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サイハテの国  作者: ヤブ
第四章
57/93

剣合わせ4-3

 治療を終えた二人は、マーガレットに頭を下げる。


「ありがとうマーガレット! 本当、冗談抜きで死ぬところだった」

「……ありがとう」


 リティアの傷に気づき、大急ぎで手当てをした。だが、それでは済まなかったのである。リティアの治療をしていたせいで、リシャンの傷口を押さえるのを本人でさえ忘れており、軽い貧血状態になった。リティアも血が治まらず、こちらも貧血。マーガレットの手際の良さで、事態は大きくならずに済んだのである。


「本当に、何を考えているの? リティア、あなたは前まで昏睡だったのよ? また布団の中に入りたいの?」

「いや、そんなわけ……」

「だったら、ちゃんと気を付けて」


 あまり見ないマーガレットの怒り顔に、頭の上がらない二人。リシャンには何も言わなかったものの、いつ自分のことを言われるのかはらはらしていただろう。

 リティアは首に、リシャンは腹に包帯を巻いている。今は見えないが、リティアは他に腕にも傷をつけている。かさぶたになっているが、これは剣使い大会でつけた傷である。


「でもさ、ライトがちゃんとしていなかったのも要因だと思うんだよね」

「ライト?」

「うん。ライト賢いのに、まさか治療方法を知らなかったとかは無いよな?」

「無いな。ちゃんと分かってる。言っておくがな、俺だってちゃんと治療した。お前が見ていないだけでな」


 リティアは疑いの目で見つめる。確かに見ていない部分はあったが、信じられない。

 マーガレットは立ち上がり、治療箱を片付けに行く。その時、風が吹いてマーガレットが被っていた麦わら帽子が吹き飛ばされてしまった。


 風に乗り流されていった帽子は、近くの木の上に乗ってしまった。


「あーらら」

「乗ったな」


 四人はその木に近づく。

 飛んでみるが、誰の手にも届かなかった。手頃な棒を探すが、短い枝しか落ちていない。


 こうなってしまっては、手段は一つしかない。


「しゃーねーな。登るか」


 そう言って腕を捲くり、リティアが木に足をかけた。ライトは言うと思った、と顔を少し歪ませた。だが、方法はこれしかないだろう。

 だが、マーガレットがそれを許さなかった。


「ちょっとリティア! 怪我をしたばかりなのに、登ろうとしているの!?」

「え? あ、や……」

「駄目よ。もし包帯が木に引っ掛かって破れでもしたらどうするの? 自分で上手に巻けるのかしら?」


 マーガレットの攻撃に、リティアは何も言えない。

 確かに、怪我をしたばかりなのに木に登るなど、怪我をしに行くようなものだ。

 リティアは仕方なく木にかけた足を下ろした。


「じゃあ、誰があの帽子をとるんだ? 私とリシャンは怪我をしているし、マーガレットはさすがに無理だろう? だとしたら残っているのは……」


 そう言って、最後に残った人物――ライトを見つめる。

 視線に気づいたライトは、俺? と自らを指している。


「……いや、こいつは無理だ」

「何で決めつけんだよリティア!」


 腕を組んで首を横に振るリティアにライトは怒鳴る。分かっていた言葉だが、やらせようとしないところに苛立った。


「自分でも分かっているだろう? 木登り、出来るのか?」

「あのなあ……。俺を馬鹿にすんな。登り方さえ教えてくれれば俺だって……」

「なんてわざわざ教えなくちゃいけないんだよ! 自分で考えて登れよ」


 リティアはライトに登るよう、顎で示した。ライトは意を決し、木に足をかけた。木の凹凸に指をかけ、二歩目を出そうとしたが、ライトはあえなく落下した。予想通りの結果に、ため息が出る。


「違うだろライト。はじめに手をかけるのはあっちだよ」

「ああ? ここか?」

「そう、それで足はそこにかけて……」


 仕方なくリティアはライトに指示を出すことにした。それに従って、ライトも登って行く。

 すると、さっきの落下が嘘だったように登り、木にかかった帽子を掴んで降りてきたのである。登ることが出来たライトは、満足したように帽子を渡した。


「ありがとう、ライト」

「どういたしまして」


 リティアはライトの肩を叩き、子供に話しかけるようにして言う。


「良かったねえ、ライトくん。初めての木登り、無事達成できて」


 ライトは鼻を鳴らす。


「俺にかかれば、木登りなんて楽勝さ」

「私がいないと登れなかったくせに、調子に乗るなよ」


 突然の殺気にライトは縮こまり、肩をすくめた。冗談であろうが、その冗談が怖かった。

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