謎5-1
日が傾き始めた。国を覆う森に太陽が沈もうとしている。
マーガレットは夕飯の用意をするために家に戻った。残りの三人はもう少し外にいようと考えているのだ。
「リティア。高台にでも行かないか?」
そう声をかけたのはライト。
頷こうとしたが、ここにリシャンもいることに気付いた。このままいけば、リシャンは一人でいることになってしまう。
目を向けると、鋭く睨むリシャンと目があった。思わず強張る顔。
どうしてそんな目でこちらを見るのか、分かったようで分からない。リシャンの目には、疑いが込められていると、直感的にそう思った。
それを口に出すことも、ましてやどうしてそんな目をしているのか問うことは出来ない。
状況を察知したリシャンは、二人に声をかけて家に戻っていった。
少し罪悪感を覚えたリティアだったが、後ろ姿を途中まで見送ってから、ライトと共に高台へ向かった。
赤く染まる海は、あと少しで日が暮れることを皆に教えている。日は明らかに動いているようで、高台についた頃には海が変わっていた。
二人でしばらく、それを見つめていた。
ライトは二度この光景を見たことがあるため、それほど感動しない。だが、リティアがこれを見たのは、今回ここへ来てからは初めてだ。久しぶりに見た景色に、自然と顔が緩む。
リティアの横顔を覗きながら、真っ直ぐと先を見つめる。
ふと、リティアが口を開いた。
「ライト。ロジの家で、書物を読み漁ったんだよな?」
「……何だよ、悪いかよ」
するとリティアは少し声を出して笑った。どこかでそうなる感じはしていたが、あえてリティアには言わないでおく。
ライトは少し顔を歪ませた。
笑うなよ、と軽く目を尖らせて言った。だが、口元はどことなく微笑んでいた。
横目でライトを見てから、一息ついて言う。
「ライトなら、何かしてくれると思ってた。無駄にプライドが高いからな。私がいない間、何もしないってことはないだろうし」
「いつ思っていたんだよ」
「眠っているとき、かな」
冗談か、と安心しつつどこかで残念がっている。
軽くため息をついたライトを見て、リティアが言う。
「けど、本当に思っていたからな」
リティアと目を合わせた。嘘が苦手なはずなのに、どれが真実か分からない。ライトの見抜く腕が落ちたのか、リティアが嘘をつく腕を上げたのか、それとも、ただの偶然か。
「そんなこと考えている暇があったら、さっさと目ぇ覚ませよ」
「え、心配していたのか?」
にやにやと顔を緩ませてこちらを見ているだろうと思いながらも顔を向けない。
「……モーテルから、手紙が届いたんだ」
「手紙?」
まだこのことを話していなかったことに気付いたライトは、そのことについて話すことにした。
「ああ。ジュンが時々ここに、ボトルに紙をいれて置いていっているらしいんだ。その中に、モーテルから俺らへの手紙が入っていた」
「何て書いてあったんだ? その手紙には」
「計画が思いの外早く進んでいるらしい。一、二週間前に届いたんだ。きっと、もうすぐここへやってくる」
突然そんなことを言われ、リティアは驚きを隠せない。もうすぐだなんて、まだ何も分かっていないこの状況で、その事実を突き付けられるのは辛い。
「そんなに、早いのか?」
「ああ。カジュイが何を考えているのか分からないけど、ゆっくり進めるはずの計画を早めたのには何か理由がありそうだ」
「……理由ねぇ」
赤く染まる海は、それを暗示していたのだろうか。いつもこの光景が訪れることは分かっているだが、そのように思えて仕方がない。
カジュイの考えていることは分からない。何があったのか、突然ことを変更するのはよくあったことだ。
考えを予測することは、一種の謎だと思って良いだろう。
(……謎、か)
その言葉で、先日のことを思い出した。
話題にはせずにいた。信じたくない事実だからである。そのことは、誰もが思っていることだろう。
カローナが殺された可能性がある。それも、リティアが受けた毒と同じもので。
ライトは、犯人の予想が出来ているのだろうか。
「そういえばさ。……犯人は分かったのか?」
考えていないことはないだろう。ライトが先に言い出しておいて、何も考えていないとなると無責任だ。だが、ライトがそんなことをするとは思っていない。
「犯人……」
そう言って、口を閉じた。そして、何かを考えるように手を顎を置いた。
少し気まずい。
喧嘩をしてもいないのにこんな気持ちになるのは初めてだ。
気を紛らすために、リティアも犯人の予想を立ててみる。すると、ある人物がすぐに浮かんできた。
(……あいつ、なのだろうか)
大祠で会った、黒いマントを身につけた男。性別は定かではないが、何となく男である気がする。あんな奴は大抵男だ、と頭の中で方程式を作るリティア。
現時点で、奴が犯人である可能性はハーフアンドハーフである。犯人の決め手となる物が何もないからである。
奴は何者なのか。
ここに住んでいるのだろうか。皆は知っているのだろうか。
(もしあいつが犯人なら、次に会ったときに私はどう行動するのだろうか)
自分と祖母を殺そうとした人物。それを前にして、リティアは冷静でいられるか分からなかった。
物証がない今、一番怪しいと言えるのは、奴しかいない。
「……大体の予想は出来ている」
ライトが口を開いた。
「八割、合っていると思う」
物凄い自信だな。そう思いながらも口にはしない。
だが、ライトの考えが無いよりはましであろう。
「そうか……。私も、予想は出来ている」
真剣な面持ちで言ったリティア。その表情を見て、ライトは強張らせていた顔を緩ませ、リティアに聞こえるようにして笑った。
突然笑ったライトに、「何か分かったのか?」と、また真剣な面持ちで問う。笑いを抑え、震える声で言う。
「いや……リティアが、推理してるところ考えたらつい……」
「失礼だなおい」
そう言いながら、ライトの頭を叩いた。
「私だって推理くらいするさ」
「で? リティアは誰が犯人だと思うんだ?」
「ここで会った奴なんだけど、ライト知っているか? 黒いマントで、頭まですっぽり覆っていた男だ」
黒いマントと聞いてカリナを思い浮かべたが、カリナは男ではない。ここに同じような人間がいるのかと疑問に思った。親子で身を潜めて暮らしているのだろうか。
その可能性はあるが、こう考えた方が適当だろう。
リティアが言う奴と、カリナは同一人物だ。
黒いマントを頭から覆っていたのなら、顔や髪が見えなくても可笑しくない。声を聞いても、確かに男と間違っても仕方がないだろう。
「リティア、それは本当に男か?」
「ああ。声はそんなに低くなかったから、声変わりしていないくらい幼いと思う」
そういう風に捉えたか。
そうを考えながら、リティアに本当のことを話すかどうか脳内で審議する。
「でさ、ライト。そいつのこと、気にならないか?」
覗き込むようにして言った。
「気にならないわけではないけど」
「じゃあさ、そいつの正体……突き止めないか?」
まさかリティアの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
確かに気になるところだ。カリナが何者なのか。だが、リティアはそれを知ってどうするのだろうか。ただの興味なら良いのだが、突発的に攻撃をしてしまわないだろうか。
ふと甦る過去の記憶。あの姿がリティアであることは、確かだ。
だからと言って、リティアを放っておくわけにもいかない。
「……いいよ。付き合ってやるよ」
「ありがと。ライトならそう言ってくれると思っていた」
そう思われていたことにため息をつく。ここで放っておくことなんて出来るわけない。そう言いたかったが、言わないでおいた。
「じゃあ、日も暮れてきたし帰るか」
「そうだな」
去り際、背後で輝く海を見つめ、ライトはぽつりと呟いた。
「サイハテの国なんて、本当にあんのかなぁ」
「今そこにいるじゃねえか」
聞こえないように言ったつもりだが、リティアに聞こえていたようだ。ライトは振り返り、当たり前だと言うような顔をしたリティアと目があった。
ライトは瞼を下ろして微笑むと、また呟いた。
「リティアには、分かんねぇか」
どんなに真剣な顔をしているシーンでも、この二人ならば絶対に雰囲気が崩れます。崩れないと空気が悪くなることを、二人は知っているからですね。
二月末まで月曜日更新、三月に入ったら毎日更新をします。三月には終わる予定です。
それまで、サイハテの国をお楽しみいただけたら嬉しいです(*´ω`*)




