すべての作戦6-1
辺りを見回す。
どこを見ていても緑が見える。むしろ、緑しか見えない。
太陽の光は優しくベールのように舞い降り、モーテルにとって、それは不思議な感覚でしかなかった。
「この国に、こんな所があったのか……」
王の命令により、自然に作られた緑はほとんど壊されている。街には人間が見映えのためにと植えた木や花しかないため、このような美しい緑を見たモーテルはいつもの心を溶かされているようだ。
ここは、ミマーシ学園の一角。格技場のすぐそばにありながら、とても静かだ。自然の音で溢れ、耳が癒される。
モーテルはこの学園に、ある交渉をしに来ていた。
『リティア・オーガイトを、特別部隊に入れたい』
そんな王の言葉から、この任務は始まった。
モーテルの言葉があの作戦を作るきっかけになるとは、本人も想像していなかった。しかし、今から考えればあの王のことだからこうなることは安易に想像が出来たかもしれない。あのときは、これは発見だ、と自分がそれを思い付くことができて嬉しくてしかたがなかったのだ。
だが、王の言ったことは絶対だ。例えそれが簡単な任務であっても、命に関わる危険な任務であっても、逆らってはならない。逆らえばどうなるのかは、モーテルが一番見てきた。
素直に学園に交渉してみたものの、やはり簡単にははいと言わなかった。それくらいはモーテルの想定内である。盗み聞きされると分かっていて話を続け、リティアに話す手間を省かせた。全ては計算通りだ。
リティアが逃走するのも、一応考えていた。そこにリティアの義弟がいるのにはあとから気づいたが、何の問題もない。むしろ、片方を捕らえれば、それを囮として使える。ライトがいたころは好都合とも言えた。
だが、リティアを捕らえることが出来なかったことは、王が何というか分からない。怒鳴って「もう一度行ってこい!」と言うのがモーテルには目に見えている。
だが、何も得られなかったわけではない。モーテルが前々から出していた国の探偵がリティアについてのある情報を持ってきていたのだ。また、その情報をもとに、リティアが行くであろう場所は推測できる。
これらを言えば、王はリティアの確保を一時中断するだろう。
モーテルには、そこまで計算した。
「……よし」
緑で気を休めた後、モーテルは王のいる国の中央の建物に向かうことにした。