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魔法使いの3つの約束  作者: うえのきくの
10/17

孤立するクラスメイト・2

 


「もしかして、犯人松島とか」


 いつものように放課後の帰り道。さすがに気持ちが悪くなったおれは、図書室に誰もいなくなると鞄を抱えて陸上部が練習をしているグラウンドの脇で一ノ瀬が練習を終えるのを待っていた。


 時々、こっちを気にしている一ノ瀬を見ないふりで借りてきた本を読む。

 不意に中学の時のことを思い出す。

 グラウンドの砂ぼこりの匂いがそうさせたのか、感傷のような記憶の欠片。

 おれも、あの事故さえなければ今頃一ノ瀬たちと一緒に走っていたんだろうか。夕暮れまで砂埃にまみれて、タイムを計り合って笑って。

 もしもなんて言葉は嫌いだけど、そんなことを考えてしまう。


 一ノ瀬の練習が終わって帰る道すがら、松島とすれ違ったときの話をしてみた。

 わかっていることは二つ。去年A組には川崎がいた。そして彼女は吹奏楽部だ。

 そして、松島はおれに首を突っ込んでもらいたくない。そこで、一ノ瀬が考えたのは松島犯人説。


「川崎との関係はちょっとわかんないけど、触れられたら困る本人が釘を刺したっていうことじゃね?」

「まあ、川崎の事は偶然耳にしたから関係があるって勘違いしてるだけかも知れないけど。それに、おれには川崎との接点はないし……」

「えー、最近伸、しょっちゅう川崎に声かけてるじゃん」

「そうか?」

「ほら、さっきだって、昼に行く前にさ」

「あー、でもあの程度だぜ?」

「それが……え、まさか。」

「まさか?」

「伸、呪われてる、とか?」


 馬鹿馬鹿しい。呪いとか、祟りとか。世界に何人いるのかは知らないけれど、魔法使いの端くれとしてそれはないと思う。

 つまり必ず誰かの悪意が働いているはずなんだけど……

 まあ、そんなに大袈裟な話でもないだろう。


 でもその油断に泣きを見るはめになる。




「腹へった……」


 晩飯はいつもだいたい7時頃。うちは母親が仕事をしているけれど夕方には帰ってくるのでその時間が崩れたことはない。だから、そのあとちょこっと今日の復習をして、冒険に旅立ってから数時間もたつと腹が減ってくる。ゲームの中のやつらは一晩眠ればライフが回復すっかもしれないけれどこっちはそういうわけにはいかない。


「行くか……」


 生ぬるい空気の中外に出る。目指すコンビニの前で川崎を見つけた。


「おーい、また会ったな?」

「……伊澤くんはまたゲーム?」

「男は旅する生きもんなんだって」

「……そうなんだ」

「そこは突っ込めよ」


 川崎の手にはすでにビニールが下がっていて、やっぱり普通の買い物だ。そんなの昼間のうちに済ませればいいのに。女の子なんだから。


「なあ、ちょっと待ってて。おれ買い物終わったら送ってくから」

「いいよ、別に」

「すぐだから、中で待ってろよ」


 ひょいひょいとコンビニに飛び込んで、おれはスナック菓子とコーラを買う。ちょっと迷ってカルシウム強化の牛乳も買った。


「お待たせ」

「べつに、いいのに」

「さ、帰るぞー」


 お互いのビニールをガサガサいわせて夜の道を歩く。川崎が戸惑っている空気はわかるけど、なんか、気になるんだよ。


「なあ、余計なお世話かもしてないけどさ。そんな緊急じゃない買い物なら、学校の帰りとか休みの日とかにしたらいいんじゃん?こんな遅くに家の人だって心配するだろ?」

「……だって」

「ん?」


 空気が揺れる音がした。川崎は気づかない。気配の方へ体を向ける、背中に川崎を隠した瞬間。


「キャーー……っ!」


 川崎の悲鳴が闇に走った。おれは頭に痛みを感じうずくまる。目の前を転がるコンクリのかたまり。無意識にそれを手繰り寄せた。


 暗くなる視界、泣き叫ぶ川崎の声に紛れてに鈴の音が響いた。




 あんなもんでぶん殴られて、この程度の怪我ってちょっと笑い話になるかもしれない。見舞いに来てくれた誰もが、俺の瞬発力とかじゃなくて相手がよっぽどへなちょこだったんだろうって笑うんだけど。


「わかったんだろう?犯人誰かって」


 夕方になって見舞いに来た一ノ瀬が俺のそばに丸椅子を引き寄せて座りながら小声でささやいた。

 あの、背中を触られちゃって身悶えてから二人で密室とか少し緊張するけれど仕方ない。

 おれは夕べ、といっても日付は今日。暴漢に襲われて倒れ、川崎が呼んでくれた救急車で病院に運ばれた。すぐに検査が行われたけれど、頭っていうこともあるし翌日にさらに精密な検査をしましょうと入院した。

 すぐに、うちの親や川崎の家の人も来てくれて、川崎は無事に家に帰れたはずだ。おれの頭も異常ないみたいだから明日の朝には退院できると言われた。


「しかし、お前冷たいなー。一番に見舞いに来てくれると思ったのによ」

「お前が調べてほしいことがあるって言ったんだろっ!」

「そうでした。で、どうだったんだよ?」


 一ノ瀬に頼んだことは3つ。吹奏楽部顧問、八木について。

 過去、うちの学校で怪我人が出たとき、それを行える可能性奴にがあったか。

 吹奏楽部部員の中で、彼の行動をおかしく思っているやつはいなかったか。

 彼の学生時代の運動経験。この3つ。


「まず、八木と怪我をした部員のその日の行動はずっと一緒、か」

「うん。ちょうど地区予選の練習を集中でやってて、朝から晩まで一緒。怪我ってざっくり聞いてたんだけど一人はどうも飲み物になにか入ってたらしくて、急に腹痛を訴えて、もう一人は上履きの中にカッターの刃みたいなものが仕込んであったって」

「う、わー……」


 背筋がゾッとするぜ。なんなんだよ、こいつ。


「ちなみに、伸が缶コーヒーぶつけられたときも、誰もどこにいたか知ってるやつはいなかった」

「そうか」

「それから、伸の言う通り部活中は居眠りしてることも多かったって。早く帰っちゃうこととかも結構あって。真面目じゃない訳じゃなくて、ちゃんとしてるんだけどなんか不審な感じだったみたい。……あと……川崎は贔屓されてたっていう奴もいた。」

「贔屓?」

「うん、特別練習をよく見てやったり。あいつ、部活でも孤立してたみたいでパート練習のときも一人で誰とも一緒にしてなかったんだって。だから、見かねてって感じだとは思うんだけど、人によっては贔屓だって」

「ふうん」

「スポーツは特にしてなかったって。ずっと文化部」


 コーヒー缶は偶然か。まあ、当たらなくてもあんなものが自分の方に飛んできたら恐ええな。


「なんで急に、八木?」

「見えちゃったんだよ、俺を殴った石ころから」


 あの時、とっさに身をかわし力任せに殴られることは避けられたから、すぐに意識を失うこともなかった。鈴の音が聞こえた気がして目の前に転がった血のついたコンクリート片をつかんだ。


 ────おれを殴ったのは、誰だ!────


 目の裏に浮かんできたのは、吹奏楽部顧問の八木。おれたちにとっては英語教科担任でもあった。


「夜のコンビニで、川崎に会ったんだ。二回。例えばノートとか生理用品とか緊急に必要なものならわかる」

「おまっ……生理用品とか言うなよ……」

「黙ってろよ」


 なにこれ?プリンなんか買ってきてくれたの、一ノ瀬。ありがたく蓋をとってごちそうになる。

 うまい。

 そのプリンをごっくんしてからスプーンを一ノ瀬に突きつけてオレは続けた。


「だけど、あいつの袋の中身は明日でも間に合うようなもんばっかだった。女の子が夜中にわざわざ出掛けて買わなきゃいけないようなものなんてなんにもなかった」


 つまり。

 川崎には、夜中じゃないと買い物にいけない理由があった。みんなが寝静まって、誰にも会わないような時間帯じゃないと外に出れれない理由。


「ストーカー……?」

「そう、恐らくそれが誰かまではわかっていない。吹部の誰かじゃないか位には思ってるかもしれないけど」

「どーすんの、これから」

「そりゃ、しっぽ掴まなきゃ」


 それにしてもノープランなんだ。

 犯人は間違いなくわかってるんだけど、なんの証拠もない。

 おれはベッドに寝転がって天井を見つめた。

 耳を済ましてみたけれど鈴はならない。使えるものはみんな使って、八木を追い詰めたい。


「冒険、しますか」


 失敗してもいいか。ゲームの勇者は命がけで怪物と戦ったりしてんだもんな。

 でもまあ、丸腰でいくはずは、ないけどね。


 退院した朝、一ノ瀬から職員会議があるらしいことがメールで来た。

 おれは即効メールを2、3打ち学校へと走っていった。


 飛び込んだ教室は一時間目から自習になっていて、各々雑誌を広げたり携帯をいじったりしていた。おれは一ノ瀬に目配せをすると、職員室へと急ぐ。


 中では今回のおれの事故が、以前の生徒の傷害事件となにか関係はないかと話し合いがなされている、はずだ。

 恐らく何人かは面倒だっていう理由もあるだろうし保身のために通り魔的犯行だと主張しているだろう。それも、予想の範囲内。


 失敗したときのことは、考えないでおこう。

 予想よりもかなりメンタル強い奴で、しらを切られるかもしれない。そうなれば、証拠のないおれには勝ち目はない。


 だけどさ、だけど、川崎のここ数ヵ月を考えてみろよ。本人に落ち度があるならいい。でも、なにも悪くない彼女を人の恐怖を操ってひとりにして、自分だけは優しくして囲い込もうとしてたんだろ。そんなの許されるわけない。


 深呼吸して職員室のドアを開ける。中の視線が一斉におれの方を向いた。

 松島を見る。眉間にぐぐっと皺が寄る。

 深入りすんなって言われてたけど。向こうから来ちまったもんは仕方ないだろー。おれがしたことはクラスメイトの親切の範囲は越えてないと思うんだぜー。


「聞いてください。川崎はストーキングされていました。昼間には恐くて買い物にもいけなかった。彼女は犯人は近くにいると思っていたけれど。確信はなかった」


 職員室をぐるりと見回す。八木はおれの眼を見ない。


「警察には言わなかったけど、犯人の腕を引っ掻きました。学校の関係者全員の腕を見せてもらえば、おれを殴った奴に当たると思います」

「関係者全員を検査しろって言うのか?プライバシーの侵害で学校がうったえられるわ!」


 急に八木が席を立ち、おれを怒鳴り付ける。おれはそれを受けて冷静にもう一つ爆弾を落とす。


「もうひとつ、身長は俺より高く大人の男だったと思います。だから、先生たちの腕を見せてもらえばおれも間違いだってわかるんですけど……おれ、証拠になると思ってあの日入院先で爪を切ってとってあります。警察の人に言ってDNA鑑定してもらえば犯人がわかると思うんです」


 八木がさっと手首を隠した。引っ掛かれたかどうかなんて自分が一番よくわかっているだろう?おれにそんな暇、なかっただろ?

 もちろん、そんなことはしていない。でも、八木を動揺させるには十分な仕掛けだったみたいだ。


「伊澤……どうして犯人が学校の中……というよりこの中にいるって言う言い方をするんだ?」


 ナイス、松島。

 ここに乗り込む前、メールをしたのは一人は松島。おれが話したいことがあるからもし職員室におれが行ったら、話を聞いてくれ、と。まさか、職員会議に乗り込むなんて思ってはいなかったと思うけど。

 それをいいことに、おれはとどめを刺す。


「だって、おれ見ちゃったんだもん。犯人の顔。巻いてたタオルがずれて、見えちゃったんです」

「タオルなんて巻いてねえよっ!」

「……」


 バーカ


 知ってます。マスクでしたよね?




 そのあとは一ノ瀬にメールで頼んでおいた、川崎を始め怪我をさせられた生徒を職員室に投入し、言い逃れする隙を与えず精神的に追い詰めてやった。被害者の顔を目の前に自己弁護ができるような厚かましい奴が先生じゃなくてよかった。



「乗り込んでくかね、普通」

「まあ、犯人がわかってたし?かといって証拠って言われるとなんにもないしね。警察に言っても困らせちゃうだけだしね」

「だからって……」


 あれから学校の先生たちが八木の事を絞り上げ、吹部の生徒に対する暴行と川崎に対してのストーカー行為について認めさせた。そのあと校長が警察に連れていった。


 当然の事ながら学校は上へ下への大騒ぎになった。教師の歪んだ恋情の果てのストーカー行為と、一方的な嫉妬からの傷害事件ではそれは、どこの新聞もテレビ局も喜んで取材をするだろう。

 たった一人の自分勝手な男の恋心がこの先数年の学校の信頼を失墜させた罰は重い。


 それに。


「ほんとに、転校しちゃうの?」

「うん。みんなに悪いのは先生だから気にするなって言われたんだけど、やっぱりみんなの怪我の原因が自分だったってわかったら、平気な顔して一緒にいられないよ」


 なにも悪くない川崎の人生を変えてしまった。

 彼女の近くにいたクラスメイトや部活の仲間に歪んだ嫉妬を向け怪我をさせ、不安感を植え付けた。川崎はそれに対して罪悪感を抱いていた。


 話を聞いたとき、おれはそれも仕方ないのかなって思ったんだ。心にしこりが残ってれば仲良くなんてできないのかなって。

 でも、一ノ瀬に言われたんだ。


「俺たちまだ17とか8なんだからさ、どこででもやり直せるとは思うよ。でもどこでもやり直せるっていうことはここでもいいんじゃん。これからイベントもあるのにさ、他所になんていかなくてもいんじゃないかなあ」

「一ノ瀬って優しいのな」

「ばっっっ……何言ってんだよ!」


 本当に一ノ瀬は優しい。

 優しいだけじゃなくて強い。

 誰かのことを考えて、辛くない方を選ぶことは誰でもできる。でも、辛いかもしれない方を選ぶとき、それは一緒に乗り越える覚悟があるときだ。

 きっと一ノ瀬は川崎が回りに馴染む手伝いをするだろう。本人はそうと気づいていないかもしれない。

 部活中に回りを知らずリラックスさせるように、川崎にも手を伸ばすだろう。

 それを、気負いなくやってのける一ノ瀬をとても好きだ。



 転校の手続きなどはしていなかったから、みんなの説得で川崎はここに残ることに決めた。一緒に修学旅行も文化祭も出来るんだ。なんか嬉しい。


「それでね、転校するなら打ち明けちゃおうって思ってたんだけど……」

「え、なに?川崎」


 珍しく一ノ瀬がいない昼休み。そのうち来ると思うけど進路のことで担任に呼ばれているらしい。

 川崎は、何やら瞳が潤んで困った顔をしている。

 ……もしや、告白?KOKUHAKU!?

 伊澤 伸初めての春ですか!?


「あの……森本くんが二年の時から好きで……伊澤、仲良かったよね?彼女とかいるのかな?」

「……や、知らねー」


 も、森本……

 なんだよあいつ、モテないオーラはフェイクかよ!!


「意地悪言わないで教えてよ!」

「越智に聞けばいいよ。あいつらも仲いいし。」


 期待をさせて落とした罰だ。修羅場になってしまえ!



「せんせー、ご迷惑お掛けしました。」

「ほんとだよ!職員会議に乗り込んでくるなんて聞いてない!」


 あんな騒ぎがあったって気のせいかと思うくらいの普段の顔を取り戻した職員室。

 取材や警察の家宅捜索などがあって立ち入り禁止になっていた。

 松島は渋い顔で文句を並べるけど、おれとしては感謝しかない。

 今回の件についてはね。


「で、先生は何か知ってるの?」

「ん?なんのこと」

「おれの……こと?」

「……意味がわからんな?」


 職員室の自席に座って、椅子をギシギシと鳴らしている松島。机に肘をついて、おれを見上げた。


「だって、深入りすんなってって忠告してくれたでしょ?」

「したっけ、そんなこと?」


 まあ、いいか。

 本当は敵か味方かわからない松島が恐くはある。

 でも、援護してくれたしね。


「ん、じゃあ、いいや。さよならせんせー。」

「おう、気を付けて帰れよ。あんまり無茶すんなよ?」


「……はーい」


 やっぱり首をかしげる。

 松島っていったい何者なんだろう。








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