盗み聞き3-1
学園長室は、今二人がいる場所からほぼ反対の位置にある。学園はとても広いため、端から端を行くのにのんびりしていると五分以上かかることもある。特に移動教室でのんびりしていると、悲惨な目に遭う。友達と話しながら歩いていて、授業に間に合わなくなっている生徒は何人か出ているほどだ。先生が厳しい時は、ずっと指導を受けている。
入学したてのときは、ほどんどの一年生が迷子になる。しかし、一ヶ月ほど経てば大体の位置はわかるほどになる。リティアは酷いものだ。入学して既に半年が経つというのに、未だにあまり覚えていないのだ。入学したての時は、授業丸々出席せずずっと迷っていたほどである。
二人は学園長に呼ばれたこともあり、少し早足で向かった。
学園長室は遠いが、道順は至って簡単である。今二人がいる場所から突き当たりまで進み右に曲がり、そこから壁を伝って歩けば正面玄関につく。そこから少し行ったところにある。壁を伝って行けば一階なら必ず正面玄関に着く。しかし、それまでに十字路がたくさんあるため、つい迷ってしまうのだ。
「つーか、学園長はリティアに何の用なんだ?」
「確かに。私の姿を見て助けてくれたわけじゃあるまいしなあ」
「まさか、何かやらかしたんじゃないだろうな」
ライトは隣を歩くリティアを横目で見る。
リティアが問題を起こすのは日常茶飯事にあることでライトも慣れてきてはいる。だが、やはり姉が問題になっているというのはライトの評判にも傷がつくことになる。それは避けたいところだが、真っ直ぐに進むリティアを止めることは出来ないと分かっているため、ほとんど諦め気味である。
「んなまさか。大会の前に問題起こしたら出場できなくなるからそんな事しないって。高等部は出場に許可はいらないし、問題と言える問題は絶対に起こしてない」
ここ数ヵ月、大会に出るためだけのために良い子にしていたリティア。入学してから急に大人しくなったため、クラスの子が心配するほどである。
もっとも、ちゃんと授業を聞いていたかと聞かれたら、うんとは答えられないが。
だがリティアなりに頑張った方である。
そんなリティアが問題を起こしていたら、リティアはちゃんとしていたと言い張るだろうし、もし学園長に目をつけられるほどの問題を起こしたのなら、大会には出場していなかっただろう。
「じゃあ、他に何かあるか?」
「……」
リティアは返事が出来なかった。何も思い付かないのである。
どれほど自分を疑っても、問題は見当たらない。これほど考えても出てこないことに、むしろ自分を誉めたいところだ。リティアが小さくても大きくても問題を起こさないのは、珍しいことである。
「そういえば」
少しの沈黙の後、ライトが口を開いた。リティアはまだ斜め下を向いて考えている。
「学園長ってカジュイの親戚らしいぜ」
「えっ、まじで?」
その事実にリティアは考えることをやめ、すぐにライトの話に食いついた。
「ああ。親戚って言っても結構遠いけどな。正式に言うと、王家の血を引き継いでいるらしい。学園長とカジュイの祖先を見ていくと、兄弟の二人が出てくるんだ」
ライトは右手と左手の人差し指を立てて、兄と弟を表す。
「弟は真面目に勉強をして、ほとんどの時間を勉強に費やしていた。兄の方は女好きで、女を取っ替え引っ替えしていた。ある日、一人の女が兄の子供をお腹に授かったんだ。それから、兄は女を取り替えるのを止めて家族一筋で頑張り始めたんだ。兄の方は次期王として育てられていたんだ。けど、兄は戦争に出て死亡。子供を授かった女の方は子供を産むときに亡くなってしまった。その時の王はこのことを国民に秘密にするために子供を教会に預けたんだって。
その後、弟が結婚し子供を授かった。弟が次期王になったんだ」
二本の指をくにくにと曲げながら、動きや死を表す。弟を少し上げ、見ての通り次期王になったことが分かる。
「兄の子供はそこから血を受け継いでいったってわけか」
「ああ。この国の端に教会があるだろ? そこに預けたらしい。子供が大きくなったときに教会のシスターが言ったんだって。その子は王家が持つ銀髪で、他の子供たちに言われていたらしいんだ」
「なるほど。そこから、王家の血を受け継ぐ者が二つに別れたってわけね」
「そういうこと」
リティアはライトからの話をまとめ直す。
学園長とカジュイの祖先を見ていくと、二人の兄弟で繋がることが分かる。その二人の兄の方は子供を残して戦死。母になる女も子供を産むときに亡くなる。その後、子供は教会に預けられ、弟の方が王となった。
つまり、学園長とカジュイは遠い親戚になるというとこ。いや、学園長は王家の血をひく者だということになる。
もしここで王の子供であるクロンが早くに亡くなれば、もしかすると次期王は学園長の子供になるかもしれないということだ。
「王家の血を受け継いでいるってことは、結構進路に関しては有利になるかもしれないな」
「どういうことだ?」
リティアの言葉に、ライトが問う。
「だって、もし王家の血を受け継いでいるのなら、王家が放っておくわけないだろ。こうやって噂として回ってきているのなら、どこかからその情報が漏れたっていう可能性がある。こんな作り話が流れてくるっていうのは信じがたいし。もし事実だとしたら、一応国民には秘密にしたくなるのが本望じゃないのか?」
「確かに。面倒なことがあるかもしれないしな」
「ああ。だから、内緒で繋がっている可能性があるわけだ。もし国民に言われたら、王家の主権が危うくなるかもしれないからな。絶対、学園長が王になった方が良いっていう人が多くなるだろうから。だから、口封じをするために学園長に交渉するんだ。黙っていれば卒業生の進路の中に、『王家の部隊』の欄を作っても良いってな」
「それなら、学園長も黙ってはいれないな。何たってあそこは超難関だからな。それが、進路の中に入るんだ。この学園の二科には毎年部隊志望が数人いるらしいし、それは得になるな」
リティアはライトの肩を叩き、胸を張る。
「だよな! どう? 私の考えは?」
どうやら、自分の考えの評価をしてほしいようだ。
話の筋はなんとなく通っているし、ただの考えだから間違っているとも言えない。普段のライトなら少し口を挟むところだが、学園長室が見えたため言い返すのは止めた。
「まあ、良いんじゃない」
「ほんと? やっぱり? 今日の私冴えてるわー」
そう言いながら腕を組み、二回頷く。
学園長室に着いた。やはり、学園長室というのは前に来るだけで少し緊張してくる。
リティアが問題を起こしていないのに学園長に呼ばれて来るのは初めてだ。中等部のころは、学園内で剣を振り回して何度か呼ばれたことがある。
リティアは大きく息を吐く。
「やっばい、なんか緊張する」
「そりゃそうだろ。問題起こしたんだから」
「いやいや、起こしてないって。ライトは格技場行っておかないのか?」
「話の内容が気になる。さっさと行ってこい」
ライトの態度に不満を持ちながらも、何とか堪える。
ライトは壁にもたれ、腕を組む。足を少し交差しているため、かっこよく見える。顔も整っているため、ほとんどの人が振り返ることだろう。中身を知れば、どこかへいってしまう人が出ることは目を見えて分かる。
リティアから見ても、今のライトは整っていてかっこいいとは思う。
リティアは学園長室の扉に手をかけた。
その時――。
「え? リティア・オーガイトを王家の部隊に?」