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サイハテの国  作者: ヤブ
第四章
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再会7-2

 盗んだとなると、わざわざ家の中にあったものを盗ってきたということになる。そんなことをしてまでリティアの剣を盗る理由など見当たらない。


 リティアの剣は、カローナの家にあった剣を貰ったのである。鞘が青いのは目立つかもしれないし、それほどあるわけでもない。だからと言って、珍しいこともない。


 盗むほどのものではないことくらい、リティアとライトは分かっている。だから、何故カリナが剣を盗んだのか、いまいちしっくりこなかった。


「ただたんに剣があったから盗っていったとも考えられるな」

「じゃあ、何でマーガレットの家に? 他の家でも良かったんじゃないのか? まさか、リティアの剣がここにあることを知っていたなんてことは……」


 自分で言っておきながら、その確率も無くはないと考える。リティアも、ライトの言葉に首を捻らせた。


 本当は、カリナのことなど知らなくても良いことだ。ただ、好奇心だけである。今は、攻撃されるまでに状況を整えておくことが大切だ。


 それをしないのは、気にかかっていることが多いからだろうか。


 毒、カリナ、そして国の秘密。気になることがありすぎて、準備をする気になれないのである。いつかはしなくてはならないことくらい分かっているのだが、それはぎりぎりになるだろう。


 ライトは大祠に腰かけた。そして、頭を掻く。


「よく分かんねぇな。秘密だけが問題かと思っていたけど他にもあるとなると、面倒なことになりそうだな」

「そうだな」


 ふと、先日ここであったことを思い出す。


「――マーガレットさ、ここで何を言おうとしたんだろうな」


 あの時、リシャンが言葉を遮らなければ、マーガレットは何と言っていたのだろうか。


『実を言うとね、みな――』


 みな、の後に続くのは、どんな言葉であろう。みんなが慕っている、かと思ったが、マーガレットが言ったのは、みな、である。


 可能性とすれば、『みなも祭り』が高いだろう。そのことは、リティアも考えていたようだ。


「『みな』だから、『みなも祭り』も考えるのが正しいかもな」

「俺もそう思う。……もしかしたら、これがみなも祭りに関係あるのかもしれない。俺らが予想した通り、にな」


 国の者が集まって、祈りの言葉であろうものを告げていった場面を目にしたあの日。ここには、ロジの家と高台の間にある祠よりも大きなモノを祀っているだろうと考えた。みなも祭りの前に、祠ではなく神祠にやって来たのは、そういう理由があるだろう。


 それに、あの時マーガレットは『毎年感謝する』と言った。感謝を現すのが、みなも祭りならば――辻褄が合うのだ。


「でもさ」


 リティアが口を開いた。青い空を見上げ、その表情は謎に困惑していなかった。むしろ、清々しいものだった。


「世の中には知らなくて良いことがあるから、別に知らなくて良いんじゃないか?」


 納得しかけたが、すぐに「面倒になっただけだろ」と突っ込む。図星のようで、リティアは下唇を突き出した。だが、表情は緩い。


 組んだ手を後頭部に回すと黒髪を(ひるがえ)した。


「ほら、もう帰ろう……」


 言いかけた言葉が途切れ、リティアはまた翻し、近辺を見渡した。ライト以外、動いているものは見当たらない。


 不思議に思うライト。


「どうしたんだ?」


 途端にリティアはライトの腕を引っ張り、自分の背後に隠すようにした。それと同時に、木の間から黒に身を包んだ人間が現れた。


 瞬時に判断し、腰に身に付けていた剣を抜き取る。

 それを見て動きを止める。


 それは、リティアとライトが出会った謎の人物、カリナであった。黒い布からは、特有の髪の毛が少し出ている。


 顔を上げ、ライトの姿を目にしたカリナは、口を開いた。


「ああ、あの時の」

「……お前が、カリナだな?」


 カリナは首をかしげる。


「んん? 名前を教えたのはそっちだったけど」


 そう言って、ライトを指す。分かって言っているのか、本当に分からなくて聞いているのか、表情や声調からも読み取れない。


「聞いたんだよ」

「そういうことか……って、君もどこかで会ったよね? ああ、ここでか。怪我は治った?」


 リティアは剣を握る手を緩めることなく、腕を巻くって見せた。瘡蓋(かさぶた)になっているが、もう治っていると言って良いだろう。


「もう大丈夫みたいだね」


 話し方に調子が狂わされる。こちらの警戒が伝わらないのだろうか。


「……単刀直入に聞く。毒を盛ったのは、お前か?」


 カリナの表情が曇った。


「……」

「答えろ」

「……どうして? また? 名前を聞いたのなら、私が彼に、毒を盛っていないって言ったことも聞いてるはずだよね?」

「お前しか、犯人は見当たらない」

「だけど、その推理は間違っている。私は毒を盛っていないから」


 また言い返そうとしたリティアの背中を叩いた。苛立ちを募らせているリティアは、顔をしかめて勢いよく振り返った。


「本当だ。奴は、毒を盛っていない」

「どうしてそう言い切れるんだ。根拠は? 証拠は?」

「一旦落ち着け」

「落ち着いていられるか。お祖母ちゃんを殺したやつかもしれないんだ。ライトだって、目の前に両親を殺したやつ(・・・・・・・・)がいたら、落ち着けないだろう? じっとなんてしてられないだろう?」


 言葉を詰まらせた。今まで単刀直入に言われなかった言葉が、胸に刺さる。ライトは言い返さないかと思ったが、絞り出すように言葉を発した。


「それでもだ。リティアの勘違いかもしれないだろう。俺には分かる。カリナは、毒を盛っていない」

「お前、まさか相手が女だから依怙贔屓(えこひいき)しているんじゃないだろうな?」

「そんなことするわけないだろう」


 真っ直ぐと見つめる。だが、その思いが届くことはなかった。

 リティアはカリナを見ると、再び剣を構える。


「……何度言っても分からない? 私は毒を盛っていない。してもない罪を着せられて、疑われる私の気持ち、分からない?」

「分かりたくもない」


 動転しているのだろうか。

 いつもなら、相手の話を聞こうとするのだが、今回は逆だ。それほど、心が追いやられているのだろうか。


「そうか、君は何も受け入れることが出来ていないだけなのか」

「は?」


「君の大切な人が、毒を盛られて亡くなったの? 多分そうだよね。君は、その人が亡くなったことを受け入れることが出来なくて、ただ目の前のことに集中することでそれを忘れているんでしょ? 今まで忘れていたことを、思い出さなくちゃいけなくなった時とかは、特にね」


 リティアの表情に、焦りが出てくる。


「もしかしたら、他にも受け入れることが出来ていない悲しい過去でもあるのかな?」


 その言葉は、リティアを動かすには十分であった。

 リティアは一歩踏み出すと、カリナに向けて剣を振り上げた。


 剣がぶつかったのはカリナではなく、同質のものであった。カリナに当たる前に、それが割り込んできたのである。


 リティアとライトは、その姿に驚く。――ここにいるはずの人物ではなかったのだ。


「なっ……!」


 その人物と目が合うと、そいつは口を開いた。


「人を殺すな、リティア・オーガイト。そんなことをしたいのなら、特別部隊に入ってくれれば、いくらでも殺せるぞ?」

「……モーテル!?」

遂に、モーテルが登場しました!

皆さん、覚えていますか? モーテルは、ミマーシ王国の攻撃部隊隊長の、かっこいい“女性”であります。男性だと思っておられる方は、訂正してくださいね(´・ω・`)


次回から新章、そして、今日から毎日更新です。予約投稿で、午後五時に予約投稿します。

よろしくお願いします。

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