告白1-1
茶色の短い髪を揺らし、その長身で二人を見下ろす。
モーテルに目がいく間にカリナは逃げてしまったが、今となってはモーテルが何故ここにいることしか考えることが出来ない。
「どうして、ここにモーテルがいるんだ!?」
リティアは剣を握る力を緩めることなく問うた。
「とりあえず剣を納めろ、リティア・オーガイト」
このままの状態で居たいところだが、モーテルの話を聞かなければ何も進まない。ライトもそれを望んでいる。
剣を離すと、互いに剣を納めた。
「で? どうしてお前がここにいるんだ?」
「急ぎ伝えることがあるのだ」
モーテルがわざわざここへ来てまで伝えなければならないこととは何だろう。
嫌な予感がする。
「ミマーシ王国はサイハテの国への攻撃準備を完璧にし、一ヶ月も経たずにここへやって来る」
嫌な予感というのは、的中するものである。
奥歯を噛み締め、顔をしかめる。
「もう来るのか? まだ何も準備していないというのに」
「随分と落ち着いているようだな」
「そんなことない」
先程まで無駄に感情を上げていたため、今は冷静になってしまうのだ。モーテルは、先程の話を聞いていたのだろうか。
「私は王にサイハテの国の下見をするよう命令された。私が期間内に帰ってこなければ、ミマーシ王国は動き出す」
「期間はどれくらいなんだ?」
「教えてもらえなかった。だが、王のことだからそれほど長くはないだろう」
モーテルの言うとおりだ。カジュイがそれほど長く待つことが出来るとは思えない。攻撃部隊第一団隊長でも、カジュイのことをそう思っているのならば、他の兵士やメイドなどもそう思っているのだろう。
カジュイはきっと、せいぜい一週間ほどしか待つことが出来ないだろう。
「モーテル。ここへはどういう風に来たんだ?」
ライトが問うた。ジュンに頼んで来たのなら、誰かに見られるはずだ。そんな事はしないだろう。
「詳しいことは後だ」
「答えてくれても良いだろう。せめて、ここまで来るのに何日かかったか」
「……それほどかかっていない」
モーテルは何かを隠そうとしている。今の態度からはそう考えるしかない。だが、無理に聞き出すのは今は無理のようだ。
その態度にどこか違和感を抱く。
「リティア・オーガイト。早速だが長老に会わせてはくれないか。お前が言うより、私の方が説得力はあるのではないか?」
モーテルを連れていって良いのか。
それを判断して良いのは、この国のものだけだ。よそ者である二人が同じ国に住んでいるものを連れ込むのは、皆に疑問を抱かれそうだ。
だからと言って、このままでは危険をそのまま被ることになる。
ここに着いたとき、「どうせなら聞きたくなかった」と言っていた。ならば、今回も伝えるべきではないのだろうか。
案内をしようとしないリティアを見て、モーテルは足を進めた。
「何も悩んでいるのだ。早く行こう」
隣を通ろうとしたモーテルに、「待て」と声が掛けられた。そう発したのは、ライトであった。
「……何だ、ライト・オーガイト」
「お前今、どこへ行こうとした?」
モーテルはライトを見下ろす。リティアには、ライトの行動の意味が分からなかった。
「どこ、か。長老がいるところだが?」
「場所を知っているのか?」
すると、モーテルはライトの額を軽く押し、冗談風に言う。
「お前らに案内してくれるのではないか。とりあえず、ここを降りなければないだろう?」
そう言って、モーテルは階段を降りていく。
「ちょっと待てよ!」
「何だ。まだあるのか?」
「……手紙、送ってきたよな? どうしてなんだ?」
「送りたかったからだ。何か、問題でもあるのか?」
上手く質問に答えてくれないモーテルに苛立つ。わざとだろうかと考えてしまう。だが、自分の質問の仕方が悪いのかもしれない。
だが、今はそんなことを考えている暇はない。
「だから、どういう理由があって送ってきたんだ? 送ったら、お前は諜報員として働いていると勘違いされても可笑しくないんだ。危険を犯して、それでも送りたかったからとか言うんじゃないよな?」
「嘘でもそんなことは言わないだろうな」
「だったら、どうしてだ? ちゃんとした理由があるはずだ。それを言ってくれ」
だが、モーテルは何も言おうとしなかった。言い訳を考えていなかった、そんなことがあるのか?
「……それとも、俺らには言えないのか?」
階段から吹き上げる風が、それぞれの髪や衣服を靡かせる。モーテルは空を見上げ、優しく息をはいた。
振り向き、二人を見上げる。普段と逆の立場に、違和感を感じる。
「事情だ」
それだけ言うと、また階段を降りていってしまった。
ライトは隣にいるリティアと顔を合わせた。
事情、で終わらせてしまうほど、それは案外単純な理由だったのだろうか。それならば、確かに聞かなくても問題ないと思える。
だが、どうしても納得できない。だからと言って、ここで問い詰めて答えてくれる可能性は低い。
仕方なく諦め、ロジの家に向かうことにした。




