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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
48/93

カローナの家8-5

 カローナの家についたライト。早速家の中を散策する。


 まず調べたのは、引っくり返った机。何故このような姿になってしまったのか分からない。元からこうだったかと考えるが、リティアがそのままにしておくとも思えない。何か理由があって引っくり返されているのだろう。


「ん?」


 机の裏の少し開いた小さな引き戸を見つけたライトは、しゃがみこんだ。引き戸を完全に開けて、慎重に手を突っ込む。手を動かす度に枯れ草が潰れる音がする。それを机の中から取りだし、床に置く。


『お主の両親は、もう亡くなっておるのか?』


 ロジの言葉が頭をよぎる。リティアの両親が亡くなっていることは知っているだろう。二人で暮らしているのならライトの両親がどうなっているのか、気になるところだ。


 リティアとライトが、どういう経緯で共に生活するようになったか、知っているのだろうか。まさかリティアがそこまで話しているとは思えないして、ロジも無神経に聞くとは思えない。カローナが知っていたとしても、そこらの誰かにほいほいと言うとは思えない。

 となると、知らないと考えて良い。


(長老には関係のないことだろ……)


 思い出したくないことを思いださせたロジに対して、心の中で愚痴をとばす。

 娘を亡くしたロジには、きっと気持ちが理解出来ている。だが、気持ち的には異なる。大切な人を亡くした悲しみ。親を亡くすのと子供を亡くすのとでは、先の不安の大きさが違う。


 ライトは音を立てて机に中から物を出す。物に当たってもどうしようもないが、この気持ちをそのままにはしておけないのである。


 草や紙くずばかりで、役に立ちそうなものはなさそうだ。

 ある草を取り出す。それを一度は床に捨てたが、気になりもう一度手に取る。


 それは、棘がついた草だった。茎の部分はほとんど枯れているが、棘はまだしっかりしている。この草に毒があれば、リティアはそれでやられたと考えてもいいだろう。

 早速ライトはこの草を持ってマーガレットの家に戻った。


「長老。家にあった机の中から、こんな草が出てきた」


 持っていた草をロジに渡す。


「これは、ナナクサじゃ。じゃが、この草には毒はないのお」

「そうか……。やっぱり、そんな簡単じゃないよな。けど、もしかしたらその草のどこかの棘に毒がぬられているのかもしれない」

「うむ。考えられるな」


 ナナクサはロジが預かることになった。

 リティアの表情は、まだ少し苦しそうにしていた。




 いつの間にか眠っていたライトは、扉が開く音で目を覚ました。


「ライト?」


 呼んだのはマーガレット。エプロンを身に付けている。

 ライトはまだ半分寝たままの瞼をこする。寝言混じりに「んん?」と声を出す。


「眠っていたのね。起こして悪かったわ」

「いや……大丈夫だ。何か用か?」

「祭の片付けをするから、手伝ってほしいそうなの。どう? いけるかしら」

「分かった。すぐに行くよ」


 ライトはしばらく壁を見つめる。このままいれば、また眠ってしまいそうだ。

 部屋を出ようとしたマーガレットだが、またライトに声をかけた。


「……大丈夫?」

「え?」


 当然の言葉に、ライトはマーガレットの顔を見た。扉から顔を覗かせ、控えめにまた言う。


「リティアがこんなことになって、平気かなっと思ったの。いくらライトくんでも、不安になるでしょう? だって、その……信頼できる人が、他にいないんだし……」


 マーガレットは視線を逸らす。

 自分のことを言っているのだろうな。

 ライトはすぐに分かった。マーガレットが自分を作っているせいで、他の人まで信頼できなくなっているのではと考えたのだろう。確かに、ライトはこの国で信頼できる人を持っていない。


 ライトは微笑みながら言う。


「そうだな。けど、皆がリティアなことを助けてくれようと動いている姿を見たら、不安なんてどこかへ行ったよ」


 ナガクサを採ってきてくれたリシャン。それを、汗を滲ませながら擂り潰してくれたマーガレット。リティアに的確な処置を施してくれたロジ。三人の姿を見ているだけで、三人の気持ちがよく分かった。


 そして、気づいてしまった。

 自分がどれだけ、無力だったかを。


 賢いだけではどうにならなかった。それを使えなければ意味がなかった。

 要領が悪いのだろうか。そのせいで、持っているはずの運動能力を上手く活用することができない。


 何も知らないから動けない?

 何故知ろうとしないんだ。


 賢いから知らなくていい?

 誰がそんなことを言ったんだ。


(ああ。今気づくなんてな)


 ライトは額に手を当てた。

 言った言葉とは裏腹に、悲しそうな顔をするライトを心配するマーガレットだが、声をかけることができない。なんと声をかけて良いのか分からないのである。


 ゆっくりと立ち上がり、マーガレットに声をかける。


「夕飯を作っているのか。もうそんな時間なのか?」

「ええ。片付けを終えた頃には出来上がっていると思うわ」

「そうか」


 ライトはマーガレットの隣を通りすぎて、部屋を出た。


「……ライトくん、ごめんね」

「何がだ?」


 お互い背中を向けたまま話す。


「……何となく、言いたかっただけ」


 言いたかった言葉を押し殺して、笑ってそう言った。

 いつまでも暗い話をするのは好まない。今は、それぞれのやるべきことをするまでだ。

 突然、ライトご吹き出した。


「えっ、何?」

「いや……お前も申し訳ないって思うことがあるんだな、と思ったら……笑いがとまんねえ……」


 頬を紅潮していく。

 マーガレットは振り返ると、怒鳴り返す。


「なっ、なんて事言うのよ!」


 マーガレットの顔を見て、更に腹を押さえて笑った。機嫌を損ねたマーガレットは顔を背けた。


「別に、本気で思ったりしてないわ」

「嘘だ。顔を見れば分かるよ」


 横目で、笑い終えたライトを見る。


「作ってるやつが本気で思ってたら、俺には分かるよ。それに、マーガレットは作るほどのやつじゃない。自分をさらけ出せば、皆それを認めてくれるさ。申し訳ないって思えるなら、尚更な」


 そう言ってもらい、マーガレットは心が軽くなるのを感じた。本当の自分でも、認めてもらえた。それは、今まで感じたことのない温かさだった。


「じゃあ、行ってくるな。夕飯楽しみにしてる」


 軽やかに階段を降りているライトの背中を見送る。頬の温もりは、しばらく消えなかった。




 片付けを終えて帰った来たライトとリシャン。三人の間に、いつもと違う空気が流れていたことに、誰も気付かなかった。

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