第2話 ~少女救出~
それから少しだけ話をし、スカルフィオッティ邸を後にした。
噴水広場のほうへ向かっていると、一羽の、小さな鳥が手紙を咥えてこちらへ飛んでくるのが見えた。
私の肩にとまった小鳥から手紙を受け取る。封を切り、中身にさっと目を通す。
それから、小鳥と遊んでいるロズに声をかける。
「ロズ、依頼」
「ん、了解」
そう言って顔をあげた彼女は、先ほどまでとは別人のように真剣な眼をしていた。
「場所、お願い」
「煙霧の森。少女の悲鳴が聞こえたとか。探索願」
「ふぅん。何もないといいんだけど。急ごうか」
煙霧の森といえば、この街の東側にある、大きな森だ。
常に霧がかかっていて視界が悪く、その上とても広いこの森では、毎年多くの死者、行方不明者が出る。
危険な場所だからこそ、すぐに依頼が飛んでくる。本当に、何もなければいいけれど。
道を走り、街を出て。草原を駆け抜けると、霧のかかった森へと到着する。
ロズは左目を手で隠し、二度瞬きをする。それから、前を向いたまま口を開く。
「人と魔物を発見した。間違いないね」
「そっか。急ごう」
「うん、もちろんね!」
ロズが先に森へと入り、私はそれに続く。左目はまだ隠したままで、時折視線を動かしながら道を進んでいる。
そして、あるところで足を止めると、私のほうを振りかえり、頷く。
「この先。声が聞こえるでしょ?」
「うん。まだ死んでないよね?」
私の問いに、ロズは頷く。
「結構強いみたいね、この子。でも、直にやられる。時間ないからさっさと倒すよ」
「わかった。じゃあ、いつも通りで」
二人は同時に走り出す。この先は少し開けた場所になっていて、栗色の髪をした少女が、大量の魔物と戦っていた。
なるほど、これは流石に一人では難しい量だ。よくここまで持ったというべきだろう。
「一掃する。制御は任せた!」
「え、あ、ちょ、ロズ……。わかった、大きいの撃って!」
ロズが自由なのはいつものこと。それに私が振り回されるのもいつものこと。
私は両手を前に出し、タイミングを見極める。此処で失敗すれば、森が吹き飛ぶかもしれない。
「神々よ、われに力を与え給えっ! 太陽の力よ、我の元へ!」
ロズは地面を蹴り、大きく飛び上がる。それを見て、私は一度に魔力を放ち、ロズによる光の光線が敵以外に当たらないよう操作する。
猫のように着地した彼女は私にぱちりとウインクを撃つ。こちらまで駆けてくると、大好き、と言って抱きついてきた。
私も大好きだよ、ロズ。でも、この好きには、おそらく、大きな壁がある。
「あ、あの……」
その声に、私たちはお互いから目を離し、声のほうを向く。
魔物に襲われていた少女はいつの間にか近くまで歩いてきていた。
それを見て、ロズが私から離れ、少女のほうへ向かう。
「大丈夫? 怪我してない?」
「はい。助けていただき、ありがとうございました」
近くで見ると、とても可愛らしい少女だ。着ている服がぼろぼろで、髪も乱れていることを除けば。
少女の名はクレア。何故こんなところにいるのか問うと。
「行き場が、なくて。気付いたら、此処に来ちゃってて」
ある事情でこの場に一人になってしまい、途方に暮れていたらしい。このまま放っておくことなどできるはずがない。とりあえず、ロズの家に連れていくことになった。
ロズのお母さんがクレアちゃんを綺麗にしてくれるとのことなので、私たちは部屋で待っていることになった。
ロズの家、グリーンフィールドはこの街の長を務めている一家である。この街が花で溢れているのもすべて、この植物を愛するグリーンフィールド家によるものだ。
まあ、そうでなくても白魔族は基本、花が好きなのだけれど。
「ところでフラン、スカルフィオッティ邸、大丈夫だった?」
「う、ん。まあ、大丈夫」
そういうと、ロズはふぅ、と息を吐く。それから、優しく頭を撫でてくれた。
「でも、ちょっと疲れてるでしょ。顔色悪い」
「そう、かも?」
ロズは私に寄り添うように座り、私を自分のほうに抱き寄せた。良い香りが漂う。
そっと目を閉じると、ロズは小さく私の名前を呼ぶ。
「なあに?」
「今日は、振り回しちゃってごめん。辛かったでしょ?」
「そうでもないよ」
「そんなわけない。だって、全然喋らなかったもん」
別に、そこまで気を使ってくれなくてもいいのだけれど。でも、嬉しい。
私は、人が苦手だ。ロズ以外の人とは喋れない。目を合わせることすら難しい。
そんな私を、ロズはいつもフォローしてくれる。感謝してもしきれないくらいだ。
それに。
「実は、今日は、ちょっと、楽しかったんだ」
「ほんと……? なら、よかった」
多少のことなら、ロズがいれば問題ない。彼女が隣にいるだけで、どれだけ強くなれることか。
確かに、ヴァレンティーヌさんと一緒にいたとき、「初めまして」と「うん」くらいしか言っていないのは認める。それでも、少しは楽しかったのだ。
「ねえ、フラ……」
「お待たせいたしましたぁ!」
扉が開き、一人の少女が入ってきた。その姿を見て、思わず声を漏らす。
彼女の栗色の髪は驚くほど綺麗に整えられていた。まっすぐに切り揃えられていて、つやつやと光っている。
アイボリーのブラウスと茶色のジャンパースカートを着ているが、とてもよく似合っている。
胸元には緑色のリボン。同じ色のリボンで右側の、顔の横の髪が三つ編みになっていた。
「ど、どうでしょう?」
「可愛い……」
「あれれ、フラン、珍しいねぇ。人に此処まで関心を示すなんてぇ」
クレアちゃんはくるりと一回転して見せ、恥ずかしそうに微笑んだ。
流石、ロズのお母さんだ。最早、そこらの少女など相手にならないほど可愛い。いや、素質がよかったんだけど。
「ところでこの子、どうするの?」
「そうなんだよぉ。このままだと、見捨てることになっちゃうんだよねぇ」
「え!」
私が瞳を大きくすると、ロズはくすりと笑い、囁く。
「フランが引き取るなら、話は別だけどね」
「え、わ、私?」
まさか、見捨てるなんてできるはずがない。となれば、道は一つしかない。
だが、私は人が苦手なのだ。だから……。あぁでも、やっぱり無理だ。
「一時的に、なら、いい、けど」
「本当? 良かったね、クレアちゃん。仮だけど引き取り手が見つかったよ」
「良かったです……」
琥珀色の目を細め、安心したようにそう言った。
なぜか、とても目を引く笑顔だった。
「クレアちゃんって何歳なの?」
「十歳になったところです。えと、お二人は」
「私たちは十七になったばっか。たいして変わんないね」
寿命の長い白魔族にとって、これくらいの年数はほとんど変わらない。
百歳まではまだまだ子供。おそらく、私たち三人でいても、子供という一括りにされることだろう。
「そう、ですね。とても強かったので、その、もっと大きいのかと思っていました」
「いやいや。全然強くないよぉ」
此処までまともに喋っていない私に、ロズは呆れているようだ。
「あのさぁ、引き取るっていったじゃん? もうちょっと何かないの?」
「う……。えと、えと……」
確かにそうなのだが、今までほとんど人と関わってこなかった私にそれは酷なものだ。
「もう、それがフランらしいよ。可愛いなぁ」
「えっ、え? ロズ……。不意打ち禁止だよ」
「えぇー、思ったこと言っただけだよぉ。発言を禁止なんてできないよぉ」
「本当に自由だよね、ロズ……」
溜息をつくと、クレアちゃんが目に入る。そう、今はロズと話している暇はない。
口を開こうとするが、良い言葉が出てこない。こういうとき、今までの自分の行動を悔やむ。本当に。
「え、えっと、よ、よろしく、ね、クレア、ちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
「まあ、とりあえずはこんなもんかぁ。クレアちゃん、フラン、人見知りだから気をつけてやって」
「わかりました。えと、フランさんにロズさん、ですか?」
その言葉は、反射的に私たちの口を開かせる。言葉を放つのは、ほぼ同時だった。
「その呼び方は禁止」
そんなに怖い顔をしていたのか、クレアちゃんは目を見開き、ごめんなさい、と小さく謝った。
それを見て、我に返る。何をやっているんだ、私たちは。
「あ、ご、ごめんね! 私はローズマリー。こっちはフランシス!」
「ロ、ローズマリーさんと、フランシスさん」
「うん、よろしくね!」
クレアちゃんは少しだけ目に涙を浮かべていたものの、にこりと笑って頷いてくれた。
にしても、これは問題ありだな。なにかあっても、私では対処できそうにない。ロズのようにうまくやれる自信は全くない。
なんで引き受けるなんて言ってしまったのだろう。
(はぁ……。私、大丈夫、かな)
誰にも気づかれぬよう、そっと小さくため息をついた。
家に帰って。ただいま、と呟くと、返って来たのは静寂。
そんな事は、知っている。扉に鍵をかけ、鍵開け魔法をブロックする魔法をかけてから、部屋に入る。
真っ暗なリビングは、とても冷たい。肌を刺すような空気に、鼓動が早まるのを感じた。
私は急いでランプに火をつける。黄色い光が放たれると、少しだけ安心するから。
クレアちゃんを引き取るとは言ったものの、少しは準備が必要だ。
ということで、一度一人で帰ってきた。明日、引き取りに行くことになる。
まあ、準備なんてあってないようなものだけれど。一応、心の準備がいる。
この家で、ほかの人と暮らすことになるなんて思ってもいなかった。困惑どころの話ではない。
キッチンに向かい、適当な食材を取り出す。
出したは良いものの、結局面倒になってしまい、もう一度仕舞い直し、リビングの椅子に座る。
いつもそうだ。夕食の準備は、朝食の準備以上に億劫になってしまう。
夜は嫌いだ。いい思い出はないし、闇には恐怖を覚える。
この広い家に一人というのは、やはり、寂しいものがある。
特に、夜は。もう、何もしたくなくなってしまう時すらあるほどに。まあ、それも今日まで、か。
このまま座っていても仕方がない。ランプの火をランタンに移し、ランプを消すと、重い体を何とか起こし、階段を上がる。
二階の一番奥が、私の部屋だ。ランタンだけでは暗いが、ほかに明かりをつける気は起らなかった。
ドレッサーのからくりを解き、中から一枚の写真を取り出す。
一番大切な写真。二度と、撮ることの出来ないもの。
「……、馬鹿……」
思わず、言葉が零れ。静かに襟を濡らした。
水は、嫌いではない。私の家は、水魔法が得意な家系だ。
だからか、水が好きな私は、シャワーを浴びる事が結構好きだ。窓から差し込む眩しい朝日に目を細め、黙ってお湯を浴びていた。
朝は嫌いではない。朝日は気分を良くしてくれるし、暖かい光を浴びれば、恐怖も消えていく。
それに、もうすぐ彼女に会える。そう思うと、ほかにないくらい幸せな気分になれる。
昨日は結局、あのまま寝てしまったから。今シャワーを浴びている。
体を水が伝うこの感覚が心地よい。要らないもの、全て洗い流してくれる気がする。
だからこそ、つい、時間を忘れてしまうのだけれど。まあ、今日は時間があるからいいだろう。
「よし」
ロズの家に行かなくては。
「おはよう、ロズ」
「おっはよー、フラン! クレアちゃんなんだけどね、熱出しちゃった」
「噓。どうしたの?」
「ちょっと疲れちゃったみたい。夜には下がると思うから、夜まで家にいてよ」
あれほどの経験をすれば、疲れるのも当然だろう。
熱も大して高くないようだし、休めば治るとのことだ、心配はいらなそう。
夜までに家にいて、ということは、今日は1日中ロズの家にいられるのか。ロズとは少しでも長い間一緒にいたい。ずっと一緒にいられるなんてそれ以上のことはない。
では、今日は一体何をしようか。家の中でできるようなことか、あるいは……。
ふとロズのほうを見れば、彼女はにやりと笑みを浮かべていた。
なるほど、そちらか。ならば、全力でお相手しよう。
「ね、フラン……。久しぶりに、戦おうよ」
ロズの家の庭は広い。その上、対戦用のスペースまである。
家の中から見えるようになっているから、ロズのお母さんなんかはよく観戦している。
家の周りは、流れ弾を消す魔法が組み込まれているから危なくない。家が壊れることだって、まずない。
こんなもの、普通の家にはないから、ロズの家に初めて来た人は、この仕組みにたいてい驚く。
まあ、それほどお金持ちってことだ。それと、ロズのためになら何でもするいい家族だということもわかるな。
前を向くと、邪魔にならないよう、桃色の髪をポニーテールに纏めたロズと目が合った。
そういえば、こうやって対峙するのは本当に久しぶりだ。なんだかんだ依頼が多かったからかもしれない。
「フラン。久しぶりに本気で行くから」
「分かってる。加減しないけど、気をつけてね?」
「フランこそ。痛い目に合わない様に気をつけな」
そう言うと、ロズは不敵な笑みを浮かべる。
余裕ありげな、挑発するような笑み。実際挑発しているのだろう。だが、この冷たさといったら。普通の人なら戦意喪失するかもしれない。
「じゃあ、行きますか」
「油断しないでね。死ぬよ」
「分かってるって。フランの球は危ないからねぇ」
いつも通り、牽制し合いながら戦いの準備を進める。
ふと家の方に視線を向けると、クレアちゃんとロズのお母さんが見ていた。
あまり高い熱ではないらしいし、起きていても大丈夫なのだろう。
本当は寝ていたほうがいいと思うが、まあ、ずっと寝ているのは飽きるし。
と、いけない、戦いに集中しなくては。
「じゃ、いつも通り」
「うん、分かってるよ」
合図はない。開戦は、両方の魔力が最高まで高まった時。
動き始めは、二人とも一緒だった。
地面を蹴り、大きく跳び上がるロズ。私は逆に、後ろに下がっていた。
少し予想外だ。ロズはたいてい、いきなり仕掛けてくるのだが。
「力を貸してね、サラマンダー! 噴火!」
下から炎が噴き出してくる。が、雑すぎる。乱暴に炎を出現させるだけでは、私に敵うはずがない。
もっと複雑に組み込めば、打ち消しも容易ではない。が、この程度なら。
「赤い炎を打ち消せ! 水よ、現れよ!」
簡単に打ち消せてしまう。
大量の水によって炎は消える。だが、忘れてはいけない。ロズは今、空中に居る。
「炎の剣よ、此処に!」
紅蓮の剣を作ったロズが上から降ってくる。
上から剣を構えた人が降ってきた場合。避けるのは容易いことだ。空中の動きは限られる。
ただし、それは、普通の人の場合だ。
「壁よ、現れろ!」
ロズの場合、空中でも相当自由に動く。しかも、落下速度が速い。
普通の場合を想定して動けば、おそらく、間に合わない。
だから。避けるのではなく、防ぐ。
私の周りを透明な壁が覆う。壁にぶつかり、跳ね返されたロズは楽しげに口元を歪める。
くるくるとバック宙を繰り返し、トスン、と軽く着地。結構な高さがあったのだが。ロズの身体能力には、毎度驚かされる。
「さて、準備運動は終わったかなぁ?」
「ん、そろそろ良い感じ」
「そう。じゃ、行くよ?」
ロズはローブの裾を翻し、剣を降り降ろす。
基本、ロズは魔法も武術も全てをこなす。対して私は武術は苦手だ。剣を握って向かってきたら、私に勝ち目があるかどうか。
軽い足取りで私に近づく。速い。無駄な動きが無い分、速度が出る。
一瞬でリーチまで来てしまったが、何、心配する事はない。右手を高くに上げ、掌だけ地面を向ける。
「……召喚」
私の目の前に、剣を持った女性が現れた。ロズの剣をしっかりと受け止め、弾く。
背中から生える大きな翼を見れば分かるが、彼女は天使だ。
地面を蹴ったロズは、素早く天使に向かって剣を振り下ろす。
まあ、即席で召喚した天使だ、大した耐久力はない。寧ろ、よく剣を受け止めたというべきか。
その為、天使は此処でお別れのはずだ。次の魔法の準備に専念する。
「妖精たちよ、私の言葉を聞き届けて下さい。貴女達の力を借りたいと思います」
詠唱しながら、ロズの動きを目で追う。
ロズの剣が、天使を引き裂く。血の代わりに、純白の光が辺りに満ちる。多少の目眩ましにはなるか? いや。
「盲目ガード」
どうも、きちんと防がれているようだ。流石に、彼女もそこまで浅はかではない。
自分勝手で自由人、精神年齢の低いロズだが、そこはちゃんとしている。
「敵を倒す為に、私に力を貸して下さい」
しかし、一つ問題があった。ようやくロズは、私が長々と詠唱をしているという事実に気が付いた様だ。が、もう遅い!
「落雷!」
ロズに向かって、雷が落ちる。青白い光が、彼女を包む。
雷は高いものに落ちやすいという。そのため、このように開けた場所での戦闘の場合、目的の場所に雷を落とすのは容易い。
そのため、別のところに力を入れることができる。
さて、ロズはどうなった?
「甘いね。こんなもんで倒せると思ってた?」
「まさか」
ロズは怪我一つ負っておらず、ニヤリと微笑んで見せた。
確かに、ロズならこれくらいの魔法、防ごうと思えば防げるだろう。
ただし、これは、彼女にダメージを与える為の魔法ではない。
「っ?! 何、これ」
流石。良く気が付いたものだ。
あれだけ長々と詠唱したのは、事細かに設定を施す為だった。
今の雷が地面に落ちた時。そのまま消えてなくなるはずもないエネルギーは、辺りに散った。
元は私の魔力。自由に操る事が出来る。
目には見えないが、あれほどの雷が元なのだ、エネルギーは多い。少しでも当たれば、間違いなく感電するだろう。
此処は、私の世界。
「迂闊に動けないね……。困ったもんだ」
「どうする? 負けを認めても良いんだよ?」
「なんで? この程度で諦めたりなんてしない!」
ロズは飛びあがると、素早く呪文を唱える。
「温度よ、上がれ! 炎よ、進め!」
赤い炎が、私に向かって飛んでくる。
目に見えないエネルギーを、僅かな魔力の気配から感じ取っているようだ。だが、いつまで続く?
軽い足取りで炎を全て避け、辺りに散るエネルギーを、ロズに向けて動かす。
「っ! 囲まれたッ?!」
「終わりだよ、ロズ!」
ロズはキュッと固く目を瞑ると、一気に自分の魔力を解放する。
そう来たか。ロズの魔力に押され、エネルギーが霧散してしまう。
これを好機と見てか、ロズは素早く剣を作り上げ、私に向かってくる。
「風よ、起これ。暴風!」
しかし、だ。炎を纏わせた剣が仇となる。風に棚引いた炎は、自らに向かってくる。
熱い、と悲鳴を上げ、剣を取り落とすロズ。これで、ロズに武器はない。
「これで終わりだよ! 太陽光線!」
眩い光がロズを襲い。
彼女は、その場に倒れ込む。
「えっ、う、嘘、やだ、ロズ!」
揺さぶってみるが、起きそうにない。
少しばかり、力を込めすぎた。つい夢中になっていて……。
「ね、ねえ、ロズ?! ちょ、ちょっと、ねえってば!」