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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
28/93

リシャンの声2-2

 階段を降りる辺りから、いい匂いが鼻を刺激した。炊きたてのご飯の匂いがする。いつも朝はパンであるため、朝からこの匂いを嗅ぐのは新鮮だ。


「うわー、いい匂いだ」


 リティアがその匂いに反応して、何度も鼻を働かせる。

 机の上には、湯気をたてているご飯と野菜盛りが四人分皿に盛られている。正方形の机に、リシャンが一人座っている。

 マーガレットがキッチンの方から皿を持って歩いてきた。


「どうぞ、座って」


 持っている皿には目玉焼きが四つ乗っていた。

 リティアとライトは、空いている席に腰を下ろす。普段二人しかいないはずの家に、リティアとライトが座れる椅子があると言うことは、この椅子は祖父母か両親のものということだろう。

 マーガレットも座ると四人で手を合わせ、祈りを捧げる。数秒の祈りが終わると、四人は箸を持って食べ始める。


「マーガレットは毎朝ご飯なんだね。うちはいつもパンだから、なんだか新鮮な感じがするよ」

「ここではパンの原料が採れないからね。毎食ご飯なの」


 確かに、この国を見る限りパンの原料である小麦が作れるような場所はなかった。しかし、米を作る場所も見当たらない。


「米はどこで作っているんだ?」

「米はね、果樹園を行った先で作っているの。果樹園は、国の南西の森の中を入ったところにあって、その先よ」

「へー。野菜も作って米も作って、さらに果物も作っているなんて、結構盛んなんだな」


 この国の半分は、畑が占めているほど野菜作りが盛んである。代々畑を受け継いでいき、少しずつ増えているのである。もともと他の国との交流がないため輸入に頼れず、自分達で何とかしなければならなかった。その考えが今も残っており、船が動くようになっても自らで食べ物を作って生活しているのである。

 そこで、ふとリティアはあることを思い出す。


「そういえばさ、祠の祭りってもう終わったのか?」


 その言葉で理解したのはマーガレットとリシャンで、ライトには分からない。


「まだ終わってないわ。二週間後よ」

「本当? 良かったー。一度行ってみたかったんだよな」

「リティアが来るのは決まって祭りが終わった後だったからね。リティアったらいつも悔しがったよね」

「そりゃあもうな。祭りは好きだからな」


 意味が分からないライトは、ただそれを聞いていた。

 悔しがっていると聞いて、リティアがその事について話していたことを思い出した。サイハテの国から帰ってくる度に祭りに間に合わなかったと言うのだ。なんの祭りかはリティアも詳しくは知らないようで、ライトもそんなに聞こうとはしなかった。


「祠の祭りって何だ?」


 ライトが問うが、二人は話に夢中になって誰も答えない。ライトは目を細めて二人を見る。


「祠は、高台と長老の家の間にある」


 聞き覚えのない声がして、ライトは振り返る。

 先程の声は、リシャンが出していたのだ。

 リシャンはライトをじっと見ている。

 やっとリシャンの声が聞けた。ハスキーだが太く、男らしい声だった。


「高台は知っているか? いや、長老の家を知っていたら分かるだろう。お前、知っているか?」

「あ、ああ」

「じゃあ大体の場所は分かるだろう。あの辺りにある。

 祠は昔からあったが、こうやって毎年祭りを開くようになったのはまだ十数年の話だ。なぜ急にこんなことをし出したのか長老に聞くと、国の活性化だそうだ。元々祭りなんてなかった、そのために作ったそうだ。そのお陰が、国は少し明るくなったと僕は思う。

 祠には水の神様がおり、水害からこの国を守っている。実際に今まで大きな水害はなかったようだ」

「へえ……」


 これがライトだったから意味を理解して話を聞けたものの、リティアだったらそれが出来ていなかっただろう。

 話し終えると、リシャンは食事を再開した。


「……お前、話せるんだな」

「話すのは苦手だ」

「人と関わるのは平気なのか?」

「……それも苦手だ」


 ライトはリシャンのことを不思議に思いながら、ご飯を頬張った。

 自分磨きをちょくちょくしているライトには分かった。リシャンは損をしている。

 まず、サイハテの国にいることが大きな損だ。ここは年寄りが多く、若い子はあまり見かけない。

 もう一つの損、それは話すことと人と関わることが苦手だということだ。

 リシャンは見た目は良い。細身で塩顔。声はハスキーだが、ギャップとしてなら利用できる。リシャンがミマーシ学園に来れば、人気者になることは間違いない。

 しかし、話すことと人と関わることが苦手となれば、それは難しいかもしれない。つい冷たい態度をとってしまい、人から嫌われてしまうかもしれない。

 どうしてリシャンがそれらが苦手なのかは知らないが、損をしていることは間違いない。


「なあ、リシャン。このあとさ、サイハテの国を案内してくれねえか?」


 リシャンは一瞬手を止めたが、何もなかったかのようにまた箸を進めた。

 やはり、今日初めて会った人と二人きりになるのは厳しいだろうか。

 ライトはリシャンと同じように野菜盛りを口に運ぶ。


「……僕は、人が苦手だと言った」


 いけないということだろうか。

 ライトは小さくため息をつくと、「そうだよな」と少し笑った。そして、ご飯を食べ進める。


「……けど、案内してやらないこともない」


 リシャンの言葉にライトは驚いたが、また笑って見せた。

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