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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
36/93

祭りの前日6-2

 リティアもそのあと、ロジに続いて手伝いをした。

 箱に入っている細かい部品を組み立てていき、屋台を作っていく。数としては、およそ二十個。広場に二列で並べ、人々が間を行き来して不便がないようにしてある。小規模になるが、毎年この規模である。屋台に出される食材は豊富で、たくさんの人が買いに来る。あまりが出ることはほとんどなく、若者が最後の最後まで残って残りそうなものを掻っ払っていくのである。若者だけでなく、商売人としてもうれしいものである。


 一つ組み合った頃に人々が集まり始めた。それを組み終えることには全ての住民が集まり、他のところでは作業に入っていた。

 ほんとうは始まりの会が行われるのだが、このまま作業を続けることにし、出来るだけ早く完成させる。


 ふと辺りを見回すと、マーガレットとリシャンの姿があった。

 作業に没頭しすぎて二人のことを忘れていたのである。

 二科に入っていたため、体力は結構ある。そのため、いろんな人から頼られ、周りに目を配る暇がなかったのだ。ライトの方は行動力は抜群なのだが、体力がないためすぐにばててしまった。今はロジの家の前で腰を下ろしている。


 丁度その場の作業を終えたリティアは、マーガレットとリシャンの元へ向かった。


「マーガレット!」


 リティアの声にマーガレットとリシャンのどちらともが反応する。マーガレットは箱を持ち上げようとしていたが、そのまま下ろした。


「リティア。随分頑張っているのね」

「ああ、体力はあるからな。いまあっちの五つは終わったんだ。ここは?」

「こっちも終わったわ。余ったものがあったから、片付けにいくところなの」


 地面には箱が三つあり、一つは箱の上に積み上げられていた。

 先程の様子から、どうやらマーガレットは箱一つさえ持てなかったのだろう。


「マーガレット、持てなかったのか?」


 容赦なく聞いてきたリティアに、マーガレットは少し頬を赤らめた。


「そ、そうなの。まさか、こんな箱も持てないなんて、自分でも思いもしなかったわ」


 リティアは箱を見つめる。

 箱の重さなら、さっき持ち上げたときに知っている。リティアからすればそれほど重たくはなかった。


 リティアは腰を曲げると、二つ積まれている箱を持ち上げた。それも、軽々と。

 マーガレットは口元に手をやり、「あら」と声を漏らした。

 どうとも言えず、リティアは口を結んだ。

 マーガレットにどれだけ力がないのか、身を持ってよく知ったリティアとマーガレット。


「じゃあ、代わりにリティアに頼んでいいかしら?」

「いいけど、どこに戻すんだ?」

「リシャン、頼めるかしら? 残り一つも持っていかなければならないしね」


 リシャンは何も言わずに頷く。

 箱を持ち上げ、リティアの箱を見つめていたが、「大丈夫だよ、持っていける」とリティアは言っておいた。


 そのあと、マーガレットは人に呼ばれどこかへ行ってしまった。

 リティアはリシャンに案内を頼み、歩き出す。


 箱を持っていくのは、果樹園の近くに設置されている小屋だ。普段は行かない場所にあり、森の中にあるため目にもつかない。

 少し広場を離れると、人は全くいなくなった。全員と言っていいほどの人数が広場に集まっているからである。


 果樹園の中に入ると、一気に寒気を感じた。

 木が生い茂って、光をほとんど入れない。風で葉が揺れると、光がそれを反射して目が眩む。一応道が作られているものの、枯れ草や木の葉が落ちており、良い道とは言えない。


 前を歩くリシャンの背中を見る。

 どうも警戒が解けない。まともに話さない彼は、何を考えているのかよく分からない。

 果樹園は少し暗くて、リシャンの背中が暗くなる。少し離れてしまうと、姿がわからなくなってしまうかもしれない。

 出来るだけ離れず、しかし少し距離をとって歩く。


 白いなにかを見つける。小屋だ。

 リティアは真っ先に向かうと、目の前に立つ。少し泥で汚れている。


 箱を置き、扉を開ける。錆びてしまっているのか、立て付けが悪いのか、うまいように開かない。


「リティア」


 突然に名前を呼ばれた。その声がリシャンだと理解するには、少し時間がかかった。まともに声を聞けていないせいだろう。二週間経っても、話しているところはあまり見ない。


 力を込めて扉を開ける。体重をかけると上下に揺れながら開いた。

 そのあとリティアは振り返らずに、声だけで返事する。


「なに?」


 心臓が高鳴っていくのが分かる。


「マーガレットと僕が会議に参加していた日の夜、何処に行っていたんだ?」


 少し間があいてから放たれた。

 不意の言葉だったが、驚きはしなかった。ただ、さっきよりも体温が上がっていく。


 リシャンは勘づいていた。

 名前を呼ばれたときに、その話ではないかと自然と体が反応していた。本当になってほしくはなかったが、そうなってしまったものはしかたがない。


 何も口にしないリティアの背中を見て、リシャンはまた口を開く。


「あの日の夜外に出たとき、電気がついていなかった。寝ているには早すぎる時間だ。真っ暗のなかで何かをしていたとは考えにくい」


 やはり、電気をつけていかなかったのは失敗だったようだ。周辺に他の家が建っているため、気づかれる確率は少ないだろうとは思ったのだが、侮ってはいけないようだ。


「まさか……」


 リティアは慌てて振り返る。


「リシャンの、勘違いだよ。その日は早くに寝たんだ。二人きりになったから、気が緩んだのかな。眠たくなってさ。リシャンの期待に応えられていなかったか?」

「……いや。なら、いいんだ」


 リシャンは小屋に近づき、持っていた箱を片付けた。


「残りの箱、よろしく」


 それだけ言うと、リシャンは先に帰っていった。

 リシャンが果樹園から出ていったことを確認すると、地面に置いた箱を小屋の中に入れた。


 リシャンが自ら去っていってくれて、リティアは安心した。あのまま根掘り葉掘り質問され、追い詰められていたら、いつかぼろが出てしまうことは自分でも分かっていた。

『まさか』、その言葉の後の台詞を聞くのが怖くて、慌てて自分の言葉を被せた。否定することは十分に可能だが、普通でいられるかは分からない。


 何となくだが、マーガレットには言っていないような気がした。マーガレットがリティアのことを信頼していることはよく知っているだろう。それなのにリティアが怪しい行動をとっていると知れば、マーガレットは悲しんでしまうかもしれない。婚約者であるリシャンなら、そこは気遣うだろう。何の証拠もなく告げるのは、よろしくない。


 箱を片付け終わり、もと来た道を進む。

 ふと足を止めると、後ろを振り返った。先に続いていることが分かる。それも、森を抜けて。

 果樹園を抜けた先に田があることはマーガレットから聞いている。

 もしその先に、サイハテの正体があるとしたら――。


 リティアは迷わずに足を進めた。

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