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サイハテの国  作者: ヤブ
第四章
56/93

剣合わせ4-2

「お姉ちゃん、触ったー!」

「おー! 次は私が魔人だな、行くぞ!」


 リティアがそう言い放つと、子供たちは楽しそうに叫び声をあげながら走り出した。

 昨日、少し機嫌の悪かったリティアだが、笑顔を見せて走り回っている。子供のように走り回る姿は、とても剣使い大会で三連覇を遂げたとは思えない。


 子供相手でも手加減をしないのがリティアである。子供だからといって手を抜いていては、すばしっこい子供を捕まえることは出来ない。

 ちなみに魔人というのは、人を捕まえる化け物を表し、追いかけて遊ぶ時に子供たちが用いる例である。鬼と同じだと思って良いだろう。


「ほらほらー、魔人さんがやって来たぞー」

「きゃー!」


 楽しそうに遊ぶ姿を見て、リティアの笑顔は増す。毒を受けて眠り続けていたとは、誰も想像できないだろう。


 一人の子供が小さな段差につまずき、転けそうになった。それを、やってきた男が抱える。

 それを見ていたリティアは、相手の手元を見た。二本持っている剣のうち、一つはリティアが愛用している剣だ。


「リシャン……今?」

「ああ、今だ」


 リシャンは子供を立たせてやると、他の友達と別のところで遊んでくるよう告げた。

 リティアの剣を投げ飛ばす。良いコントロールで、リティアは動かずともそれを取ることが出来た。顔を狙っていたように感じたのは、気のせいだろうか。


 リティアから笑顔が消えた。その代わり、鋭くなった瞳がリシャンを睨み付けていた。


 勝負が始まる前を表すように、二人の間に風が通り抜ける。髪をなびかせ、隙間から覗く瞳が緩むことはなかった。


 リシャンの姿を見て後からやってきたライトとマーガレットが今到着した。マーガレットは麦わら帽子を被っている。既に作られていたこの空気に、二人は圧倒される。


「すごい殺気だわ……」

「ああ……」


 リシャンがどれ程の腕の持ち主か、それを見たことがないライトはどちらが勝つのか分からない。互いが放つ殺気はどちらも強く、見た目では互角と予想する。


「リシャンはどれくらい強いんだ?」

「そうね……ここ以外で戦っているところを見たことがないから、これが基準になるかは分からない……けど、この国では一番の腕を持つわ」


 風が止んだ。

 二人は鞘から抜き取り、邪魔にならないところに投げ捨てた。そして構える。


 二人の意識が通じ合い、互いに準備が整った頃、何の前触れもなく駆け出した。

 剣と剣が交わる。甲高い音が響き、大きく一歩下がる。


 間を入れず、また駆け出す。

 何度も混じり合う剣は音を立ててぶつかるばかりで、相手に傷一つ与えない。隙がなく、今の段階では互角と言える。


 今まで遊んでいた子供たちは、その動きに夢中でその場から離れない。


 風を斬る剣を避けては、自らの剣を振り下ろす。これの繰り返して、一向に終わる気配はない。見ていてこちらがはらはらする試合である。

 顔、首、腕、足。全てを狙い、全てを避ける。

 一瞬の隙を見つけて剣を入れるが、それも避けられる。


 釘付けになったマーガレットが、無意識に声が出てしまう。


「うわっ……あぁ…………ああぁあ」


 うるさいと言いたいところだが、ライトも釘付けになり、声を出す気にさえならない。


 ただ一人、それを無視できずに集中力が切れ、余所見をしてしまう。

 その隙を見つけたリティアは、急かさず剣を入れた。咄嗟に気付いて体を逸らしたが、完全に避けきることは出来なかった。


 横腹を負傷したリシャンは腹を押さえ、座り込む。そうなってしまえば、試合は終了である。


「リシャン!」


 途端にマーガレットはリシャンに駆け寄ろうとした。だが、隣にいたライトが止めた。

 リティアは立ったままで、そのまま動こうとしない。真っ直ぐにただ、座り込んだリシャンを見つめている。それに気付いたリシャンは、剣を握ると立ち上がった。そして、また構える。


「どうして? あの二人はまだ戦う気なの? リシャンは怪我をしたのに?!」


 ライトにそう問う。


「二人の考えていることは分からない。だけど、どちらかが降参の意を表すまで、きっと終わらない。リシャンも、その覚悟があって立ち上がったんだ」


 再び始まった二人の戦い。


 一度仕掛けた試合を、自ら放棄することはプライドが許さないだろう。この国で一番の腕をもつリシャンは、リティアに勝ちたくて仕方がないだろう。


 負傷しているリシャンは少し不利だ。この状況では、勝つことは難しいだろう。横腹からは赤い血が滲んできている。長くは戦えない。

 その中でも、リシャンは粘る。傷のないリティアのどこかに、少しでも傷をつけたくて。


 その思いが体に届いたのか、剣がリティアの首筋を浅く切り裂いた。

 目があった二人。


 二人は距離をとると、頭を下げた。試合終了の合図だ。

 それを理解したマーガレットはすぐさまリシャンに駆け寄った。続いて、ライトも歩み寄る。


「リシャン、大丈夫?」

「ああ、これくらいもう大丈夫だ」


 そうは言うものの、滲みは大きくなっている。


「リシャンは強いよ、剣使い大会の決勝で戦った男よりも、きっとな。っま、私の勝ちは見え見えだけどな」

「それにしてもリシャン、あそこでよく粘ったな」


 リシャンは腹を押さえながら言う。


「戦えと言われたような気がしたから」

「確かに、あの時のリティアの目はそんなことを言っていたかもしれないな」

「いつもはこんなことになるまで戦わない。良い体験をさせてもらった」


 話し続けるリシャンを見て、マーガレットが止める。


「もう話しちゃだめよ。怪我の手当てをしなくちゃ、持ってくるから待ってて」


 そういえばリティアも最後に怪我をしていたな。

 そう思い、ライトは振り返る。その姿にライトは目を見開いた。


「ライト……血管やられたかも」


 切り傷に手を当てるも、そこからは血が溢れ出ていた。だがリティアは特に慌てる様子もなく、むしろ「やっちまったぜ」という感じである。だが体は正直で、汗をかいている。


 それを見た三人は大慌てで、リティアの怪我の処置をした。とんだ迷惑者である。

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