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魔法使いの3つの約束  作者: うえのきくの
15/17

修学旅行・1

 


 修学旅行当日。東京の空も沖縄晴れ!

 すっかり悩みもなくなってハイテンションのおれは、一ノ瀬との待ち合わせ場所に駆け出しそうな勢いで向かった。

 ……とはいえ、時刻は早朝5時デス。

 学校の最寄り駅から羽田に向かうリムジンバスが出ていたので、俺たちはそれを利用することにした。荷物が多くても乗り換え少ないしね。

 当然、同じことを考える奴等も多くて、一ノ瀬を待ってる間にも何人かの顔見知りに声をかけられた。


「……にしてもアイツ遅せえ」


 予定していた時刻のバスを一台見送って、次のを待っていると駅の方からヒョコヒョコと飛び跳ねる頭が見えた。


「遅せえよ」

「……ごめん。なんか、寝癖が……」


 昨日の今日で、なんか一ノ瀬をまともに見るのが恥ずかしい。それでもちらりと伺うと、なんかもうちょっと


「……なんだよ、そのかっこ」

「え?沖縄っぽくね?」


 黄色のシーサー柄のアロハに白いハーフパンツにビーサンに麦わらって


「それ、向こうに行ってからでもよくね?」

「え、気分だし」

「今気温20℃だ。おれは長袖はおってちょうどいい」

「……気分なの!」

「………………っく……ふはっ」


 堪えきれなくなったおれは死ぬほど笑った。久しぶりにこんな笑ったな、と記憶をさかぼれば、ああ、おれ一ノ瀬と話してなかったんだ。俺が一番笑えんのは、一ノ瀬といるときで、おれが一番楽しいのは一ノ瀬と話してるときだ。


「あ"ーー、苦しい。勘弁してくれよ」

「別にそんなつもりじゃ……」

「あ!一ノ瀬だー、おっはよー」


 後ろから女の子のかたまりがやって来ていた。一ノ瀬のクラスの子達だ。


「なにこのシーサー、ウケるー!」

「あれ、一ノ瀬もバスでいくの?あたしたちも。ね、一緒いこ?」

「あ、あ、うん、あの。」


 一ノ瀬はおれの方を振り返り、困った顔をしている。

 困ってるのはおれの方だ。今、最高に凶悪な顔をしているだろうと容易に想像がつく。

 友達でいるって、決めたんじゃないか。友達でいるってのはこういうことだ。

 きっとこの中に、一ノ瀬を好きな子がいる。それに一ノ瀬が気がついたら、付き合ったりするかもしれない。

 それでもおれは、黙って見ていなくちゃいけない。彼女を自慢されたら、羨ましそうな顔をしなくちゃいけない。

 いつか、いつか結婚式の招待状なんてもらった日には、笑っておめでとうって言いながら、ご祝儀を包んだ上に親友としてスピーチなんかをしなくちゃいけない。

 俺が選んだのは、そういうことなんだ。


「ねえ、一ノ瀬。一緒に座ってもいいー?」


 女子の一団はまだ一ノ瀬に群がっている。おれは、めんどくさそうな顔ををして手の甲で虫でも払うようなしぐさをして見せた。


「朝っぱらから騒がしい。離れて座れよ」

「……わかったよ……」


 一ノ瀬は渋々おれから離れて後ろの方に進んでいった。やつらが席に収まるのを見ておれも前よりの席に腰かけた。

 バスが動き出すと後ろの方から高い笑い声が聞こえた。おれは、腹の奥に冷たい水が落ち込んだような苛立ちに、耳をヘッドフォンで塞いだ。

 爆音でかかる曲が一ノ瀬も好きだったことを思い出せば、後ろに飛んで行く景色も、これから行くはずの青い海も何が楽しみだったのかもわからなくなってきた。


「ちぇ、一ノ瀬のアホ」

「一ノ瀬くんはアホだったの?」

「うわっっっっ!?」

「おはよう」

「か、川崎?」


 いつの間にか隣に座っていたのは同じクラスの川崎だった。おれのヘッドフォンの片側を持ち上げて、朝にふさわしい晴れ晴れした顔をしている。

 長年の呪いがすっかり解けて、ずいぶん明るい雰囲気になった。元々明るい性格だったと森本も言っていたがそれが戻ってきて、修学旅行のグループを作るときや、見学コースを決めるときも楽しそうに話し合っていた。


「取られちゃったの?一ノ瀬くんのこと」

「ばっっっか、そんなんじゃねえよ」

「寂しいくせに」

「……」


 おれはヘッドフォンを元に戻し、音量を少しあげた。もう、バスの音も川崎の声も聞こえない。目を閉じて景色も見えないようにした。




「着いたよ、伊澤くん」

「……ん、んあー」


 目が覚めるとおれは川崎に肩に凭れていたようだ。


「……わりい……つか、起こせよ」

「はは、あんまり気持ち良さそうだったし、森本くん乗ってなかったし」

「ふはは、サンキュ」


 立ち上がり手荷物を下ろすとき後部座席が目に入った。一ノ瀬たちはもういなかった。


「……後ろに乗ってたA組の奴らは?」

「ん?少し前に降りてったよ。一ノ瀬くんには伊澤くん起こしていくからって言っといた」

「……ふーん」


 一緒に行こうって、起こしてくれればよかったのに。


 おれは川崎の分も荷物を下ろしてやると、空港の集合場所に急いだ。



「アチい……」

 気温は32℃。カラリとはしているが焼けるように暑い。

 約6時間後、俺たちは真夏の沖縄の空の下にいた。

 はしゃぎまくり空港内で奇声をあげていた森本たちが松島に怒鳴られている。

 バカめ。

 2台向こうに一ノ瀬が乗るA組のバスが止まっている。一ノ瀬がさっきの子たちにまだ囲まれたまま乗り込んでいくのが見えた。


「なんだよ……」


 飛行機はクラス単位で座る場所を決めているし、バスもそうだ。だから、行きの時だけでも話したりしたかったのに。

 さっきは、仕方ないって諦めることができたのに、今の苛立ちはなんだろう。

 一言も声をかけられずに、一ノ瀬が行ってしまった。




「はいさーい。飛行機ウーかがやたんかみ?わんわクリから5日間んなぁみーちぬガイドを勤める喜友名美登里やいびーん。ゆたしくおねがいさびらー」

「………………」

「あ、あれ?はいさーい?」

「は、はい……え?」


 いきなり陽気なテンションでバスの前に立ったガイドさんが、日本の言葉とは微妙に違う口語で捲し立て、バスの中が妙な空気に包まれた。


「あはは。『はいさい』はうちなーの言葉ではこんにちはって言う意味です。こっちに滞在中お店の人とかに使ってみてねー?ちなみにうちなー、は沖縄っていう意味ですよ?」


 やっとわかった、それでも不思議なイントネーションの日本語の意味に(なにげに失礼)全員笑顔になった。そういえば沖縄の人が街頭インタビューされてるテレビとかって、字幕が入ってること多かったかな。

 なるほど、リアルは確かにすごい。


「では改めましてこんにちは。飛行機はいかがでしたか?私はこれから5日間皆さんのガイドを勤める喜友名美登里です。よろしくおねがいします。今日はこれから首里城へ向かいます。そのあとはひめゆりの塔、平和祈念資料館へと向かいます。沖縄の歴史をよく勉強していってくださいねー」


 わー、と拍手が起こってガイドさんは照れたような顔をした。おれも笑って手を鳴らしながら、頭では一ノ瀬は誰の隣に座っているんだろうと考えていた。


 バスは空港を出てすぐに海底トンネルの入り口に差し掛かった。ガイドさんからトンネルについての説明があり、海の中を潜っているという興奮からか、バスの中は地鳴りのような野太い声があちこちから聞こえた。


「お疲れー、伊澤、飛行機怖くなかったー?」

「あはは、すぐ寝ちゃったし」

「うはは、それ正解!」


 笑っているうちにバスはトンネルに吸い込まれていく。800メートル足らずの海底の旅、といっても、海の底が見られるわけではないのだけれど。

 数百メートル進んだだろうか。バスが速度を落として止まった。

 なんだなんだと回りもざわついている。前を見るとB組の連中が乗っている二号車の影になってそれより前の様子はわからない。


「……はい、はい、わかりました……」


 どこかに電話をしていた松島が立ち上がり後ろまで通る大きな声で言った。


「いま、二号車と連絡を取ったところ前方で事故が起きたらしい。警察車両が来るまでここに待機します。ただし、万が一の時は徒歩で避難の可能性もありますので、各自避難の邪魔にならない貴重品をもって着席で指示を待ってください」


 二号車と連絡って……え、じゃあ……


「先生!」

「ん、なんだ伊澤?」

「い、一号車は……?」

「……連絡がつかない。もしかしたら、飛行機から降りて電源を戻していないのかもしれないんだが……いま、バスの会社の無線で連絡してもらってるから」


 松島がそういい終わったかどうか。どん、と地面が唸るような音がして火柱が上がった。トンネルの天井をなめるように一瞬。

 運転手さんが立ち上がり松島に言った。


「先生、ここは避難しましょう」

「……はい」

「じゃあ、皆さん。ここからは私が指示を出します!昇降口を開けますので前から順番に降りてください。降りたら先に降りてもらうガイドさんに従って、非常通路を通って外に出ます。まだ入り口付近です。慌てないで行動してください!」


 ドアが開いたら昇降口にクラスメイトが並ぶ。女子を先に行かせてやれと誰かが言う。隣の森本が何か言っているけど聞こえない。

 何台前で事故が起こってる?どうして一号車とは連絡がつかない?

 おれは、自分が呼吸をしているかどうかさえわからなくなっていた。


「いくぞ、伊澤っ!しっかりしろっ」


 見ると森本がおれの肩を痛みを感じるくらい強く握っていた。


「さあ、立てよっ!行くぞっ」

「あ、あ……」


 膝が笑う。手が震えている。一号車はどうなった?一ノ瀬は?一ノ瀬は無事なのか?

 森本がなんとかおれを引っ張って昇降口まで連れてきた。下ではガイドさんと松島が待っていた。


「さあ、こっち!この通路を通って外に出たらそこで待機していて!」

「はい!行くぞ伊澤!」

「……せ、先生……一号車は……?」

「……っ、いいから、急げ!」


 その言葉を聞いたとき、おれの中の全部のストッパーが飛んだ。

 今まで震えて言うことを聞かなかった足が腕が、一気に力を吹き返し、おれをトンネルの奥の方へ走らせた。


「伊澤!」

「な、なにやってんだ!」


 松島の声も森本の声も、聞こえなかった。ただ、とにかく、一ノ瀬のところへ行かなくては。

 久しぶりに走った。速くなんて走れない。あのときのおれが見たらきっと、腹を抱えて笑うような走り方。膝は泣きたくなるくらい痛いけど構わない。もう二度と走れなくてもいい。いま、一ノ瀬のところに行かなくちゃ。


 ドン


 二号車の横を通りすぎても一号車は見えてこない。それなのに、その向こうからまた爆発音がして炎が見えた。


「あ……」


 足がすくんで膝が折れた。

 一ノ瀬に、何かあったらどうしよう。

 どうして、朝、あの時に一緒に行こうって言えなかったんだろう。なんで、めんどくせえみたいな態度をとっちゃったんだろう。

 もう、会えなくなったら、会えなくなったらどうしよう。


 おれは、両手を地面につけた。

 願いたくて、願いたくて、それでもやっぱりできない。

 目から落ちた涙が指に触れ、バッとそこから手を離した。




『このとんねるのひとだれもたすからなくていいからいちのせをたすけてください』



 一ノ瀬がそれを喜ぶわけないってわかってる。

 そんなことしたら、アイツはこの先ずっと苦しむことになる。残される人の気持ちなんてひとつもわからないけれど、それを一生押し付けることになる。

 そして一ノ瀬は気づくんだ。誰がそんなものを背負わせてしまったのかを。

 それでも、それなのにおれは一ノ瀬の無事しか祈れないなんて。







ガイドさんの台詞は、沖縄弁変換サイトに丸投げしたので間違ってたらごめんなさい!

詳しいかたいらしたら、添削してください!

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