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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
32/93

夜のサイハテ5-1

「じゃあ行ってくるね。よろしく頼みます」


 次の日の夕方、時間になったマーガレットとリシャンはまもなく家を出て市場へと向かう。

 リティアとライトはこの国の者ではないため、会議には参加出来ない。参加出来ると言われても、二人は行かないだろう。


「おう、まかせとけっ! いってらっしゃい」


 玄関で二人を見送る。

 いきなり二人に留守を任せるのは心配だろうが、リティアの笑顔を見て吹き飛んでしまう。

 ライトは部屋にこもっている。一応少し前に「もうすぐ行くのか。いってらっしゃい」とだけ言っていたが、見送りは好まないのだろうか。色々疑問に思うことはあるが、気分だろうと考えておく。


「うん、いってきます」


 そう言って、二人は出ていった。

 見送りを終え、リティアは早速夕食に取りかかる。

 普段から料理を作っているリティアにとっては、楽勝である。

 氷箱の蓋を開けると、冷気が漂ってきた。それを手で払い除け、中の食材を見る。二人が出て行く前に一度見たが、やはり今日の夕食は野菜を中心に使用したものに決定している。


 明日マーガレットは美味しいものを作るといっていた。そうなると、やはり市場で売られている新鮮な魚で作る料理だろうと予想できる。それに、人の家で好き勝手に食材を使うのは罪悪感を覚える。だから、野菜中心のものにするのだ。


 野菜を取りだし、包丁で切っていく。

 その時、昨日のライトの言葉を思い出す。


『明日の夜、俺行きたいところがあるんだ』


 突然言われたが、驚きはしなかった。

 どこへ行きたいのかは教えてくれなかったが、夜に一人でいるのも退屈であるため、リティアもついていくことにした。

 もしかしたら、国を見回っているうちに気になるところが出てきたのかもしれない。同じようなことを聞いたときは何もないと言っていたが、やはりあったのだ。


 それにしても、とリティアはライトのことを考える。

 昨日ここに来て、マーガレットとリシャンの家に入ってきたとき、ライトはマーガレットに惚れたという。それは理解できないことではない。何度見てもマーガレットは可愛い。年下で婚約者がいるが、誰もがかわいいというほど。


 リティアが考えているのはそこではない。

 普通好きな人が出来ると、人は自然とその人のことを考えてしまうものだ。そして、出来るだけ一緒にいたいと。

 それなのに、ライトからはそんな様子が微塵も感じられないのは何故だろう。

 ライトだからこそ感じられないのが不思議なのである。

 今まで以上に本気で好きになっているのなら、そのようなことになるのは可笑しいとは言えない。実際にそうではないかとおもっている。

 それでもだ。もう少し話したり、見送りをしたり、出来ることはたくさんあるはずだ。ライトが緊張しているとは考え難いが、そう思うしかないのだろうか。



 ◆◆◆



 夕食が完成し、リティアはライトを呼びに二階へ上がる。大声で呼んだのだが、降りてくる気配も返事をする気配もなかった。

 仕方なくリティアは部屋まで呼びに行くのだ。


「ライト? 寝てるのか?」


 ライトはリュックサックから紙を取りだし、机の上で何かを書いていた。定規とペンを持って、リティアに目もくれず書き続ける。

 リティアは覗き込む。

 書いていたのは、どこかの地図のようだ。

 どこかで見覚えがある。

 近くに海があり、森に囲まれている。畑が多く、砂浜の近くには高台がある。

 間違いなくサイハテの国のものだ。


「それ……サイハテの国のか?」

「ああ」


 ライトは動かしている手を止めた。まだ書かれていないところは昨日回り損ねたのか、分かっていないのだろう。腕を組んで唸っている。


「何でそんなものを書いているんだ?」

「実は、サイハテの国で気になった場所があるんだ」

「うん」

「この、書かれていないところ何だけどな」


 それは、北西の辺りだ。市場の西側に家が数件並んだ、その先。


「この場所だけ、木に囲まれていたんだけど、先に上へ上がる階段があったんだ。リシャンは何も言わなかったから案内してもらえなかったけど、何となく何かがある気がするんだ」


 リティアはふーん、と言うだけで、あまり興味はなさそうだ。


「もしかしたら、この先に秘密があるのかもしれない。そう思わないか?」

「まあ……そうかもしれないな。リシャンが案内しているなら何か言うと思うし、そう言われれば確かに怪しいかも」

「だろ? 今夜、ここへ行くからな」


 ライトが行きたがっていたのはここか。

 そう確認できると、リティアは立ち上がった。


「さてと。ほら、夕食冷めるから早く食べようぜ」

「ああ」


 ライトも立ち上がり、階段を降りる。

 野菜炒めの芳ばしい匂いが鼻に入ってくる。


(我ながら、食欲をそそるいい匂いだ)

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