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サイハテの国  作者: ヤブ
第一章
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決断5-2

「おいっ、どこへ行った?」

「この森の中に入っていくのは確実なんだが……」

「とりあえず、こっちを探してみよう」


 一人の兵士がそういうと、それに続いてぞろぞろと兵士がついていく。

 それを確認したライトは近くの木から姿を現し、時計塔の方へと走っていった。兵士達が時計塔と反対の方へ走っていったのは好都合だった。

 時計塔の前には誰もいなかった。

 ライトはリティアから受け取った鍵をポケットから取り出し、鍵穴に差し込んで回した。

 鍵が開いていないということは、リティアは中にいないということ。もし中にいても、ライトが鍵を持っているというのにどうやって鍵を開けたのだという謎が出てくる。

 時計塔の鍵はひとつしかなく、オーガイト姉弟しか入ることはできない。ちなみにどうやって手に入れたのかというと、ライトが先生から譲り受けたのだ。もう使うことのない時計塔の鍵は少し錆び付いており、時計塔もろもろ取り壊そうと考えていたとき、ライトは学園にいるときも一人の時間が欲しかったため、鍵を譲り受けたのだ。それから、ライトは時々ここに来るようになり、リティアも一緒にいることが多くなった。

 ライトは時計塔の扉を開け、急いで走って螺旋階段を上がる。

 目の良いライトなら、上から見ればリティアの姿が見つけられるかもしれない。ライトも恐らく、そう考えていることだろう。

 ドアを開けるが、そこには誰もいなかった。ただ開いている窓から人の声がするだけであった。


「ここにはいないのか……」


 鍵が掛かっていた時点でいないということは分かっていたが、もしかしたら、という気持ちがあったのだ。

 窓の縁に手をかけ、外を見る。少し風が吹いている。短い髪の毛がライトの頬を行き来する。

 人混みの中を見るが、リティアらしい姿は見当たらない。あれから結構時間が経っている。既に人混みから抜け出したリティアは、どこかへ行っているかもしれない。


「なら……一体どこに……?」

「やっとここに来たのか」


 その声に、ライトはすぐに振り返った。


「リティア!」

「ったく、来るのがちょっと遅いよ」


 リティアは開いた扉の枠にもたれ、腕を組んでいる。


「お前、どこにいたんだ?」

「私? 私はあのあとすぐにここに来たよ。ライトが来ると思って塔の後ろで待っていたんだ。そうそう、こんな風に私を探しに来るだろうなーって」


 自分の行動がよまれていたことに気づき、ライトは少し敗北感を味わう。

 リティアはライトに向かってドヤ顔をする。


「ライトは何してたの? 予想より遅かったんだけど」

「ずっとお前を探してたよ」

「それで?」

「それで……って?」

「普通、すぐここに来ると思ったんだけど、それは私の思い違いですかねえ?」

「思い違いですね」


 さっきも似たような話を聞いた。二度も言われると、自分が馬鹿にされているようで余計苛つく。

 そして、リティアの顔でも苛つく。自分が一枚上手だと言いたげな顔。頭が良いだけじゃ駄目なんだと言われているようだ。

 これ以上何かを言われるのが嫌だから、ライトはすぐに話を変える。


「リティア、これからどうするんだ? このままじゃ、部隊に入れられるのも時間の問題だろ。てっとり早く何とかしないと」

「そうだよな。断っても無理矢理入れられそうだし。あんなところに入れられるならここで授業受けている方がマシだな」


 ライトは何か良い案がないか考えるが、特にこれといったものは見つからない。

 もしリティアが特別部隊に入れられたら、ライトには不都合なことがある。それは、一人暮らしになるということだ。一人暮らし自体は嫌ではないのだが、そうなればライトは身の回りのことを自分一人でしなくてはならなくなる特別部隊に入れば、朝から晩まで訓練をしなくてはならなくなるだろう。疲れはてて帰ってくるであろうリティアは、自分の仕事などせずに寝てしまうことは安易に想像できる。

 リティアと家事を分担していたが、その全てをしなくてはならなくとなると大変になるだろう。毎日予習復習をかかさないライトにとっては、時間を食われることは間違いない。

 そんな気持ちの中にも、リティアがいなくなって寂しくなるという気持ちもあるのだろうか。


「リティア、もう大丈夫なのか?」


 ライトが目を逸らしながら言う。


「何がだ?」

「その……ほら、さっきちょっとやばかっただろ? あんな風になるのは珍しいからな」

「ああ、それか。大丈夫だ、もう大丈夫。全然平気だ」


 リティアが見せた笑顔に、ライトは安心する。


「なんだよライト。まさか、私の心配をしてたのか?」


 またリティアがライトに向かってにやつき、しまった、と思う。


「なっ、別にそんなんじゃねえし!」

「まあまあ、そんなに焦んなって」


 ライトの調子が狂わせるのが楽しくなったリティアは、相変わらず口角を上げて笑っている。

 リティアは組んでいた腕を崩すと、ライトに言った。


「なあライト。私さ、サイハテの国に行こうと思うんだ」


 突然の言葉に、ライトは声がでなかった。

 今まで行こうとしなかったサイハテの国。突然そんなことを言い出すのは、やはりあの作戦のことを聞いたからだろうか。


「……行ってどうするんだよ」

「サイハテの国に伝える。それで、出来るだけ戦える状況にする」

「でも、それでサイハテの国が救われるわけじゃあないだろ」


 ライトはリティアの言葉を遮るようにして言った。そして、睨むようにリティアを見る。

 その言葉に、リティアは声を出さなかった。


「戦える状況にしても、サイハテが負ける確率の方が高いんじゃないか? 小さい国なんだろ、そんな国が完璧に装備してくる特別部隊に勝てると思ってるのか?」

「それは……」

「それに、向こうの人にだって迷惑になるかもしれない。攻撃してくると知れば、素直に何かを吐くかもしれない。立ち向かおうとするリティアの優しさが、迷惑になるんだ」


 ライトはリティアをじっと見つめる。

 リティアの気持ちは、ライトにも分かる。幼い頃、よく遊びに行っていたところ。思い出が詰まっていて、忘れようと思っても忘れられないところ。そんなところだからこそ、力になりたいと思うのは当然のことである。

 しかし、損害は免れない。失敗は許されないと言うモーテル。それだからこそ、特別部隊は普通の部隊よりも強いはずだ。いくらサイハテの国が防御を固めて、攻撃力を向上させようとも、今からでは到底間に合わないだろう。


「……それでも」


 リティアは続ける。


「それでも、私は行きたいんだ。サイハテの国に」

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