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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
30/93

祠4-1

 家を出たライトとリシャンは、国を軽く歩き回ることにした。物覚えの早いライトなら、国の全体を覚えるのは簡単だろう。ライトもそれを分かっているのか、リシャンにそう提案した。


 サイハテの国は国と言うには小さく、だが近くに合併出来るような国も見当たらない。そのため、小さいながらも国として成り立たせている。

 国と言うより島に近く、辺りは海に囲まれて交通手段は船のみ。その船もサイハテの国に向かうものはあっても、サイハテの国から出るものはない。


「ミマーシ王国に比べると、やっぱり静かだよな。ミマーシ王国はいっつも人が歩いているし、物音とかずっと聞こえるし。それに比べてここは、自然の音しかしないよ」

「……うん」


 先ほどからライトが話しかけるが、リシャンはそれしか答えない。家にいたときの様子を見て、話してくれると思ったのだが、それは違ったようだ。

 ライトは他になにか言うことはないか考えるが、もうほとんど言い尽くしてしまった。リシャンの方から言ってくれれば助かるのだが、リシャンにその気配はない。


 二人に会話はない。

 絶えずらいところだが、ライトは黙って堪える。


 それにしても煉瓦の家は見当たらず、全てが木造だ。ここの人がミマーシ王国に来れば、鮮やかな色並みに心が打たれることだろう。


 一周回り終えたようで、マーガレットの家が見えてきた。意外にも早く回れた。

 このまま帰ってもまだ昼になっていないため、することがない。リシャンだけ帰ってもライトはこのまま外を歩いていてもよいだろう。


 家の少し前に来たとき、前を歩いていたリシャンが足を止めた。それにつられて、ライトは急停止をする。


「リシャン、どうしたんだ?」


 顔を覗き込むようにして見るが、リシャンは顔を逸らす。しかし、それは逸らしたのではなく、ある方向を見たのであった。

 それに気づけなかったライトは、眉間に皺を寄せた。

 しばらくして気づいたライトは、リシャンが見ている方に顔を向ける。

 その方向に、特にこれと言った建物はなかった。あるとしたら長老の家か、来るときに見えた高台である。


「あそこへ行こう」


 そう言うと、リシャンはライトを置いて歩いていってしまった。あそこだけではどこなのか分からないライトだが、とりあえずリシャンについていく。

 歩いている方向からして、予想通りロジの家か高台に向かっていると分かる。もしかすれば、その間にあるという祠に向かっているのかもしれない。

 ライトはリシャンの行動に、自分勝手と言うべきなのか、決めたことを突き通すと言うべきなのか、少し戸惑いを感じながら歩いていく。


 砂浜に続く階段辺りを過ぎてから、どうやら高台に向かっていることが分かってきた。向かっている方向がロジの家とは微妙に違うのだ。祠もロジの家に隠れた位置にあるようなので、そこにも向かっていないと分かれば、あとの選択肢は高台しか残っていない。


 高台の高さはロジの家の二倍ほどあり、目の前に視界を遮るものがないため、海の景色がよく見えることだろう。だが、ここからでは高台の頂上は見えない。何故なら、木が生い茂っているからである。

 高台の左側には森が飛び出るほど膨らみ、右側の地面からは太い木や細い木が生えている。

 高台は横幅が広いためそれくらいでは狭くはならないものの、解放感があるはずの高台にしては妙な圧迫感がある。


 坂はとても急である。

 坂の麓から頂上までの距離がとても近い。そのため、急にしないと高台が高くならないのである。年寄りならばこの坂を上るのはきついだろう。

 国の子供たちは、よくここで誰が早く上がれるかの競争をしている。

 地面はここから草が生えており、それが一応足場として作られたコンクリートの隙間から生えてきている。


 ライトの予想は当たり、リシャンは完全に高台の方へ歩いていく。海の方を見ると、太陽はもうすぐ真上に上がろうとしていた。

 一日が少し短いこの世界にとって、時間は貴重である。


 地面がコンクリートから草地に変わる。コンクリートと言っても、それ以外は地面が剥き出しの状態で、人々がコンクリートの上を歩くことはほとんどない。

 リシャンはやはり慣れているのか、先ほどと変わらない速さで上がっていく。

 それに比べてライトは、急な坂に足がすぐに小さな悲鳴を上げる。足取りがゆっくりになっていき、リシャンとの距離があいていく。

 急だが距離は短い。だが、普段からあまり運動をしていないライトにとって、突然のこの坂はきつい。


 リシャンは先に頂上に着く。それを見て、ライトはもうひと踏ん張りと足を進ませる。汗は滲み出ていないものの、体は疲れを感じているのが分かる。

 頂上についたライトは、その景色を見る。

 確かに周りの木があるため、圧迫感がある。しかし、目の前の広がった景色を見ると、太陽に輝きながら揺れる海がまっすぐ、綺麗に見える。上には覆い被さるものがないため、空を仰げば青空と太陽が眩しく照りつける。空と海の境界線が分からないくらい、海は輝いていた。


 どんどんと少しの疲れが取れていくのが分かる。


 風が吹けば、潮の匂いが鼻を通る。そして、辺りの木々が揺れ、耳に優しい気持ちのよい音がからだ全体を包み込む。


「夕方だと、もっと綺麗に見える」


 景色に気をとられていたライトに、顔を向けずに言った。


「今の時期の夕方の景色が一番綺麗だ。五時くらいになれば、また見に来てみればいい」


 それだけ言うと、リシャンは坂を下っていった。ライトは景色に目をやられながらも、リシャンのあとをついていった。


 見せに来たにしては少しというか時間が短いとは思うが、今日初めて会ったライトと二人きりというのが苦痛なのだと考えれば、残念だが仕方がないだろう。


 降りるときは急で、下りやすいのかと思ったがむしろ下りにくい。体重が足にかかり、体が揺れる。


 坂を下りると、二人の女がこちらに向かって歩いてきていた。正確にいえばこちらではないが、ほぼこちらといっても良いだろう。


「あれ……リティアか?」


 髪の毛を結っている女と、ウェーブしている金髪の女。結っている方がリティアだとすれば、もう一方はマーガレットだろう。


 マーガレットはこちらに気づいたようで、気づいていないであろうリティアに教える。そうすると、


「ライトー! リシャーン!」


と、言いながら大きく手を振る。


 ライトとリシャンは顔を見合わせると、二人の方へ走っていった。

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