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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
27/93

リシャンの声2-1

 マーガレットの家は国の南東にある。国の一番端で、海が一望できる。朝日が打ち付けるため、朝はきれいな日の出を見ることも可能だ。

 木造で、この国では少し珍しい二階建てだ。元々二世帯で生活していたため、その名残である。今は祖父母が亡くなり両親は出稼ぎへ行ったため、家にはマーガレットしか残っていない。


「こんな大きな家に一人で住んでるなんて贅沢だなー。うちなんて平屋に二人だからな」

「一人じゃないわ」


 マーガレットはそう言った。

 マーガレットに兄弟がいたか思い出すが、そんな話は聞いたことがない。リティアはまた自分が忘れているだけなのかと思う。


「マーガレットって兄弟いたんだ」

「いいえ、一人っ子よ」

「え?」


 話が通じていないのが分かる。


 一人で住んでいるわけではないが、兄弟とではない。祖父母と両親は現在ここにはおらず、一人で住んでいるとしか考えられないが、他に何かあるだろうか。

 ライトなら分かると思い、顔を向けるが、海の方をずっと向いていて目が合わない。ライトの前を歩いているマーガレットは何かが面白いのか、微笑みながらリティアを見ている。

 遊ばれている感覚だ。


「マーガレット、どういうこと?」

「ふふ。実はね……」


 すると、マーガレットはリティアの後ろに手を伸ばした。すると、いるとは思わなかったリシャンが出てきたのだ。


「えっ」

「私、リシャンと婚約しているの」


 マーガレットは、そう笑顔で言った。

 それを見ていたリティアとライトは、二人して驚いた。


「え、マーガレットって私の一つ下だよな?」

「一つ下なのか!」


 リティアの言葉にライトは驚く。

 ライトはてっきり、マーガレットはリティアとライトと同い年だと思っていたのだ。するとマーガレットは、学園に通っていれば中等部ということになる。そう思えば、一つしか変わらないが幼いものである。


「こ、婚約って、え? まだ子供だろ? いいのか?」

「ええ。むしろ歓迎されるわ」


 マーガレットは口元に手を当てて、面白そうにリティアを見ている。ライトはそれほどでもないのか、普通の顔をしている。


「ほら、この国って人が少ないじゃない? 子供を増やそうにも、産める人があまりいないから、私たちのような若い子供を頼るしかないのよ。だから、早めの結婚は歓迎されるの」


 それを言われ、リティアはやっと落ち着いた。いきなりのことでびっくりしたが、そういう理由があるのなら納得できる。

 そこでリティアは気づいた。さきほどライトを見たとき、海を見ているのかと思ったが、リティアの後ろで歩いていたリシャンを見ていたのだ。リティア自身も、後ろに誰もいないと思って歩いていた。まさかリシャンが歩いていたとは、思いもしなかった。


「そうなんだ。そうだよな、サイハテの国っていろいろ話題にはなっているけれど、人口は減少傾向にあるからな」

「リティア、何格好つけて『減少傾向』とかいう言葉使ってんだよ」


 リティアは、うっせーと言い返し、ライトの頭を軽く叩いた。


「まあけど、俺なら子供なんて楽勝につくってやるよ。子供の作り方ってあれだろ?」

「ライト止めろ」


 二人の様子を見ていたマーガレットが扉を明け、三人を中へと招く。


「さあ、中へどうぞ」


 三人は中へと入っていく。

 入った瞬間に、妙な解放感があった。

 玄関は広く、床には石が埋め込まれている。目の前には二階へ続く階段が玄関の上に続いて伸び、それを照らすのは二階の窓から射し込んだ光だ。左右に扉があり、それぞれに扉がある。

 木造であるにもかかわらず、木々は光を放っているように明るい。それは、リティアとライトの家とは大違いだ。

 久しぶりに来たマーガレットの家に、リティアは思わずため息が出た。


「うっわ、さすがだな。五年前と全然変わってない」

「ふむ……。ここがマーガレットとリシャンの愛の巣か」


 隣でそう言ったライトに、リティアは悪寒がしてしまった。

 いつもならそんなことを言わないライトが、いつも以上にナルシストに見えるのだ。


「ライトどうしたんだ? いつもはもっとましだし、そんな下ネタ風のことは言わないのに」

「いや、何かテンションあがってな」

「何でテンションが上がるんだよ。そんな出来事ほとんどなかっただろ?」

「いや、だってさ……」


 ライトは少し目を泳がせる。


「……マーガレットがさ、予想以上に可愛いんだよな」


 少し頬を赤く染めて言うライトを見て、リティアは固まってしまう。

 確かにマーガレットは可愛い。容姿、性格と、可愛いに必要なものは揃っている。女好きのライトなら目をつけることは間違いないだろう。

 しかし、それは矛盾を引き起こす。


「はあ?」


 リティアは眉と眉の間に皺を寄せて、ライトに顔を近づける。


「あんた、ここに来る前に言ったこと覚えてる? こんな時に恋愛なんてしてられないって、言ったよね? それなのに、何今の発言。嘘ついたのか、矛盾しているぞ!」

「いやあ……。あれは反則だよ。今まであんな可愛い子は見たことない! うん、俺の目に狂いはない」


 腕を組んで自画自賛する。

 そんなライトを見てリティアは、大きなため息をついた。

 こんな時に嘘をつくとは思えなかったため、リティアもあの言葉を信じこんでいた。リティアはマーガレットを見たことがあったし、どれほど可愛いかはよく知っていた。そのために一応ライトに言っておいたのだがまさか本当になるとは、あの時のライトの真剣な顔からは想像もできなかった。


 ライトはマーガレットの方を見ている。その顔は本当のことを言っているようで、今にも溶け出しそうに緩んでいた。


(まあ、邪魔にならなかったら良いか)


 あんな顔は今まで見たことがなく、どうやら本気であるように見えないこともない。今まで軽い恋愛しかしてこなかったライトが本気になるというのは、むしろ良いことだととれる。マーガレットには婚約者のリシャンがいるが、本気になれるだけ良いものだろう。


 マーガレットに連れられて、三人は二階へ上がった。両側に部屋があり、右側にはマーガレットとリシャンの寝室、左側には物置と空き部屋がある。上がってすぐ左側にある部屋が物置で、その奥にあるのが空き部屋だ。

 二人の借りる空き部屋は、階段を上がって一番遠い部屋になる。

 ライトが妙にマーガレットとリシャンの寝室を見ていたが、それに気づいたリティアが咄嗟に腕を掴んで連れていく。


「ここが二人の部屋よ」


 中には何も物がなく、右手前の壁に四つほど布団が積み上げられていた。


「狭くてごめんね」

「いいよいいよ。貸してくれるだけで十分ありがたいよ」


 部屋の大きさはそれなりに広い。この家の中では狭い方になるが、リティアとライトの部屋に比べれば広いものである。


「そうだ、お腹は減っていない? 私たち朝食はまだなの。よかったら一緒にどう?」

「いいのか、マーガレット」

「もちろん。食事は多い方が楽しいからね」


 二人は共に朝食をとることにした。

 マーガレットとリシャンは一階におり、部屋にはリティアとライトの二人だけになる。

 ライトはリュックを床に置き、胡座をかいて座る。

 リティアは二つある窓を開ける。潮風が入り込み、匂いが混じっている。


「……リティア、この後はどうするんだ?」


 ライトが聞く。


「長老の言うとおり、信じてもらえなかったな」

「……ああ」

「リティアってさ、この国のことどれくらい覚えているんだ?」


 話が急に変わったが、リティアは反応しない。気づいていても、言うのが面倒になるのである。


「どれくらい……。あんまり覚えてないかなあ」

「じゃあさ、朝食を終えたら二人に案内してもらわないか?」


 ライトの内容はこうだ。

 学園長室で聞いたとき、モーテルが秘密といっていたことをライトは覚えていた。もし本当に秘密があるのなら、やつらがそれを自分達のものにしようとするのは当たり前だ。そこで、何も知らないまま戦うよりも知っていた方がいいのでは、とライトは言う。もちろん、これにはライトの興味も入っているが、話には一理ある。


「そうだな……。確かに、秘密があるって話していたなら、可能性はあるな」

「だろ? それに、もしかしたらこっちが有利になるかもしれないしな」

「……そうだな。マーガレットに頼んでみよう」


 一息ついたあと、またライトが話しかける。


「ところでさ……。俺、まだリシャンの声を聞いたことないんだよな」

「ああ……確かに」


 リシャンに会ってから、一度も話していない。リティアも声まではあまり覚えていない。話した記憶もないし、まず声の記憶がない。それに、覚えていても声変わりが来て変わってしまっているだろう。


「どんな声なんだ?」

「覚えてない」

「まあ、マーガレットがいないとだめだったらしいからな。今回の婚約も、本当はそれが引き金だったり」


 その時、マーガレットが朝食の完成を呼ぶ声が聞こえた。

 二人は部屋を出た。

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