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雪の雫の花束を  作者: 鏡田りりか
第一章
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第4話 ~好敵手~

 始まりは静かなものだった。

 そう、魔力探知能力の低いものであれば、戦いが始まったと気付かぬほどだったかもしれない。

 ただし、分かるものからすれば。今のロズのように、驚いて目を見開くことだろう。


 只今、牽制中。

 互いに魔力を最大まで高め合い、いつでも魔法が撃てる、という状態へ。

 しかし、動き出す事はない。ただ、魔力による力比べが行われているだけだ。

 ヴァレンティーヌさんの魔力は濃紫色。いかにも黒魔族らしい。私たちと違って、冷たさを感じさせる暗い魔力。


 大体力は分かった。多分勝てないけれど、本気で相手しよう。

 私の感情の変化を感じ取ってか、彼女は口を開く。


「堕天使達よ、私の願いを聞き届けよ」


 唐突に始まった詠唱に、注目する。

 詠唱に使われる言語はそこそこ覚えている。こうやって聞いていれば、意味が分かる程度には。

 だから。それによって放たれる魔法を予想するくらいは出来るだろう。


「全てのものを黒く染め上げ、私のものとなるのだ」


 闇。黒。染める。私のもの。

 となると、やはり予想通り闇系の魔法、私のもの、というからには、きっと、自分だけに有利な場所を作り上げるのだろう。


「……水の神々よ、私の祈りを聞いてください」


 手っ取り早いのは、同じ系統の魔法を継ぐ後に撃って打ち消す事。

 もしくは、詠唱の邪魔をする事。


「雲の……、いいや、面倒。霧雨」


 丁度、ヴァレンティーヌさんが魔法を撃ち終わった直後に放つは霧雨。

 これは、全体的に雨を降らせるから、周りの魔法を打ち消す効果が高い。

 けど、そうもいかないらしい。


「消えてない。周りに漂う魔力は何?」

「教えるわけないじゃない。それより、視界が悪いわね。雨は嫌いよ」

「私は好き」


 ちらりと後ろに視線を向ける。様子を見ているのか、それとも操る事までは出来ないのか。濃紫色の魔力たちは、向かってくることなく、辺りを漂っている。

 視線を前に戻すと、ヴァレンティーヌはいなかった。これには本当に驚く。目を離したのは、ほんの一瞬のはずだ。


「え……」

「戦闘中に敵から目を離すなんて、致命的だわ」

「あっ……?!」


 しびれるような激しい痛み。電撃系の何か。だが、詠唱は聞いていないはず……。何が起こった?

 倒れそうになるのを堪え、後ろを振り向くと、此方に杖を向けたヴァレンティーヌさんが小さく笑みを浮かべて立っていた。

 そして、前を見ると、そこにはまさかの光景があって。


(嘘だっ?!)


 いつの間にか前に立っていたヴァレンティーヌさんに杖で殴られた。杖の当たった場所が焼けるように痛い。何かの魔法が掛けられていたようだ。

 しかし、一体どうやって動いている? このままでは、一方的に虐げられて終わってしまう。何とかしなくては。


(時間停止? いや、それなら空間に歪みが出来る。それはなかった。なら、きっと違う)


 時間を止めて、その状態で動くと。周りが止まっているのだ、動かない筈の空気が動き、歪みが生まれる。しかし、それは感じられなかった。

 となると、彼女の能力は瞬間移動?


(いや、本当の事が分からないなら、決めつけるのは危ないな)


 そんな事を考えている間にもう二発も撃ちこまれた。

 一応は避けようと試みているのだが、動きが速すぎる。気付けばもう攻撃されているのだ、避けようもない。


(とにかく、攻撃しよう、まずは其処からだ)


 手短に詠唱をし、ヴァレンティーヌさんに向かって大量の水を出現させる。

 しかし、それはいとも簡単に打ち消されてしまう。

 水魔法は止めるか。それよりも、もっと簡単に、一発で仕留められる魔法の方が効果がありそうだ。

 しかし、真っ直ぐに撃っても当たるはずはない。何か、絶対に当たる状況にせねば。

 なら、あれが良い。私はそっと杖を握り締める。


「っ?!」


 ヴァレンティーヌさんの動きが止まる。後ろから、光る何かが伸びて来て、彼女の体を押さえつけたからだ。

 私の好きな、拘束の魔法。魔力を奪う効果もある。

 これで、当てられる。ロズに撃った時よりもずっと簡単に詠唱をし、雷を落とす。


「え……」


 そんなはずはない。あの拘束は、絶対に抜け出せない。なのに、どうして。


「いっ……! 痛……」

「残念、甘いわ。あの程度の魔法で私を押さえられると思わない事」


 一度成功すれば、魔力を奪う為、抜け出す事は出来ない。

 そのはずの、完璧な拘束魔法。だというのに。どうして、平然と立っている?

 一体、どうやったのか。単純に力で破ったか、もしくは。


(許容量を超えた。ヴァレンティーヌさんの魔力が多すぎたのか)


 勢い良く地面にぶつかった。そのままごろごろと転がって行き、木にぶつかってようやくその勢いが無くなる。

 ぬかるんだ地面を転がれば、泥だらけなんてレベルじゃない。まあ、私が悪いな。

 追撃はあるだろうか? 立ち上がろうとするも、体中が痛くて出来ない。


 あぁ、負けるのなんて、いつぶりだろう。

 こんなに強い人がいたなんて。


「フランシス。どうする?」

「残念ながら、もう、立てないみたいです」

「そう……」


 ヴァレンティーヌさんは目を瞑り、雨を晴らすと、そっと微笑んで私に手を差しだした。

 その白い手を取ると、強く引いて起こしてくれた。

 ヴァレンティーヌさんは濡れて張り付いた私の前髪をかき分けつつ、声をかけてくる。


「大丈夫? 少しやり過ぎたかしら?」

「いえ。でも、まずは泥を何とかしないと」

「それなら問題はないわ」


 ヴァレンティーヌさんは手早く水魔法で私の泥を流し、何かの魔法で乾かしてくれた。あまりに一瞬で驚いた。やはり、こんな人に勝つなんて無謀だったか。

 とりあえず、これで充分。少しふらつくが、まあ、大丈夫そうだ。向こうからロズが走ってくるのを見て、そっと微笑む。


「大丈夫だよ、そんな顔しないで?」

「で、でも……。顔色、悪いよ? 無理しちゃ駄目……」

「フランシスちゃん、少し家で休んで行くと良いわ。ローズマリーちゃんも一緒にね」

「……。分かりました」






 ソファに座り、温かい紅茶を啜る。小さく息を吐くと、ロズが私の髪に触れる。

 目だけ動かしてロズの方を向くと、何となく、泣きそうな顔をしているように見えた。


「ロズ?」

「……。フラン、お願いだからさ、もっと自分の事、大切にしてよ」

「え? ロズ、どうしたの?」

「フラン、居なくなっちゃ嫌なんだよぉ……。だからぁ……」


 ロズは私の肩に額を当てる。私の体に、そっと手を回す。

 居なくなっちゃ嫌、か。それは、どういう意味なんだろう。

 まあ、あまり期待しないに越したことはないか。


「ふぇ、お、お取り込み中でした?」

「え、えっと」

「ベアトリーチェちゃん?」

「は、はい。え、と、お嬢様から、昼食は要るかと……」


 それでもいいのだが、問題はクレアちゃんだ。帰った方が良いだろう。

 そう言うと、ベアトリーチェちゃんはこう提案してきた。


「そ、その方も、連れて来ていただいても、構いません、よ」

「いいの?」

「は、はい。一人増えても、大して、変わらない、です」

「じゃあ、私が連れてくるよ。フランはまだ休んでて」

「あ、うん、ごめんね」


 ロズはニコッと笑みを浮かべ、ベアトリーチェちゃんと一緒に部屋を出て行った。

 微かなロズの香りに、溜息を吐く。


(ロズ、私の事、どう思ってるのかな)










 フランの家の扉をノックする。これだけだと怖がらせてしまうだろうから、少し大きめの声でクレアちゃんを呼ぶ。


「え、あ、ローズマリーさんですか?」

「うん。私とフランがさ、昼食頂くことになって。クレアちゃんも一緒にどうって言われたんだ」

「わざわざ来てくれたんですか? すみません」


 用心深く扉を開けるクレアちゃん。間違いなく私だと確認すると、ひょこっと飛び出し、鍵をかける。

 二人で通りを歩く。私の隣は、フランのものだから。本当は少し、嫌だけど。

 でも、フランの隣を取られる方が、もっと嫌だもん。私の隣の方がまだまし。


「ローズマリーさんは……。フランシスさんの事、どう思ってるんですか?」

 あまりに唐突だったから、本当に驚く。さっきまで、二人は無言だったのだ。

「えっ?! え、し、親友だよ?」

「そう、ですか」


 そう言うと、クレアちゃんは満面の笑みを私に向ける。

 可愛らしいはずなのに、何処か冷たさを感じさせる。

 思わず足を止めると、クレアちゃんは一歩前で立ち止まり、こちらを振り向かずに言う。


「恋愛感情はないのですね? 安心しました。なら、盗られても文句は言いませんね?」

「え…………」

 振り返ったクレアちゃんは、にやりと不気味な笑みを浮かべていて。

「私は、フランシスさんの事、結構好きですよ?」











「フランシスちゃん。ローズマリーちゃんが戻ってきたわ。昼食にしましょう?」

「あ、はい」


 ヴァレンティーヌさんに連れられ、ダイニングに行く。

 其処には確かにロズとクレアちゃんが居たけれど、ロズ、なんか元気が無い様な……。


「今、他の子たちを呼んでいるから。ちょっと待っていてね?」

「あ、はい」


 やってきたのは、コンツェッタさんとベアトリーチェちゃん、それからルクレツィアさん。

「よし、全員揃ったわね」

 ヴァレンティーヌさんはそう言うと、みんなは適当に座り、声をそろえて食事の挨拶をする。

 私は隣に座るヴァレンティーヌさんに、そっと声をかける。


「メイドも一緒なんですね」

「ええ。彼女達は、家族の様なものだから」


 そう言って、愛おしそうに『家族』を見つめるヴァレンティーヌさん。

 コンツェッタさんの食べ方に文句をつけるルクレツィアさん。それを見て、困ったようにあたふたするベアトリーチェちゃん。

 彼女達は、ヴァレンティーヌさんにとって、とても大切な存在なのだろう。


「それにしても、貴女、今日は良く喋るわね」

「え?」

「始めてうちに来た時、ほとんど口を開かなかったから。本当に何も言わないものだと」

「……。少し、親しくなれた、そんな気がしたんです」

「そう」


 ヴァレンティーヌさんは私の瞳を覗き込む。そうして、ロズの瞳を見ると、小さく息を吐く。

 私は、人との関わりを避けていた。また、大切なものを失う悲しみを味わいたくはない。それならいっそ、大切なものを作らなければいい……。

 でも、ロズと出会って、優しさに触れて、毎日が楽しくて。少しは、考え方も変わった。

 だからと言って、急に人とのコミュニケーションが上達する訳じゃない。が、私も努力している。少し親しくなった人となら話せるようになって来てるようだ。


「貴女、結構可愛いのだから、自信持っていればいいのに」

「え? 可愛いのは、ロズですよ。私は、別に……」

「そうでもないと思うけれど。……まあ良いわ」


 薄紫色の髪がさらりと揺れる。長いのに、随分と綺麗なものだ。

 ヴァレンティーヌさんは、とても美しい。だからこそ、信じられない。私が可愛いなど、あり得ない。


「それより、体は大丈夫? つい、やり過ぎてしまったわね」

「いえ。慣れてますから。ロズもよく、夢中になり過ぎて、本気で殺しにかかってくることあるんです」

「それは怖い。あの子も結構強いでしょう?」

「はい。本当に死ぬかと思いました」


 そう言って、ロズの方を見る。

 ルクレツィアさんやコンツェッタさんと楽しげに話す様子を見ると、本当に、無邪気で可愛らしい女の子だ。

 あれが、冷たい瞳で襲いかかってくると……。正直、別人にしか見えない。


「なんだか……。此方に越して来て、良かったみたい。みんな、楽しそうだし」

「私も、みなさんと会えてよかったですよ」

「あら、そう言ってくれるの? 嬉しいわね。……正直、これは賭けだったのよ」

「え?」


 賭け。その言葉が気になって訊き返すと、ヴァレンティーヌさんは白いその手を握り締める。

 思い出すように目を瞑り、子供に童話を聞かせるような声音で言う。


「黒魔族が白魔族の国に引っ越すなんて、滅多にないから。何が起こるか、想像すらつかなかった」

「ああ……」

「でも。貴女達と出会えただけでも、価値があったと思えるわ」


 そう言って、私の髪にそっと触れる。あまりにも丁寧過ぎるその動きに、思わず笑みが零れてしまう。

 そんなに簡単に壊れてしまう訳ではないのに。其処までしなくても。

 ……いや。


(過去に、何かあったのかな……)


 何かを、壊してしまった事。もしくは、目の前で壊された事。

 特に、大切な物だったら……。今度こそ、壊さないように。慎重になるのかもしれない。


(私と、一緒、だったりして)


 ふと見れば、ベアトリーチェちゃんとクレアちゃんは随分仲良くなったようだ。ロズも、ルクレツィアさんとコンツェッタさんと楽しそうにしている。

 みんな、変わっていくのだから。私だって、変わってやる。


「ヴァレンティーヌさん。また、お話、しましょう?」

「えぇ、もちろんよ。また、遊びに来て頂戴?」






 夕暮れの道を歩く。少し、長居してしまったようだ。

 それほどまでに楽しかったのだ。仲良くなれたし、私は満足。


「楽しかったね」

「う、うん……」

「? ロズ、どうかしたの?」


 ロズは、私とクレアちゃんを交互に見つめ、溜息を吐く。

 何があったのだろう? 私が何かしただろうか? それとも、クレアちゃん?

 いつも元気なロズがこんなことになるのは珍しい。よっぽどのことなのだろう。


「ロズ?」

「ん、何でもないよ。今日はルクレツィアさんとコンツェッタさんと話せて楽しかった」

「私も楽しかった」

「でも、一つ気がかりな事があるんだよね」

「え?」


 私が足を止めると、ロズは少しだけ不安そうに言う。


「私の地図に、生命反応が、あったんだ。場所は……、多分、地下」






「ただいま」


 誰にでもなくそう言うと、私はカーテンを閉め、ランプに火をつける。

 あの後、暫くロズと喋っていたから。家に着いた時には、もう真っ暗になっている。

 それにしても……。


 生命反応。という事は、あの城の中に、誰かが監禁されているのだろうか?

 そんなはずはないと思うのだが……。あのヴァレンティーヌさんが、そんな事をするはずがない。

 では、ロズが間違っているのか? そんなはずはない。ロズの地図は絶対だ。今まで、彼女と一緒に居て迷った事は一度も無いのだから。


 ロズは、頭の中に地図を描くという能力を持っている。

 知っている場所に限らず、知らない場所であっても、勝手に頭に浮かんで来るらしい。しかも、生命反応まで表示される。

 今まで、ロズの地図が間違っていた事は一度も無い。間違いはないのだ。


「フランシスさん?」

「大丈夫。ただ、少し気になる」

「館の中の生命反応、ですか?」

「うん。ロズの能力は絶対だから。絶対に、何かが居る」


 それが、人なのか、魔物なのかが分からないのだが。

 少なくとも、生きているものであるというのは間違いない。そして、大方、人だろう。

 一体、誰が、何のために、地下室に居る、もしくは閉じ込められているのだろう。

 私にさえも、教えてくれないことなのだろうか。


「……クレアちゃん」

「はい、何でしょう」

「明日、もし、ロズが来たら。知らないって言って」

「え…………」


 私は階段を駆け上がり、自分の部屋の扉を開ける。クローゼットを開け放ち、中から必要なものを取り出す。

 ロズと出会う前に使っていた魔服は……、魔力を流せばサイズが変わるし、着れるだろう。

 顔を隠せるものが欲しい。なら、上からフード付きの長いローブを羽織るか。

 ヴァレンティーヌさんと戦った時の杖はしまい、代わりに、訓練用のものにも似た、地味で飾りのない杖を取り出す。

 後は、一応呪文書……、いや、魔法書を。


 それらを異空間収納アイテムボックスへと送ると、私は階段を駆け下り、キッチンへ向かう。


「あ、あの、フランシスさん?」

「ごめん、簡素なものになるよ」

「え、い、いや、それは良いのですが……」

「うん、ごめんね。知らないってことにして」


 クレアちゃんは困ったように視線を落とし、はい、と小さく呟いた。

 ごめんね。本当は、こんなことさせたくないけど。


(ロズを、連れて行くわけにはいかない)


 これは。私だけで、解決したい。

 ヴァレンティーヌさんは、とても優しい人だから。きっと、何か理由があるんだろう。

 でも、何かあった時。ロズだけは巻き込みたくない。嫌な思いをするのは、私だけで良い。

 だから、ごめんね。ロズ、貴女には黙っていくことにするよ。











 机の引き出しから、分厚い、硬い表紙の本を取り出す。

 パラパラとページを捲り、何も書いていないページを開くと、羽ペンを取る。

 一ページを埋めると、インクが乾くのを待つ間、別の本を取り出す。


(兄様……。私に、力を貸してね)


 パタン、と音を立てて閉じる。どうやら、インクも乾いた様だ。元あった場所に本を戻し、鍵をかける。

 椅子の背もたれに寄り掛かると、小さく軋み音を立てる。それを気にも留めず、手探りで宝石箱を取り出し、中からペンダントを取ると、そっと握り締める。


 これは、いつも、鍵付きの引き出しの中、綺麗な装飾が施された宝石箱ジュエリーボックスの中に入れている。

 私以外が触れられないよう、厳重に魔法をかけた物。


 ロズすら、このペンダントの存在は知らない。それほどまでに、秘密にして来た。

 そのペンダントを、今、自らの首にかけ。椅子から立ち上がる。


 窓から、涼やかな風が吹き込んできた。ローブを揺らすと、何事も無かったかのように静かになる。

 これが、最後にならないといいのだけれど。この部屋で過ごした、最後に。


(だとしても。後悔はしない)


 ヴァレンティーヌが、誤った道に進みかけているのだとしたら。命をかけてでも、止める。

 出会ってまだ数日の人間に、どうしてそこまでするのか。それは。


(ヴァレンティーヌさんは、私に似ているから)


 窓を閉め、部屋を出る。フードを深く被り、そっと呪文を唱える。


Invisible(透明化)


 闇に溶ける様に、私の体は透明になる。

 それから。魔法書を開き、小さな声で呟く。


「消音」


 呪文書は、魔法の呪文が乗っている本。では、魔法書とは。それは、難しい魔法を簡単な呪文で、魔力も少なく魔法を使えるようにする、魔力を持った本の事だ。

 高価なものが多いが、私は自作が多い。これだってそうだ。


 階段を駆け下り、玄関を出る。強い風で揺れるフードを、反射的に押さえる。

 どうせ見えないのだし、大した意味はないのだけれど。でも、もし、相手が能力を消すタイプの魔法を使える場合、姿を見られるかもしれない。それは困る。

 誰もいない大通りを駆け抜ける。走っているにもかかわらず足音がしないというのは、なんとも不思議な感覚だ。


 胸元で大きく揺れるペンダントを握り、スカルフィオッティ邸を目指す。


 さて、どうやって忍び込むか……。

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