剣合わせ4-3
治療を終えた二人は、マーガレットに頭を下げる。
「ありがとうマーガレット! 本当、冗談抜きで死ぬところだった」
「……ありがとう」
リティアの傷に気づき、大急ぎで手当てをした。だが、それでは済まなかったのである。リティアの治療をしていたせいで、リシャンの傷口を押さえるのを本人でさえ忘れており、軽い貧血状態になった。リティアも血が治まらず、こちらも貧血。マーガレットの手際の良さで、事態は大きくならずに済んだのである。
「本当に、何を考えているの? リティア、あなたは前まで昏睡だったのよ? また布団の中に入りたいの?」
「いや、そんなわけ……」
「だったら、ちゃんと気を付けて」
あまり見ないマーガレットの怒り顔に、頭の上がらない二人。リシャンには何も言わなかったものの、いつ自分のことを言われるのかはらはらしていただろう。
リティアは首に、リシャンは腹に包帯を巻いている。今は見えないが、リティアは他に腕にも傷をつけている。かさぶたになっているが、これは剣使い大会でつけた傷である。
「でもさ、ライトがちゃんとしていなかったのも要因だと思うんだよね」
「ライト?」
「うん。ライト賢いのに、まさか治療方法を知らなかったとかは無いよな?」
「無いな。ちゃんと分かってる。言っておくがな、俺だってちゃんと治療した。お前が見ていないだけでな」
リティアは疑いの目で見つめる。確かに見ていない部分はあったが、信じられない。
マーガレットは立ち上がり、治療箱を片付けに行く。その時、風が吹いてマーガレットが被っていた麦わら帽子が吹き飛ばされてしまった。
風に乗り流されていった帽子は、近くの木の上に乗ってしまった。
「あーらら」
「乗ったな」
四人はその木に近づく。
飛んでみるが、誰の手にも届かなかった。手頃な棒を探すが、短い枝しか落ちていない。
こうなってしまっては、手段は一つしかない。
「しゃーねーな。登るか」
そう言って腕を捲くり、リティアが木に足をかけた。ライトは言うと思った、と顔を少し歪ませた。だが、方法はこれしかないだろう。
だが、マーガレットがそれを許さなかった。
「ちょっとリティア! 怪我をしたばかりなのに、登ろうとしているの!?」
「え? あ、や……」
「駄目よ。もし包帯が木に引っ掛かって破れでもしたらどうするの? 自分で上手に巻けるのかしら?」
マーガレットの攻撃に、リティアは何も言えない。
確かに、怪我をしたばかりなのに木に登るなど、怪我をしに行くようなものだ。
リティアは仕方なく木にかけた足を下ろした。
「じゃあ、誰があの帽子をとるんだ? 私とリシャンは怪我をしているし、マーガレットはさすがに無理だろう? だとしたら残っているのは……」
そう言って、最後に残った人物――ライトを見つめる。
視線に気づいたライトは、俺? と自らを指している。
「……いや、こいつは無理だ」
「何で決めつけんだよリティア!」
腕を組んで首を横に振るリティアにライトは怒鳴る。分かっていた言葉だが、やらせようとしないところに苛立った。
「自分でも分かっているだろう? 木登り、出来るのか?」
「あのなあ……。俺を馬鹿にすんな。登り方さえ教えてくれれば俺だって……」
「なんてわざわざ教えなくちゃいけないんだよ! 自分で考えて登れよ」
リティアはライトに登るよう、顎で示した。ライトは意を決し、木に足をかけた。木の凹凸に指をかけ、二歩目を出そうとしたが、ライトはあえなく落下した。予想通りの結果に、ため息が出る。
「違うだろライト。はじめに手をかけるのはあっちだよ」
「ああ? ここか?」
「そう、それで足はそこにかけて……」
仕方なくリティアはライトに指示を出すことにした。それに従って、ライトも登って行く。
すると、さっきの落下が嘘だったように登り、木にかかった帽子を掴んで降りてきたのである。登ることが出来たライトは、満足したように帽子を渡した。
「ありがとう、ライト」
「どういたしまして」
リティアはライトの肩を叩き、子供に話しかけるようにして言う。
「良かったねえ、ライトくん。初めての木登り、無事達成できて」
ライトは鼻を鳴らす。
「俺にかかれば、木登りなんて楽勝さ」
「私がいないと登れなかったくせに、調子に乗るなよ」
突然の殺気にライトは縮こまり、肩をすくめた。冗談であろうが、その冗談が怖かった。




