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サイハテの国  作者: ヤブ
第三章
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伝達1-2

 飛び出てきたのは、腰が曲がり顔に深く皺の刻まれた老人――長老ロジだった。木と同じような色をしている服を身に付け、杖がわりに使っている木の棒をリティアに向かって突きだしている。


「おぬしは……」

「久しぶり、長老」


 ロジは眉間に皺を寄せてリティアを見る。

 目は深く、高い鼻は少し若さを醸し出している。皺が多いものの、まだまだ元気である。

 いつまでも見つめるロジに、リティアはだんだんと笑いが込み上げてきそうになる。


「ちょ、長老……。覚えてる、よな?」


 少し見つめた後、リティアに向けていた杖もどきを下ろした。


「覚えとるわい。わしもそんなに物覚えは悪うない」


 拗ねたように顔を背ける。

 ライトがリティアの肩を叩く。


「なあ、もしかしてさっきは……」

「ああ、合言葉みたいなものだよ。長老は死んでるのかって聞かれるのが嫌なんだ。ほかにも、死にそうだなとか死ぬのかとかな。長老ってああ見えてまだ五十歳だからな」


 その言葉に、ライトは驚く。


「えっ五十歳? どう見ても七十のおじいだろ」

「だろ? おじいさんって子供達に呼ばれるのが嫌で、長老って呼ばせてるんだ。私が小さい頃からそう呼ばせてる。その時はまだ四十代だったけど、その時からあんな顔だったぞ」

「え、ちょ。そんな時から長老なのか?」

「いや、違うよ。長老になる前から長老って呼ばせてるんだ」

「じゃあ前は長老って呼ばれているやつが二人いたってことか?」


 リティアは頷く。サイハテの国のルールがいまいちライトには分からない。長老と呼ばれる者が二人もいたら、色々困ることはないのだろうか。


 その後、ロジは家の中へ入ってくるように言ったが、リティアはそれを断った。サイハテの国に着いたからには、のんびりしてられない。今すぐに作戦のことをみんなに知らせる必要がある。


「長老、ミマーシ王国がサイハテの国を攻撃するという作戦を練っているんだ」

「攻撃……? そりゃあ、何でじゃ」


 何で、と聞かれるがリティアは口ごもる。

 ミマーシ王国がサイハテの国を攻撃するのは、サイハテの国に秘密兵器があるかもしれないと王が思ったから。しかし、本当に秘密兵器があるかもわからないし、もしないのなら二人はまたミマーシ王国へ帰らなければならない。争う必要が無くなるのだから。

 そんなリティアを見て、ライトが口を開いた。


「ミマーシ王国が、サイハテの国を恐れているんだ。サイハテの国は最も歴史深いと言われているのにも関わらず、どんな歴史があるのか知られていない。そこで国は、ここの国の人たちが隠しているのではないか、そういう考えを出した。他に秘密があるのではと勘繰った彼らは、それらの調査も含めて、ここへ攻撃すると言っているんだ」


 ライトが説明をしてくれて、リティアはほっとする。調査であるかはモーテルの口から出ていないが、きっとそうなることだろう。

 ロジは見知らぬ姿に目をしかめる。知り合いかと思ったが、ライトのことは知らない。


「おぬしは誰じゃ?」

「ライト・オーガイト。リティアの弟」


 軽く自己紹介をすると、ロジは頷く。


「こやつか、リティアの弟というのは。幼い頃、よお話を聞きよったわい」

「そうなのか?」

「ああ。こんくらいの小さい獣を見ただけで逃げていきよったと、リティアが笑いながら話してくれたんを覚えとる」


 リティアは口に手をやる。

 ライトがサイハテの国に来ることはないと思っていたため、ライトのことを何でもかんでも話していたのである。その八割がライトの恥ずかしいような可愛い話。

 ライトはリティアを見る。


「お前は、何を話してんだよ」

「いやいや、ごめんて。まさかこうなるとは思わなくて。ついつい話しちゃうんだよな」


 リティアはライトの肩を一押しする。


「で?」


 ロジが二人に言う。


「それをどうしたらいいんじゃ? 伝えられても、わしらみたいなじじばばばかりの国では、どうにも出来んぞ」


 みんなに伝えれば一致団結してどうにかなるのではと思ったが、長老のロジが言うのならば、その通りかもしれない。


「みんなに聞かせるだけでもいい。何も言わないよりも、知っている方がいいだろ」

「ライトの言うとおりだ。突然来るよりも、そっちの方がいいに決まっている。お願いだ長老」


 ロジは首をかしげる。

 言わないよりも、知っていた方がいい。攻撃してきて突然死んでしまうよりも、そうだと知って覚悟を決めたい。何かやり残すことがないように、死んでも後悔はしないが死ぬ直前に悔やむことだろう。

 ロジも年であるため、年寄りの気持ちはよく分かっている。だから、それを言ってどうなるかは分かっているのだ。

 リティアとライトを見ると、力強い眼差しでロジを見ていた。初めてここへ来たライトでさえ、リティアと同じような気持ちを持っている。

 ロジはため息をついた。


「……しょうがないのお。良かろう、今からみなを広場に集まるよう無線を入れる。おぬしらは先に広場へ行っておるがよい」


 仕方なくロジは折れ、二人は喜ぶ。


「ありがとう長老!」

「じゃが」


 ロジの言葉に、二人は固まる。


「それで何か変わるとは限らんからな。そこらへんはちゃんと理解しておいてもらいたいのお」

「ああ、大丈夫だ」


 リティアは一歩踏み出す。


「伝えるだけでも、何か変わるはずだ。伝えて後悔することはないからな」


 リティアはライトの腕を掴んだ。


「ライト、行くぞ!」

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