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駅の改札口を抜け、三十段くらいの階段を登り切った先、約60m離れた所に零也が通っている私立高校が見える。
ぼけっとしながら歩く零也の襟に誰かの手が伸びる。徐々に近づいてくその手に零也が気づく様子はない。
手があと少しで零也に届こうとした時だった。
突然、零也は振り返って手を掴み捻りあげたのだった。
「いたたたたっ!いたいっ!かんべん、ギブギブぅ!!」
「やっぱりお前か、安堂。」
手の持ち主は一人の少女だった。茶髪のショートに黒の瞳をし、156cmくらいの身長で元気に満ち溢れた印象の可愛い少女だ。
「か弱い女の子の手を捻りあげるなんて!」
「お前のどこがか弱い女の子だ。」
「ひどい。一条が冷たい……水輝師匠、助けて!」
少女が傍の人物に駆け寄り抱きつこうとすると、師匠と呼ばれた人物はさっと避けた。
「流和、いちいち抱きつこうとしないで。おはよう、一条。」
「京賀、おはよう。」
零也に挨拶をしたのはストレートの漆黒の長い髪に黒の瞳をし、凛とした雰囲気を身に纏う少女だった。
さらっと少女をスルーして挨拶をする二人を見て、安堂 流和はぶつぶつと呟きはじめた。
「くっ……やはり、二人は結ばれる運命なのか。無表情クール×無表情クールの組み合わせはなかなか無いけれ……いったあ?!」
「流和、次、それを口にしたら……」
「し、したら?」
「部活で、楽しいことが待ってるかもね。」
「ひいっ。お先に失礼します!……って、前に進めない?!」
安堂 流和は叩かれた頭を抑えながら逃げようとしたが、一条 零也と京賀 水輝はそれを許さなかった。
カバンを零也が捕まえ、流和の襟首を水輝ががっしりと掴んで動けないようにしたのだ。
「逃げたら、今日の部活がとっても楽しくなるぞ?」
「ふふふっ。」
「に、逃げません逃げません、絶対に逃げません!!」
そう、実は三人は同じ部活に所属しているのだ。
零也たちの部活に今年入った一年生は零也と水輝と流和の三人のみなので必然的に仲良くなり、駅から学校までの登下校は一緒。
そして毎朝毎朝、流和が零也にちょっかいを出すのもいつものこと。流和が零也と水輝に捕まるのもいつものこと。
「じゃあ、行くか。」
「了解。」
「うわわっ!ちょっと、放して!」
そして、流和が零也と水輝に引きずられるのもいつものことだ。
今日も、三人のいつもの朝が過ぎていくのだった。
ありがとうございました。
今回、登場した二人の女の子たち紹介
京賀 水輝
別の作品の主人公。
この話は彼女が異世界に巻き込まれ召喚される少し前の出来事。
安堂 流和
初登場。
彼女の名前は、折鶴夏葵様に付けていただきました。
折鶴夏葵様、ありがとうございました!