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サイハテの国  作者: ヤブ
第一章
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決断5-3

 リティアはまっすぐにライトの目を見つめる。

 そのぶれない瞳は、リティア本人の意思の強さを表していた。

 少し赤みがかった紫色をしたその瞳。ライトは以前に一度だけ見たリティアの姿を思い出す。幼かったライトにとってそれは心に深く刻まれる程の恐怖、それでいて勇者のように見えた。

 いくら否定してもリティアは引き下がらない。そのことはよく分かっているのだが、否定せずにはいられない。

 リティアの気持ちは本物だ。それは、瞳を見た瞬間から分かっている。


「……っ」


 分かった、と言いかけたが、ライトは口を閉ざした。

 もしかしたら、この選択は生死をわけることになるのかもしれない。サイハテの国に行けば、国を裏切ったという罪に問われ、最悪の場合は死刑も考えられる。もしくは戦死と国民に伝え、故意に殺すかもしれない。特別部隊に入っても、必ず生きてかえって来れるとは限らない。だが、こちらの方が生存確率は高い。

 部隊には入らない方がいいと言っていたが、入った方がリティアの生存のために良いのかもしれない。

 しかし、止めることができない。止めても、変わらないから。それに、もしそれで最後になるというのなら、むしろ行かせてあげるのが良いのだろう。


「……どうしても、行くのか?」

「ああ。例えお前が否定しようとも、一人でも、私は行く」

「……そうか」


 もう、答えは決まった。

 止めることができないのなら、好きにさせればいい。

 自分で決めたことなら、最後までやり遂げるんだ。

 ライトは顔を上げる。リティアの顔は、ライトの決断を待つように、しかしどうしても認めてほしいと言っているようにみえた。

 ゆっくりと口を開ける。


「じゃあ、行けよ。自分がしたいようにすればいい」


 そう言うと、リティアは強張った顔を緩め、微笑みながら言う。


「ありがとう。ライトなら分かってくれると思っていた」


 ライトは自然とため息が出た。

 これしか、選択肢はなかった。それなのに、ライトはあるはずのない選択肢を探していた。

 ライトはふと思い出したように口を開ける。


「なあリティア、その代わ……」

「ライトも、行くよな?」


 リティアの顔を見ると、彼女は笑っていた。

 ライトは苛つくことを忘れ、リティアの言葉に少し微笑んだ。


「ああ、行くよ」


 二人は手を出すと、パチンと音を響かせる。そして、互いに相手の手を握った。

 すると、二人は先程までの空気を一変させ、何もなかったかのように声を出した。


「さあて。なあライト、これからどうする?」

「お前、サイハテの国がどこにあるのか分かってるんだろうな」

「そこは大丈夫だ。向こうの方に川があるだろう? その近くに家があるんだ。昔はそこの人にサイハテの国まで連れていってもらってたんだ。その人の所へ行けば、きっと送ってくれるはずだ」

「なるほど。川を出て、海を渡るって訳か。どれくらいの時間がかかるんだ?」

「さあな、分からん。何せ、寝て起きたらサイハテの国に着いていたからな。どうやら夜も漕ぎ続けているようだぜ」

「なるほどな。もしそうだとすれば、お前は寝過ぎだな」


 ライトがそう言うと、リティアは一呼吸あけてから笑った。


「まあ、そうなるな。けど子供だったからいいじゃないか。寝る子は育つっていう、どこかの世界の言葉があるんだから」

「はいはい。で? 向こうに着いたらどうするんだ? おばあちゃんがいない今、頼れる人がいないと何も出来ないだろ」

「そこも大丈夫。よく遊んでいた子がいるから」

「そうか、なら良いんだけど」

「それがさ、またその子が可愛いんだよ。ライト、惚れるなよ?」

「こんな一大事の時に恋愛なんかしてられっか」

「まあそうか。こちらとしてもそんなお遊び、されたら困るけどな」


 二人はまるで台詞でもあるかのように、止まらずに話し続けている。

 そのお陰か、話は数分で終わった。


「さてリティア、早めに動かないと兵士が追ってくるかもしれないぞ」

「そうだな」


 リティアは動きやすいように腰から鞘をはずし、左手で持った。その姿を、ライトはじっと見る。

 それに気づいたリティアが、声をかける。


「何だ?」


 ライトは少し黙ってから言う。


「……サイハテって、あると思うか?」


 突然の質問に、リティアは少し戸惑う。そして、少し顔を緩めた。


「さあな」


 そう言うと、リティアは背を向けた。


「早く行くぞ!」


 それに続いて、ライトも螺旋階段を下りていった。

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