠へ向かった。
「別に俺らまで来る必要はないんだよな。神祠は、モーテルと再会した場所なんだから」
その通りである。
わざわざ案内するまでもなかったことは、途中で気付いたことである。引き返しても良いかと思ったが、野放しは危険だと考えた。
「……これは何だ?」
「これには、何か分からないモノが埋まっているらしい」
「何か分からないモノ?」
モーテルは視線をリティアに向けた。
その反応は予想通りである。説明するのに抵抗があるが、説明しないわけには行かない。
「……何か、神様が埋められているらしい。ここを救ってくれたらしい」
「神を埋めた? それは、随分と失礼なことをしているな」
「私も思った。助けてもらったからと言って埋めるだなんて、独り占めしている。そんなことが世界に知れ渡ったら、非難の声が集まるだろうな」
「それは、本当に神なのか? 普通の人間ではないのか?」
「恐らくそうだろう。相手を敬いすぎて、神だと言っているんだろうな」
頷きながら、モーテルは再び神祠を見る。
今にも倒れそうな岩。こんなものに神を祀っていると思うと、だんだんと敬意が失われているのではと感じる。本当に神だと言うのならば、もっと大切にするべきだ。神を独り占めしておいてこの扱いでは、信者が怒りを露にしそうだ。
「これは私らの予想だけど……。ここには祭りがあるんだ。それは、高台と長老の家に間にある小さな誇らのための祭りなんだ。だが……どうやらここのために行われているようだ」
「……つまり、偽っていると言うことか?」
「まあ、そういうことになるな。秘密にしているようだが、マーガレットが話してくれた。まあ、本当かどうかは怪しいが、頭の隅にでも入れといてくれ」
モーテルは返事をしなかった。ただ神祠を見つめる。
「……ところでリティア・オーガイト。お前の家族は、殺されたんだったな」
唐突な言葉に、すぐに言葉がでなかった。
「……ああ、そうだ」
「突然で悪いが」
モーテルは振り返ることなく、それを告げた。
それは、本当に唐突で、そして、心に突き刺さった。
驚愕の真実に、思い出したくない過去が脳裏を過った。
「お前の家族、私が殺した」
衝撃の事実です。
ここからは、私が今まで書きたかった場面が登場します。リティアとライトの過去です。
血の繋がらない二人、親のいない二人がどのようにして出会ったのか、ここから明かされます。まずはリティア編です。




