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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
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カローナの家8-2

「え? リティア見ていないのか?」


 広場へ戻ってきたライト達は、家の前で座っているロジ話しかけた。どうやら始まって少しした頃から座っているようだ。ロジ曰く、人混みに酔ったようだ。「年を取ると、人混みにいるのが辛くなるのお。参った参った」と、目尻に皺を寄せて笑った。


 リティアを見なかったか。そうライトがロジに聞くと、彼は今日一度も見ていないと言った。見ていないのなら別に良いのだが、今日一度も見ていないと言うのが疑問に感じる。


「本当に、一度も見ていないのか?」

「一人で居るところは見ておらんが、お主らと一緒に屋台を回ろうとしているところは見ておった。あの時にはすでに足がやられてのお。なんや最近、足の調子が悪うて困っておるんじゃ」

「年じゃねえのか?」

「たわけ、わしはまだまだ生きれるわい。じゃが、やはり油断は出来んのお」

「それで? それ以外にリティアは見ていないのか?」


 ロジは首を縦に振る。


「うむ。じゃがライト、お主が広場から出ていったところは見たぞ」

「俺をか?」

「顔付きからして、恐らくリティアを探しに行ったときじゃな。実際、その後マーガレットとリシャン出て来てどこかへ行ったからのお」


 ライトは中指で顎を掻く。


 四人が入っていくときを見て、ライトが出ていくところも見た。だが、リティアが出ていったところは見ていない。見逃してしまったということもあるだろうが、何か腑に落ちない。


 もし、リティアがそこから出ていないとすると、他に出口はあるか?


「……あるな」


 ライトの独り言を聞いたマーガレットが問いかける。


「何があるの?」

「……そうか、出る方向が違ったのか」


 よく分からないマーガレットだが、その一言でリシャンは理解出来たようだ。


「どういうこと?」

「リティアは俺たちが入っていった方向と別の方向から出ていった、つまり、市場の方から出ていったんだ」

「市場の方……あ、そういうことね! 出口が違えば、人混みを出てすぐにリティアを見つけることが出来なかった理由も納得がいくわね」


 聞いていたロジも二回頷く。


「なるほど。わしが見ていなかったのは、方向が違ったからなんじゃな」

「恐らくな。俺らが入っていくところと俺が出ていくところを見ていたのなら、ロジがあっちばかりを見ていた可能性は高いな」

「今思えば、ずっとあっちを見ていたかもしれんなあ」


 そう言って、顎を擦る。


 今から市場側を探しに行くのもいいが、今からでは反対側へ行っている可能性がある。向こう側で何かあって留まっていることもあるが、その場合それはすでに解決しているだろう。


 リティアがいなくなってから、少なくとも三十分は経過している。剣を出すほどの相手ならば、剣を持っていないリティアが負けてしまっていることも考えられる。そうなれば、リティアがどうなっているか――。


 もしリティアが平気な顔をして、国を放浪していると仮定しよう。そうなれば、リティアはどこを目的として歩くだろうか。


 久しぶりに帰って来た、故郷と言える国。

 ここへ来てから、マーガレットとリシャンに国を案内してもらった以外、リティアとライトは自分だけで国を歩いてはいない。ここへ来てから時間は経っているが、そんなことは一切出来なかった。いや、しなかったの方が正しいだろうか。


 来て数日は夜に見た大祠での出来事について考えるばかりで、それを忘れてきた頃にはみなも祭りの準備が着々と始まっていた。若い者がよく働かなければいけないため、リティアとライトは年寄りたちの言いなりに動くしかなかったのだ。


 国の住民が広場に集まる今日。今を使わない手はない。

 リティアなら、ついでと言って行きたかったところへ向かうだろう。


 ――リティアなら、どこへ向かう?


「なあマーガレット。ここでのリティアの思い出の場所ってどこかないか?」


 突然話しかけてきたライトに、マーガレットは一歩後ずさった。


「思い出の場所?」

「ああ。もしかしたら、リティアがそこにいるかもしれない」


 そう言うと、マーガレットは手掛かりとなるような場所を思い浮かべる。自分の国の事となると、リティアとの場所くらいすぐに出てくる。


「リティアのお祖母ちゃん家や果樹園の先にはよく居たようね。あとは高台、砂浜でもよく遊んでいたわ」


 ライトは頷くと、リシャンに話しかける。


「リシャン、高台と砂浜を頼めるか」


 リシャンは無言で頷いた。


「マーガレット、リティアのお祖母ちゃん家まで案内を頼む」

「分かったわ」


 そうして、リシャンは砂浜へ、ライトとマーガレットはリシャンの祖母の家へ駆け出した。



 ◆◆◆



 マーガレットと共にリティアの祖母――カローナの家に向かったライト。


 リシャンに案内してもらったことがあるが、ただ歩いていただけでどの家が誰の家なのか、皆無と言っていいほど教えてくれなかった。もし今から案内してくれるのならば、あの時のようにはならないだろう。


 走っていきたいところだが、マーガレットがすぐに足を止めてしまうだろうと思い、早足で向かっている。それでも軽く息を切らしているが、カローナの家までなら十分行けるだろう。


 そんな中で、マーガレットは何も知らないライトに教える。


「リティアのお祖母ちゃんの家は、国の端にあるの」


 息を切らしていながらも教えてくれるマーガレットに、ライトは胸が痛くなる。自身が辛い中でわざわざ話してくれなくてもいいのだが、それはマーガレットの優しさとして受け取っておく。


 端と聞いて、ライトはある家を思い出した。


「端? ……もしかして俺、見たかもしれない」

「本当に?」


 覗き込むようにしてライトの顔を見るマーガレット。可愛い女の子にそんなことをされれば男は胸がときめいてしまうが、今はそんな状況ではない。


「ああ。もう森ぎりぎり近くにあって、印象に残っていたんだ。マーガレットの家と違って、二分の一の面は森だからな。暗いだろうなあと思って見ていたんだ」

「その時に、リティアの姿はなかったの?」

「ああ。ちらっと見た程度だったからな。家の中にいたら、どうか分からないけど」


 本当はマーガレットと二人きりになりたくなかった。

 そう思っているライトだが、こうするのが一番の選択だった。


 カローナの家を知らないライトが一人で行けるはずもなく、マーガレットかリシャンについてきてもらうしかない。ライトとリシャンが一緒にいくのなら、マーガレットは一人で砂浜と高台へリティアを探しにいくことになる。

 それでも大丈夫だとは思ったが、どうせならマーガレットを一人で行動させたくない。

 男なら、女に優しくするべきだから。

 ライトはそう考え、仕方なくマーガレットと二人でカローナの家へ向かうことにしたのだ。


『じゃあ、単刀直入に言わせてもらうわ。あなた、今も作ってるの?』


 あの時のマーガレットの顔を思い出す。ライトはあれを見て確信したのだ。だから、あの言葉を発した。


『……あんたは、どうなんだ?』


 はっきりと答えてくれなかったが、反応からして図星だったのだろう。


 ライトは初めてあったときからそう疑っていた。

 見た目は抜群で、性格も可愛らしい。守ってやりたいと思わないやつなど、そうそうにいないだろう。

 だが、ライトはそこを疑った。女を見てきたライトにはすぐにわかったのだ。


 ――作っている。


 だが、それをリティアに聞くことはできない。どうもリティアはそれに気づいていないようで、言おうにもリティアを悲しませるだけのようで言えないのだ。


 マーガレットに近づけばそれなりに確信を持てることがあるかと思ったが、変に話しているところを見られれば、リティアに「なに話していたんだ?」や「仲良くなったんだ?」と言われることは間違いない。


 そこでライトはすぐに、マーガレットが可愛いと思っていることをリティアに告げたのだ。もしリティアにマーガレットと話しているところを見られても、好きだからなんだろうな、と思わせることが出来るからだ。


「ライト」


 マーガレットが名を呼んだ。ライトは、少し間をあけてから返事をする。


「何だ」

「……さっきの話、思い出してた?」


 マーガレットは心をよんでいたように、そう言った。


「私も、考えていたところよ」


 近づく手が、ライトの肩に置かれた。

 ゆっくりと足を止めると、マーガレットは耳元で囁いた。


「ねえ。……話の続き、しない?」

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