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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
33/93

夜のサイハテ5-2

 ゆっくりと扉を開ける。

 電灯のないこの国は、夜になるとほとんど明かりがない。家から漏れている光のみで歩かなければならない。もともと家が少なく、頼れるほどの光は存在しない。


 夕食を終えた二人は、早速例の場所へ向かうべく外へ出る。

 少し光が出ているうちに出なかったのは、人の目に入らないためである。夜になると誰も外に出ないだろうと考え、日が完璧に沈んだ頃を見計らっていたのである。

 国の者は市場に集まり、家に残っているのはほとんどが子供だと考えられる。実際に家の中から子供の楽しそうな声がするのを聞いた。


 明かりをつけて歩きたいが、そうすると二人が外を歩いていることがばれかねない。仕方なく、微かな光だけを頼りに足を進めていく。


 向かっている先は対角にあるため、時間がかかると思われる。


「ライト、どれくらいで着くんだ?」

「多分、二三十分」

「そんなにかかるのか? やっぱ来るんじゃなかったかも……」


 リティアはその数字に項垂れる。


「別に帰ってもいいけど、お前が家に着いた頃に俺は目的地に着いている予定だからな」

「それはなんだか嫌だなあ」


 仕方なく、リティアはライトの後ろを歩き続ける。


 音がしない。

 足音でさえも、コンクリートの道を歩いているため聞こえない。ただライトだけを頼りに歩き、いつ何が出てくるかも分からない夜道を歩く。

 いざというときのためと盗まれないようにと剣を身に付けているが、こんなところで戦うことになると、住民にばれやしないだろうか。静かに相手を倒す方法など習っていないし、自分が音を出さずに敵を倒せるのかも知らない。


 だが、そんな心配は要らなかったようだ。

 何事もなく目的地に着いた。

 真っ暗で何も見えない。ライトは辺りを警戒して、持ってきていたマッチに灯りをともす。

 一瞬のことだが、よく分かった。

 石段の階段が上まで続いている。左右には木が生い茂り、それを隠しているようだ。

 すぐに火は消え、闇に包まれてしまう。

 ライトはリティアを見る。はっきりとは見えないが、何となく見える気がした。


「行くぞ」

「ああ」


 ここまで来ると、さっきまでの気持ちは一気に吹き飛んでしまう。むしろこの先が気になってしかたがない。

 石段を上っていく。踏み外さないよう、慎重に上っていく。

 足元から少し風が吹いてくる。吹き上げる風に鳥肌が立つが、なんとも思わない。


 なんなく階段を登り終える。それほど高くはなさそうだが、高台よりは高い位置にある。


「着いた……」


 ライトが少し息を切らしながら言った。これくらいで息が切れているとは、とリティアは呆れる。

 マッチで明かりを灯した。

 辺りを見回す。入り口と同じで森に囲まれている。入り口のものと繋がっていると見て間違いなさそうだ。

 空には満天の星。もちろん、月は存在しない。

 特に何かの気配はなく、剣を出すことはないだろうと安堵する。

 しかし、気になることはある。


「なあリティア……。目の前に何かあるよな?」


 ライトよりも目の悪いリティアに聞いて、半分返事が返ってくることを期待している。

 いくらライトより目が悪いと言っても、世間的には良い方である。ただ、ライトが良すぎるだけ。

 そのため、リティアにもライトが見えているものは見えている。


「ああ。何かあるな」


 マッチの灯りがあっても、少し離れているためよく分からない。二人はそれにゆっくりと近づく。

 近づくにつれてだんだん形が見えてくる。


「家じゃなさそうだな」

「何だろう……」


 四角い大きなものに、それよりも幅の小さいものが乗っている感じである。上の部分は縦に長く、祠にあった石を思わせる。

 祠、と考えてリティアの頭に何かが過ったが、一瞬のことでよくわからなかった。

 二人の背後から吹いた風で、マッチが消えてしまった。風は海の方から吹かずに階段方から吹いてきている。風から微かに塩の匂いがしたことから、海からの風が階段から吹き上がってきたと考えてもいいだろう。


「もう一本マッチは?」

「あるけど、あまり使いたくないんだけど。いざというときに使えなかったら不便だろ?」

「今がいざというときなんだよ。さっさとつけろ」


 リティアに押され、仕方なくマッチを箱から出す。

 マッチを擦ろうとしたライトの手を、リティアが突然止めた。ライトの手を握り、目だけを辺りを見る。


「リティ――」

「静かに。……何か来る」


 そう言われ、ライトは迷わず階段の方を見た。何かが来るとした、大抵は階段からだろうと踏んだのだ。

 リティアは僅かな音を聞き取り、ライトの腕を掴んで例の妙なものの後ろへ隠れた。

 突然引っ張られ驚いたライトだが、転けないように走っていく。

 足音がした。石段の階段を上る、鈍い音。人間のもので間違いない。それを聞くと、どうやら一人ではないことが分かった。

 ライトは出していたマッチを箱にしまう。リティアは少し顔を出し、目を凝らして見る。


「どうだ、何か見えるか?」


 ライトが小声で聞くが、リティアは首を横に振る。

 だが、足音が徐々に大きくなってきた。それは、ライトの耳にも入るほどに。

 二人ではない。もっと多い人数の集団が階段を上がってきている。

 こんな時間に人間が何故こんなところに来るのだろう。そして、その人間は、一体誰なのだろう。

 考えられるのは家に残っているのは子供達くらいだが、子供がこんなに静かに上がってくるとは思えない。何かしらの声が聞こえてくるはずだ。

 となると、他の人間ということになるが、そうなると市場で会議をしている大人たちしかない。

 会議の途中でこんなところに来るのは考えにくいが、およその人数からしてそうと考えるのが妥当だ。

 ふと、階段の辺りが明るくなっているのが見えた。先頭の者が松明か何か、灯りになるようなものを持って歩いてきているのだ。

 このままリティアが顔を出していると、光で顔が照らされてここにいることがばれてしまう。

 リティアはすぐに顔を引っ込める。

 顔を出そうとしているライトを止め、静かにするようにいう。


「いやー。まさか、この時期にあの子が来るとは思わなかったなあ」


 男の声がした。若い男だ。


「そうじゃな。前までは祭りが終わってから来よったから、驚いたわなあ」

「しかも、もう一人男の子を連れて来よった。ありゃあ、あの子の男とちゃうやろかなあ、いひひ」

「姉弟やゆうておった。さすがに自分の男をわざわざ危険な目を合わせたくはないやろ」

「それもそうやなあ」


 リティアとライトの話をしていることはすぐに分かった。ライトがリティアの男と言われ、血が繋がっていないけどそれは絶対にないと、二人は思う。


「マーガレットちゃんはどう思う? あの子たち、信じるべきじゃろか?」


 マーガレットに話が振られた。

 マーガレットは市場に会議に参加しに行った。この集団にいるとなると、やはり会議に参加している者たちが来ているのだ。


「そうですねえ」


 マーガレットの言葉を聞き漏らさないよう耳を済ませる。


「信じていいと思いますよ。男の子の方はまだ初めてあったけど、女の子の方は幼い頃によく遊んでいましたから。簡単に嘘なんてつかないし、もし嘘をつくとしてもあんなに上手くありませんし」


 そう言われて喜ぶ反面、嘘が下手と言われたようで少し悲しむ。

 確かに自分でも上手くはないとは自覚している。それを、幼い頃にしか遊んでないマーガレットに見抜かれていたのがショックなのである。

 幼い頃と言ってもそのときは小等部高学年の頃。幼いと言えば幼いが、年数で言えば五年である。人によって長いか短いかは異なるが、それほど長いとは言えないだろう。


「……マーガレットちゃんが言うなら、そうかもしれねえな」

「けど、油断は禁物じゃ。国のことが出来るだけばれないようにしにゃならんからな」


 リティアとライトは見つめあった。

 さっきの発言から、何か外部にばれてはいけない何かがこの国にはあるのだ。秘密に関して、少し近づけた気がする。

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