剣合わせ4-1
二日も経てば、リティアは余裕で外を駆け回っていた。近所の子供たちを連れて、追いかけっこをしている光景を窓から見つめる。
あの考えを皆に披露してからそれほど時間は経っていないが、その話をしようとする者はいない。当たり前と言えばそうだが、それをそのままにしておくことは誰もが望まないだろう。
リティアはライトの考えが気に入らなかったのか、ライトに素っ気なく対応することがしばらくあった。だが、リティアにとってしばらくは短く、今日になればあのように遊んでいる。
あまり引きずられても困るが、すぐに忘れても対応に困ってしまう。
「ライトも遊んできたらどう?」
背後からマーガレットが声をかける。窓越しにその姿を見ることが出来る。
「俺は行かない」
「どうして?」
「運動は苦手だ」
「あら、剣術だけでしょ? その他の運動は出来るって」
舌打ちをするライト。隣に立ったマーガレットの笑い声が余計に苛立たせる。
ライトは仕方なさそうに話し始める。
「……子供が、あまり好きじゃない」
「そうなの? 私は好きよ。いつか、リシャンとの子供が欲しいって思うくらいにね」
「まあ……自分の子供が欲しいって思うのは普通だろうな」
後ろにリシャンがいることに気づいていないのだろうか、と疑問に思う。あのリシャンがどんな表情をしているのか、気になるところである。
リシャンが立ち上がって部屋を出て行った音が聞こえた。やはり照れていたのだろうか。
ライトは、声調を下げて話す。
「……子供って、今の自分がああだこうだって考えていないよな」
「まあね。小さい頃からそんなことを考えていると、少し可愛げが無いわね」
自分のことを言われているようで、心臓が少し跳ねた。マーガレットがライトの考えを知っているはずがないため、何も考えずに言ったことであるとは想像できるが、やはり言われて何も感じないという事はない。
「一回さ、こんなことがあったんだ。リティアに誘われて、鬼ごっこやらかくれんぼやら遊んでいたんだ。中等部の頃だったかな。同学年の奴らもいたんだけど、あれくらいの子供もいた」
そう言いながら、広場で遊ぶ子供たちを指す。
「その中に、見るからに面倒くさそうな男の子がいたんだよ、そいつが本当に餓鬼んちょでさ。俺を盾にするし、隠れていたのに鬼が来たら大声で叫ぶし。何故か俺についてくるんだよな。それである時、その餓鬼んちょが俺に言ったんだよ、『やっぱりお兄ちゃん、皮被ってんだろ』って」
「皮?」
「ああ。あの後からそいつは俺に引っ付いて来なくなった。多分あいつ、俺が作ってるってことに気づいたんだよ。あの歳でな」
あの時のことを思い出し、ライトはため息を吐く。思い出すだけで、あの時の心臓の痛みが蘇ってくる。
「だからあれから、子供には近づかないようにしている。またあんなこと言われるんじゃないかって思うと、怖くなってさ」
「そう……。子供って、意外とそういうことに敏感よね、気を付けないと。けど私は、これが本当の私だから。ばれる心配はないわね」
妙に自信を持って言う。ライトは顔をひきつらせて笑う。
幼い頃からライトは、人の表情をよく見ていた。何を考えているのか、少しの変化だけで見分けていた。
だから、ライトは少し人が苦手な部分もあった。それを隠すために自分を作っているということもあるかもしれない。
(あの餓鬼んちょ、今でも生意気なんだろうか……)
そんなことを考えていた時、視界の隅を何かが走って行った。目をやると、リシャンが何かを持って広場へ駆けていくところだった。
「リシャン?」
「え? 外にいるの?」
「何か持っている……。あれは、剣か?」
何故か二つ持っていた。一つは見たことのない剣、もう一つは青色の鞘の剣。リティアの剣だ。
ふと思い出した。みなも祭りの日、リティアとリシャンが腕合わせをする約束をしていたことを。リシャンはそれをしようと、広場へ向かったのだ。
「広場だ。リティアと腕合わせをするんだ」
「そうなの?」
「ああ、行こうぜマーガレット」
二人もリシャンを追って、広場へ向かった。