表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

はなばたけ

 森に続く小道を独りでしばらく歩き、王女は森の入り口にたどり着きました。昼間なのに森の中は薄暗く、いまにも恐ろしい怪物やなにかが飛び出してきそうです。

 王女は震える足をむりやり引きずるようにして、森の奥に少しずつ進んでいきました。

 木がザワザワと揺れるたび、王女は耳をふさいでしゃがみ込み、目の前を動物が走り去るたび、目を覆ってしゃがみ込みました。

 そうしてどれくらい歩いたでしょう。

 ジャックはまだ見つかりません。名前を呼んでみましたが、その声に答えるものはいませんでした。

 やがて、ずっと歩いてきた一本道の先に、明るい光が見えてきました。王女は嬉しくなって、思わず走り出します。

 さえずる小鳥の声。

 甘い蜜の匂い。

 花から花へ忙しそうに飛び回るミツバチやチョウたち。

「まあ!」

 王女の目は驚きで、思わず丸くなります。だって、驚かずにはいられません。そこは一面に広がる広い広い花畑でした。

挿絵(By みてみん)

 王女はこんなに広くてきれいな花畑を、いままでに見たことがありませんでした。王女の立っている小道は、この花畑の真ん中を真っすぐ突き抜けています。

 王女が歩いていくと、左右から甘い花の香りがして、まるで花の海の中を歩いているみたいでした。

「誰かを捜しているの?」

 下から声がしたので王女が下を見ると、そこにいたのは白くて小さくて赤い眼をしたウサギでした。ウサギは丸い目をパチパチさせて、じっと王女を見ています。

挿絵(By みてみん)

「ええ、ジャックというカナリアを捜しているの」

 王女は、いままでウサギに話しかけられたことなどなかったので、とてもドキドキしながら答えました。それにもしかしたら、このウサギがジャックの居場所を知っているかもしれません。

「ふーん、カナリアなんて知らないよ」

 ウサギはそう言い残すと、さっさと行ってしまいました。王女はがっかりしてまた歩き始めます。

 風がハミングをして花を揺らすたび、王女の金色の髪もふわりと揺れて、花の首筋をくすぐります。

「長い髪のお嬢さん、どこへ行かれるのかね」

 突然聞こえてきた声の主を捜そうと、王女はきょろきょろと辺りを見回しました。

「違う違う、こっちだよ」

 その声は、王女の顔の近くにある花から聞こえてきます。

「花が言葉をしゃべられるなんて!」

 王女は大変驚いて、思わず大きな声を出してしまいました。

 声が聞こえてきた花を不思議そうにのぞき込むと、そこから緑の幼虫がひょっこりと顔を出しました。

「違う違う、無口な花がしゃべるはずないじゃろう。あいつらの無愛想さと言ったら、かじられてもだんまりさね」

 緑の幼虫は退屈そうにあくびをしながら、ぐるりと辺りを一周して葉っぱの上にあぐらをかきました。幼虫の側にある葉っぱは、どれもあちらこちらが少しずつかじられています。

「おしゃべりな方なのね。あなたはカナリアのジャックを見かけなかったかしら?」

 王女が尋ねると、幼虫は目の色をくるくる変えて、黄色い角を出しました。

「お前は鳥の仲間か! 鳥はわしらを喰いやがる、そんな奴らなんぞ知るか。さあ、あっちに行った行った!」

 幼虫は王女を大声で怒鳴りつけ、すぐに葉っぱの影に隠れて見えなくなってしまいました。王女はまたがっかりして、今度からは話し相手の機嫌を損ねないように、慎重に話をしようと思いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ